私たちの生活の基礎となってきている機器・技術、とりわけグリーンテクノロジーとデジタルテクノロジーが特定のレアメタルに依存しているが、その採掘・精錬の過程で甚だしい環境汚染を生じており、アップストリームを含めるととても「エコ」とは言えないこと、その産地が中国を始めとするごく一部の国に偏在しており、産業的にも軍事的にもさまざまなリスクを抱えていることを指摘する本。
従来の酸化鉄を用いた磁石(フェライト磁石)より遙かに強力なレアアース磁石が開発されて同じ磁力を得るのに100分の1のサイズで可能になったことから軽量化・小型化競争が進み、iPhoneなどさまざまなテクノロジーにおいて、レアメタルは必須のものとなっているが、その採掘・精錬の現場では、有毒物質や放射性物質を含む大量の岩石破砕廃棄物、精錬に使用される大量の水と酸(希硫酸、硝酸など)による汚染が避けられず、クリーンなイメージのハイテクノロジーが、中国やアフリカの環境基準が低く労働力や人命が安い地域の環境汚染に支えられて存在していることが、前半で語られます。そういえば、1980年代にマレーシアで放射能汚染が問題になった三菱化成の子会社も、アジアレアアース(ARE)というレアアースの精錬を行う企業だったということを思い出しました(この本の第2章の注53:238ページにも登場します)。
製品の製造だけではなく、デジタルツールの使用による環境負荷も指摘されています。電子メールは送信から受信まで「1万5000キロメートルを駆け抜ける」「添付アイテムのついた1本のメールは低消費電力の電球の1時間の使用に相当する」「毎時間、世界中で100億本のメールが送られると『50ギガワット時となり、これは15の原発が1時間に生産する電力に当たる』。中継されるデータを管理し、冷却システムを機能させるために、データセンター1つだけで人口3万人の町が必要とするエネルギーを毎日消費する」のだそうです(51ページ)。
現代のテクノロジーと私たちの生活は、一見クリーンでありまたクリーンが謳われていても、それは環境負荷/環境汚染が見えない地域に移され/隠されているだけで、虚妄だという指摘ですね。どうすればいいのかは難しく悩ましいところではありますが。
後半は、現代の産業と社会に必須の資源となったレアメタルの多くを産出する中国がレアメタルのOPECとなって、その価格や輸出量を支配・操作して技術を手中にしハイテク製品の製造工程をも支配し、軍事的にも優位に立つべく立ち回っていることを指摘し、欧米が対抗戦略を持つべきことを論じています。
なかなかに悩ましい問題提起の多い本です。
原題:LA GUERRE DES METAUX RARES
ギヨーム・ピトロン 訳:児玉しおり
原書房 2020年3月10日発行(原書は2018年)
従来の酸化鉄を用いた磁石(フェライト磁石)より遙かに強力なレアアース磁石が開発されて同じ磁力を得るのに100分の1のサイズで可能になったことから軽量化・小型化競争が進み、iPhoneなどさまざまなテクノロジーにおいて、レアメタルは必須のものとなっているが、その採掘・精錬の現場では、有毒物質や放射性物質を含む大量の岩石破砕廃棄物、精錬に使用される大量の水と酸(希硫酸、硝酸など)による汚染が避けられず、クリーンなイメージのハイテクノロジーが、中国やアフリカの環境基準が低く労働力や人命が安い地域の環境汚染に支えられて存在していることが、前半で語られます。そういえば、1980年代にマレーシアで放射能汚染が問題になった三菱化成の子会社も、アジアレアアース(ARE)というレアアースの精錬を行う企業だったということを思い出しました(この本の第2章の注53:238ページにも登場します)。
製品の製造だけではなく、デジタルツールの使用による環境負荷も指摘されています。電子メールは送信から受信まで「1万5000キロメートルを駆け抜ける」「添付アイテムのついた1本のメールは低消費電力の電球の1時間の使用に相当する」「毎時間、世界中で100億本のメールが送られると『50ギガワット時となり、これは15の原発が1時間に生産する電力に当たる』。中継されるデータを管理し、冷却システムを機能させるために、データセンター1つだけで人口3万人の町が必要とするエネルギーを毎日消費する」のだそうです(51ページ)。
現代のテクノロジーと私たちの生活は、一見クリーンでありまたクリーンが謳われていても、それは環境負荷/環境汚染が見えない地域に移され/隠されているだけで、虚妄だという指摘ですね。どうすればいいのかは難しく悩ましいところではありますが。
後半は、現代の産業と社会に必須の資源となったレアメタルの多くを産出する中国がレアメタルのOPECとなって、その価格や輸出量を支配・操作して技術を手中にしハイテク製品の製造工程をも支配し、軍事的にも優位に立つべく立ち回っていることを指摘し、欧米が対抗戦略を持つべきことを論じています。
なかなかに悩ましい問題提起の多い本です。
原題:LA GUERRE DES METAUX RARES
ギヨーム・ピトロン 訳:児玉しおり
原書房 2020年3月10日発行(原書は2018年)