伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

EU離脱 イギリスとヨーロッパの地殻変動

2020-04-03 21:22:06 | ノンフィクション
 2016年6月23日のイギリスの国民投票で離脱派が勝利した後、2020年1月末の正式離脱に至るまでのイギリスのEU離脱(Brexit:ブレグジット。Britainとexitを掛け合わせた造語)の経過、主としてその混乱と困惑を解説した本。
 単一市場としてのEUを背景に、EU内でさまざまな例外的処遇(単一通貨ユーロや国境管理の不参加、拠出金での優遇等)を受けつつ、実力以上の影響力を行使してきた(113~114ページ)イギリスが、EUにおいて不遇であり不利益を受けてきたという被害者意識を持って、経済合理性に反するEU離脱を、「主権を取り戻す」などという聞こえのいい幻想的なスローガンに踊らされて決定し、最終的に実行していったことは、まさしく学ぶべき歴史的教訓といえるでしょう。
 ブレグジットの過程で、国民投票の結果を、自己の信念とは逆でも実務的に実現しようとしたテリーザ・メイ首相が進退窮まって辞任した後、威勢の良さを売りに選挙戦を制した強行離脱派のボリス・ジョンソンについて、「ジョンソンは、2016年の国民投票キャンペーンでも2019年の保守党党首選挙でも、根拠のない発言、あるいは明白なウソを繰り返し、メディアからは批判されたものの、それでも勝利したのである」、「指導者の発言の中のウソが判明しても、それが支持率に影響しない構造だともいえる。それは、支持者がそうした指導者に対して発言内容の正確さや品行方正さをそもそも期待していないために起こることである」(84ページ)などと書かれているのは、まさしく今の日本のことのよう。まったく無内容の「日本を取り戻す」なんていうスローガンに踊らされて投票した人が多いことも含め、誠実さのかけらもないポピュリストに踊らされて不合理な選択をした日本は、イギリスの選択を他人事として笑うことはできないというべきでしょう。
 EUがめざす価値体系として「ヨーロッパの生活様式」を挙げ、汚染が少なく持続可能な環境のなかで、安全な食品を口にし、正当な条件のもとで就労することを保証するのがヨーロッパの価値だと紹介しています(244ページ)。より単純化していえば、社会的弱者の権利・自由と平等を重んずるのがEUの方向性、社会的強者の権利・自由と自己責任を重んずるのがアメリカ、特にトランプのアメリカと、それに追随して過去の弱者保護の規制・制度を破壊し続ける安倍政権下の日本と分類できます。イギリスが、ナショナリズムの世論に負けて、EUの価値観からアメリカ的な価値観へとすり寄ろうとすることは大変残念に思えます。


鶴岡路人 ちくま新書 2020年2月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする