マクドナルドの創業者、レイ・クロックの自伝(ライターが執筆したものと思われます。「共著」者とされているロバート・アンダーソンは「アメリカ在住のライター、ジャーナリスト」とのみ紹介され、生没年さえ不明とされています)。
さまざまなセールスとピアノ演奏で身を立ててきたレイ・クロックが52歳の時に、マルチミキサー(一度に大量の/同時に6杯のミルクシェイクを作れる機械)のセールスをしていて出会ったマクドナルド兄弟のハンバーガーショップを売れると直感してそのチェーン店化の契約をし、マクドナルドのブランドを巨大な企業にしていく過程を語っています。レイ・クロック自身は、新メニュー開発と不動産開発プロジェクトが、自分が知り尽くしかついちばん好きな分野と述べています(324ページ)が、一般読者が期待するような、ハンバーガーのメニュー開発の苦労話などはほとんど見られず(マクドナルド兄弟がカリフォルニアの砂漠地帯でやっていた方法ではシカゴでフライドポテトがうまくできなかった話(124~125ページ)と自分の好みでフラバーガーを商品化して失敗した話(232ページ)くらいです)、また私たちがマクドナルドというとまず思い起こす製造(調理?)給仕・販売のマニュアルの作成や工夫などはまったく語られていません。他人の作り出したものを事業化した起業家なので、出店、マクドナルド兄弟との関係・確執、オーナーやサプライヤーとの関係、資金と出資の引き出し方、対立し退社した者への評価(非難)、引き入れ任せた人材への評価などが中心です。職人ではない、経営者・社長の視線でのビジネス書として読むべきものです。
そういった本では、ありがちな展開ですが、もともとこのビジネスを考案して実践していたマクドナルド兄弟に対しては、ビジネスは褒めつつも、向上心がない、自分は狡猾な契約で縛られた、騙された、裏切られたと恨み言を綴っています。この本は、レイ・クロック側の視点で評価したものですから、おそらくはかなりバイアスがかかったもので、もちろん相当な対価を得たとはいえビジネスモデルを横取り/乗っ取られたマクドナルド兄弟の側から見ればかなり違った絵も描けるでしょう。レイ・クロック自身が、「私は競争相手と正々堂々と戦う」(182ページ)という同じ口でというかその言葉の直前に「私が深夜2時に競争相手のゴミ箱を漁って、前日に肉を何箱、パンをどれだけ消費したのか調べたことは一度や二度ではない」と書いています(182ページ)。この人にとって、深夜2時に競合店のゴミ箱を漁ることは「正々堂々と戦う」ことなんですね。読んでいて、本当に驚きました。そういう価値観、自分がやることは正しいという方向にかなり偏向した価値観で書かれたものだということを踏まえて読むことが必要でしょう。
レイ・クロックの人生・経験、マクドナルドの沿革としても、書きたいところが切れ切れにある感じなので、ちょっと読みにくいです。レイ・クロックの主張を理解し、経営者目線での教訓を読み取るという観点では、ユニクロの社長による「付録2 レイ・クロックの金言、私はこう読む」(356~386ページ)を読むのがわかりやすいです。
邦題の「成功はゴミ箱の中に」は、本の内容からは引き出せない、かなり無理なタイトルだと思います。このタイトルに関連するのは、先に指摘したゴミ箱あさりの話で「競争相手のすべてを知りたければゴミ箱の中を調べればいい。知りたいものは全部転がっている」という言葉があるだけです(182ページ)。こういう内容に関係ないというか、テーマから外れたひと言を拾い上げてこじつけたタイトルを付けて本を売ろうとする姿勢には辟易します。
原題:GRINDING IT OUT : THE MAKING OF MCDONALDS
レイ・クロック、ロバート・アンダーソン 訳:野崎稚恵
プレジデント社 2007年1月24日発行(原書は1977年)
さまざまなセールスとピアノ演奏で身を立ててきたレイ・クロックが52歳の時に、マルチミキサー(一度に大量の/同時に6杯のミルクシェイクを作れる機械)のセールスをしていて出会ったマクドナルド兄弟のハンバーガーショップを売れると直感してそのチェーン店化の契約をし、マクドナルドのブランドを巨大な企業にしていく過程を語っています。レイ・クロック自身は、新メニュー開発と不動産開発プロジェクトが、自分が知り尽くしかついちばん好きな分野と述べています(324ページ)が、一般読者が期待するような、ハンバーガーのメニュー開発の苦労話などはほとんど見られず(マクドナルド兄弟がカリフォルニアの砂漠地帯でやっていた方法ではシカゴでフライドポテトがうまくできなかった話(124~125ページ)と自分の好みでフラバーガーを商品化して失敗した話(232ページ)くらいです)、また私たちがマクドナルドというとまず思い起こす製造(調理?)給仕・販売のマニュアルの作成や工夫などはまったく語られていません。他人の作り出したものを事業化した起業家なので、出店、マクドナルド兄弟との関係・確執、オーナーやサプライヤーとの関係、資金と出資の引き出し方、対立し退社した者への評価(非難)、引き入れ任せた人材への評価などが中心です。職人ではない、経営者・社長の視線でのビジネス書として読むべきものです。
そういった本では、ありがちな展開ですが、もともとこのビジネスを考案して実践していたマクドナルド兄弟に対しては、ビジネスは褒めつつも、向上心がない、自分は狡猾な契約で縛られた、騙された、裏切られたと恨み言を綴っています。この本は、レイ・クロック側の視点で評価したものですから、おそらくはかなりバイアスがかかったもので、もちろん相当な対価を得たとはいえビジネスモデルを横取り/乗っ取られたマクドナルド兄弟の側から見ればかなり違った絵も描けるでしょう。レイ・クロック自身が、「私は競争相手と正々堂々と戦う」(182ページ)という同じ口でというかその言葉の直前に「私が深夜2時に競争相手のゴミ箱を漁って、前日に肉を何箱、パンをどれだけ消費したのか調べたことは一度や二度ではない」と書いています(182ページ)。この人にとって、深夜2時に競合店のゴミ箱を漁ることは「正々堂々と戦う」ことなんですね。読んでいて、本当に驚きました。そういう価値観、自分がやることは正しいという方向にかなり偏向した価値観で書かれたものだということを踏まえて読むことが必要でしょう。
レイ・クロックの人生・経験、マクドナルドの沿革としても、書きたいところが切れ切れにある感じなので、ちょっと読みにくいです。レイ・クロックの主張を理解し、経営者目線での教訓を読み取るという観点では、ユニクロの社長による「付録2 レイ・クロックの金言、私はこう読む」(356~386ページ)を読むのがわかりやすいです。
邦題の「成功はゴミ箱の中に」は、本の内容からは引き出せない、かなり無理なタイトルだと思います。このタイトルに関連するのは、先に指摘したゴミ箱あさりの話で「競争相手のすべてを知りたければゴミ箱の中を調べればいい。知りたいものは全部転がっている」という言葉があるだけです(182ページ)。こういう内容に関係ないというか、テーマから外れたひと言を拾い上げてこじつけたタイトルを付けて本を売ろうとする姿勢には辟易します。
原題:GRINDING IT OUT : THE MAKING OF MCDONALDS
レイ・クロック、ロバート・アンダーソン 訳:野崎稚恵
プレジデント社 2007年1月24日発行(原書は1977年)