ウェブ上のクチコミサイトにおいて、正のクチコミと負のクチコミが混在している場合に、負のクチコミの存在やその割合、掲載順序が、閲覧者/消費者の製品評価に対しどのような影響を与えるかについて、著者が行った一連の実験結果をまとめた研究発表の本。
製品が快楽財(主観的評価が主:「実用財」との比較において)の場合、専門性の高い消費者が属性中心的クチコミ(客観的に評価できる事項:「便益中心的クチコミ」との比較において)を読む場合、クチコミサイトがマーケター(当該製品メーカー・販売元)のサイトの場合には、正のクチコミばかりよりも負のクチコミがあった方が製品の評価が高まる、快楽財の場合と専門性の高い消費者が属性中心的クチコミを読む場合ともに、負のクチコミの影響(製品評価を低下させる力)はそれが最後に掲載されている場合の方が大きい、負のクチコミの影響は探索財(購入前の調査で製品評価が可能)の場合及び製品に精通した消費者の場合は負のクチコミが0から少し増えても(著者の実験では10対0→8対2の範囲では)製品評価への影響は小さい(8対2→6対4では製品評価が大きく低下する)などの各実験の結果を説明した論文が順次並べられています。基本的には各論文とも同じ枠組み同じ手法のものであるため、ほぼ同じ言葉ないしほぼ同じ事項が繰り返し繰り返し書かれており、もちろん論文として正確を期するためにはそれが必要なのでしょうけれども、1冊の本として研究者でない者が読むには、かなり苦痛です。率直に言って、全体を統合しわかりやすさを優先して繰り返しを回避した書き方をすれば、3分の1くらいの厚さで書けると思います。
著者による研究・実験の部分は、具体的な内容と結果が、統計に詳しくない私には、今ひとつ把握しにくく思えました。
第4章で、専門性が高い消費者が(製品の)属性中心的クチコミを読む場合に負のクチコミがあった方が「そのページ上のメッセージの質が高いと知覚し」その結果「消費者はクチコミ対象製品に対する好ましい評価を下す」と考えられるとしてそういう仮説を立て(92ページ)、その仮説が実験により裏付けられたとしている(100~102ページ)のですが、注で示されている第4章で用いられた正の属性中心的クチコミの例が「115万色という液晶画面の画質の高さ、本体が19.1mmという薄型ボディの条件を見ると満足です」、負の属性中心的クチコミの例が「液晶画面は115万色とあるが、他社と比べるとさほど高画質とは言えない。売りの19.1mmの薄さも実際に持ってみると重く感じるから良くはないでしょう」(103ページ)と矛盾する内容(評価)になっています。客観的な事項に関するクチコミである属性中心的クチコミについて、「専門性が高い消費者」が、矛盾しているクチコミが併存する方が「そのページのメッセージの質が高い」と評価したというのでしょうか。実験結果に対する著者の解釈に疑問を感じました。そう思って最後まで読むと、著者自身、第10章では、「属性中心的クチコミの正負のばらつきが大きいウェブページを閲覧した消費者は、正しく知覚符号化を行えないクチコミ発信者が発信した属性情報、および、その情報を掲載しているウェブページに関して、信頼性の低いページであるという評価を下し、情報探索の対象とすることを停止してしまうだろう」と書いています(196ページ)。第4章は2014年に発表済みの論文(102ページ)で、第10章は初出の記載がないのでこの本のために近時実験を行ったものと解され、そうすると第4章の記載というか、仮説ないし実験評価に見直すべき点があることがわかったということになるのではないかと思われますが、その点にまったく言及がないのは残念なことです。
著者の実験は架空のサイトを作成し、クチコミ数がすべて10でその中で負のクチコミの割合(数)を操作して実験を繰り返しているのですが、現実のクチコミサイトでの閲覧を考えると、まずはそのクチコミの中身が数や掲載順以上に影響を持つことが考えられること、現実の閲覧者がどこまでクチコミを読むのかは一定ではないこと、それに影響する要素はさまざまでありまたわからないこと(実験では必ず10のクチコミを読む前提なので、最後に負のクチコミが2つあることの影響が指摘されますが、現実にはそこまで読まないかも知れないしその後さらに読むかも知れない、閲覧者が負のクチコミの、「質」「内容」を置いても、その「割合」に影響を受けているのか「数」に影響を受けているのかも定かではない)など、著者の導いている結論が現実のクチコミサイトに当てはまるかの評価は難しいと思います。
さらにいえば、クチコミサイトを利用する消費者は、クチコミサイトの掲載/表示順にクチコミを読んでいくのでしょうか。私自身が、この著者の研究の関心と同じく製品購入のためにクチコミサイトを利用する場合、基本的に正のクチコミは読まずに負のクチコミだけ読みます。特定の製品についてチェックする以上、すでにその製品のスペックなり長所は把握済みでそれ自体は購入するに足りると評価しているわけです(そうでなければ、購入するかどうかのチェック段階に達しません)。クチコミサイトで確認したいのは、自分が知らない問題点/欠点がないかです。ですからむしろ悪い評価だけを選んでその内容が自分には大して意味がないポイントなのか、それは困るというポイントなのかにこそ関心があるわけです。ですから、私の感覚では、負のクチコミの割合はあまり気になりません。逆に負のクチコミの割合を気にする人は、総合評価点とかでもう心証が決まって個別のクチコミを読み込まないんじゃないかという気がします。またクチコミサイトといえばまずは思い浮かぶ食べログを利用する場合だと、態度未定でクチコミを見ることが多いですが、この場合は、訪問時期順に並び替えて、最近のクチコミから順に読み、古い時期のクチコミは評価対象外にします。1年も2年も前の評価を見ても参考になりませんから。その場合に終わりの方(古い時期)に負のクチコミが連続してあっても、最近のクチコミでは改善されているならそれで低い評価をすることにはならないでしょう。そういう自分のクチコミサイト利用状況を考えると、学者さんの研究の多くはそういうものですが、あまり現実的ではないように感じてしまいます。
菊盛真衣 千倉書房 2020年2月4日発行
製品が快楽財(主観的評価が主:「実用財」との比較において)の場合、専門性の高い消費者が属性中心的クチコミ(客観的に評価できる事項:「便益中心的クチコミ」との比較において)を読む場合、クチコミサイトがマーケター(当該製品メーカー・販売元)のサイトの場合には、正のクチコミばかりよりも負のクチコミがあった方が製品の評価が高まる、快楽財の場合と専門性の高い消費者が属性中心的クチコミを読む場合ともに、負のクチコミの影響(製品評価を低下させる力)はそれが最後に掲載されている場合の方が大きい、負のクチコミの影響は探索財(購入前の調査で製品評価が可能)の場合及び製品に精通した消費者の場合は負のクチコミが0から少し増えても(著者の実験では10対0→8対2の範囲では)製品評価への影響は小さい(8対2→6対4では製品評価が大きく低下する)などの各実験の結果を説明した論文が順次並べられています。基本的には各論文とも同じ枠組み同じ手法のものであるため、ほぼ同じ言葉ないしほぼ同じ事項が繰り返し繰り返し書かれており、もちろん論文として正確を期するためにはそれが必要なのでしょうけれども、1冊の本として研究者でない者が読むには、かなり苦痛です。率直に言って、全体を統合しわかりやすさを優先して繰り返しを回避した書き方をすれば、3分の1くらいの厚さで書けると思います。
著者による研究・実験の部分は、具体的な内容と結果が、統計に詳しくない私には、今ひとつ把握しにくく思えました。
第4章で、専門性が高い消費者が(製品の)属性中心的クチコミを読む場合に負のクチコミがあった方が「そのページ上のメッセージの質が高いと知覚し」その結果「消費者はクチコミ対象製品に対する好ましい評価を下す」と考えられるとしてそういう仮説を立て(92ページ)、その仮説が実験により裏付けられたとしている(100~102ページ)のですが、注で示されている第4章で用いられた正の属性中心的クチコミの例が「115万色という液晶画面の画質の高さ、本体が19.1mmという薄型ボディの条件を見ると満足です」、負の属性中心的クチコミの例が「液晶画面は115万色とあるが、他社と比べるとさほど高画質とは言えない。売りの19.1mmの薄さも実際に持ってみると重く感じるから良くはないでしょう」(103ページ)と矛盾する内容(評価)になっています。客観的な事項に関するクチコミである属性中心的クチコミについて、「専門性が高い消費者」が、矛盾しているクチコミが併存する方が「そのページのメッセージの質が高い」と評価したというのでしょうか。実験結果に対する著者の解釈に疑問を感じました。そう思って最後まで読むと、著者自身、第10章では、「属性中心的クチコミの正負のばらつきが大きいウェブページを閲覧した消費者は、正しく知覚符号化を行えないクチコミ発信者が発信した属性情報、および、その情報を掲載しているウェブページに関して、信頼性の低いページであるという評価を下し、情報探索の対象とすることを停止してしまうだろう」と書いています(196ページ)。第4章は2014年に発表済みの論文(102ページ)で、第10章は初出の記載がないのでこの本のために近時実験を行ったものと解され、そうすると第4章の記載というか、仮説ないし実験評価に見直すべき点があることがわかったということになるのではないかと思われますが、その点にまったく言及がないのは残念なことです。
著者の実験は架空のサイトを作成し、クチコミ数がすべて10でその中で負のクチコミの割合(数)を操作して実験を繰り返しているのですが、現実のクチコミサイトでの閲覧を考えると、まずはそのクチコミの中身が数や掲載順以上に影響を持つことが考えられること、現実の閲覧者がどこまでクチコミを読むのかは一定ではないこと、それに影響する要素はさまざまでありまたわからないこと(実験では必ず10のクチコミを読む前提なので、最後に負のクチコミが2つあることの影響が指摘されますが、現実にはそこまで読まないかも知れないしその後さらに読むかも知れない、閲覧者が負のクチコミの、「質」「内容」を置いても、その「割合」に影響を受けているのか「数」に影響を受けているのかも定かではない)など、著者の導いている結論が現実のクチコミサイトに当てはまるかの評価は難しいと思います。
さらにいえば、クチコミサイトを利用する消費者は、クチコミサイトの掲載/表示順にクチコミを読んでいくのでしょうか。私自身が、この著者の研究の関心と同じく製品購入のためにクチコミサイトを利用する場合、基本的に正のクチコミは読まずに負のクチコミだけ読みます。特定の製品についてチェックする以上、すでにその製品のスペックなり長所は把握済みでそれ自体は購入するに足りると評価しているわけです(そうでなければ、購入するかどうかのチェック段階に達しません)。クチコミサイトで確認したいのは、自分が知らない問題点/欠点がないかです。ですからむしろ悪い評価だけを選んでその内容が自分には大して意味がないポイントなのか、それは困るというポイントなのかにこそ関心があるわけです。ですから、私の感覚では、負のクチコミの割合はあまり気になりません。逆に負のクチコミの割合を気にする人は、総合評価点とかでもう心証が決まって個別のクチコミを読み込まないんじゃないかという気がします。またクチコミサイトといえばまずは思い浮かぶ食べログを利用する場合だと、態度未定でクチコミを見ることが多いですが、この場合は、訪問時期順に並び替えて、最近のクチコミから順に読み、古い時期のクチコミは評価対象外にします。1年も2年も前の評価を見ても参考になりませんから。その場合に終わりの方(古い時期)に負のクチコミが連続してあっても、最近のクチコミでは改善されているならそれで低い評価をすることにはならないでしょう。そういう自分のクチコミサイト利用状況を考えると、学者さんの研究の多くはそういうものですが、あまり現実的ではないように感じてしまいます。
菊盛真衣 千倉書房 2020年2月4日発行