伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

家族を「争族」から守った遺言書30文例Part2

2020-04-25 00:11:26 | 実用書・ビジネス書
 一般社団法人相続診断協会という民間団体が独自に認定している「相続診断士」30名が自分が経験した遺言作成事例を、相続診断士に相談して遺言を作成して良かった事例として紹介し、宣伝する本。
 相続診断士というもの自体が、耳慣れない初めて聞くものだったので、何だろうと調べたら、もちろん国家資格ではなく、2011年12月に設立された民間団体がパソコン端末上で随時実施している○×・三択・穴埋め問題の試験で合格すれば、その団体によって認定されるというもので、相続診断協会のサイト掲載の2020年4月24日のプレスリリースでは「合格者4万人突破!」とされていますので8年数か月で、4万名もの相続診断士が量産されているようです(この本の奥付の記載では2019年11月現在3万8500人とされています)。この本の16例目には、お世話になった知人に遺言で遺贈しているものを「寄与分」と書いている(115ページ。遺言の記載が誤っていてその遺言はこの「相続診断士」が関与していないのかも知れませんが、その誤りをまったく正さずに地の文でも「寄与分」と紹介しています)ところがあり驚きました。「寄与分」(相続人の中で相続財産の維持増加に特別の寄与をした者に対してその貢献を評価した取り分。2019年7月1日施行の相続法改正後の「特別寄与料」も親族のみが対象。親族でない知人に対するものは認められていません)の概念も理解しないで相続の専門家であるように名乗っていていいのでしょうか。さらに、27例目では、自筆証書遺言の財産目録をパソコンで作成することを相談者に勧めたと書いています(203ページ)。自筆証書遺言の財産目録をパソコンで作成してもよくなったのは2019年1月13日以降です。それ以前に作成した自筆証書遺言で財産目録をパソコンで打ったものは無効です。このケースは遺言者が「翌年」「亡くなりました」と書かれている(205ページ)ので、遺言作成(少なくとも遺言作成のアドバイス)は2018年かそれ以前です(この本の出版が2019年ですから遺言者の死亡は遅くとも2019年、したがって遺言作成のアドバイスは、その前年である以上、2018年かそれ以前しかあり得ません)。そうすると、この「相続診断士」(「上級相続診断士」だそうです:198ページ)は自筆証書遺言が法的に無効になるようなアドバイスをしたわけで、このケースでは相続人が全員内容に納得していたので事なきを得たのでしょうけれども、遺言作成に関与する者としては大ポカ、明らかで重大な過誤です。それを本に自慢げに書いているのですから、未だに気づいてもいないのでしょう。やはりそういうレベルの人に相続の専門家であるかのように名乗らせてよいのでしょうか。それぞれの事例の最後に「笑顔相続のカギ」と題するまとめがあり、これは相続診断協会の人が書いているとみられます(この本にはそういう紹介もありませんが、さすがに「見事としか言いようがありません」「相続診断士のお手本のような事案です」(182ページ)とか、自分では書かないでしょうから)。それを書いている相続診断協会の人は、「寄与分」も理解していないとか、2019年1月13日より前は財産目録をパソコンで作成したら自筆証書遺言が無効になることも知らなかったとか、こういう相続の専門家にあるまじき記述を読んで問題だと思わなかったのでしょうか。法的な根拠もなく勝手に作った知名度の低い相続診断士なる事業者の団体が、世間にその存在をPRする本という位置づけで読むべきでしょうけれども、それにしてもお粗末に思えます。
 この本の1例目、つまり最初に置かれている事例(2~9ページ)は、1人住まいの相談者が今後寝たきりや認知症になった場合の不安に備えることがテーマとされ、どう見ても遺言そのものではなく、財産管理委任契約や任意後見契約の方に意味があることが明白なのに、そちらの内容も費用もまったく紹介されていません(死後事務委任契約書については、20例目に文例があります(148~151ページ)が、やはり費用についてはまったく説明がありません。葬儀を執り行う等の事務だけでいったいいくら取るのでしょう)。内容も費用も書かずに、相続診断士に相談して対処すれば安心という書きぶりは、広告以上のものではないでしょう。こういうのが最初に置かれているあたりにもこの本の性格がよく表れていると感じられます。
 紹介されている事例の多くで、遺言の内容(条項)自体(その点では平凡な事例が多い)よりも、付言事項として作成された相続人や関係者へのメッセージが、効果を生んだとされています。遺言作成に際して、残された関係者に対する遺言者の思いを記録しておくことの重要性は、特に今後意識し意を用いた方がいいでしょう。そのことはそのとおりだと思います。もっとも、現在では、それを遺言書に文字で残すよりもビデオレターにした方がベターだという気がしますが。


一般社団法人相続診断協会編 日本法令 2019年12月10日発行
コメント
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