2020年4月1日施行の民事執行法改正の改正点である債務者の財産開示手続の拡充と第三者からの情報取得手続の新設、不動産競売からの暴力団排除、子の引渡の強制執行手続の整備、差押命令の職権取消と差押禁止範囲変更の活性化(債務者への告知等)について、改正の内容と改正の経緯等を解説した本。
弁護士グループが書いた本なのですが、改正を担当した官僚が書いた解説本のような内容で、改正前の問題点(改正の必要性)と改正の過程での議論の内容(改正の経緯)と改正結果はわかりますが、弁護士であればいちばん知りたい、改正前の実務の実情と現場での工夫、ノウハウ、改正後はそれがどのように変化するのか、改正後はどのような手続で何に注意して何を準備して申立をすればスムーズに手続が進むのか、改正後も注意すべきポイントはどこかといった、本当のノウハウ部分への言及はほとんどありません。サブタイトルの「弁護士が知っておくべき改正のポイント」は、弁護士が知りたいポイントではなく、改正に関与した関係者が弁護士に理解してもらいたいと思うポイントを意味しているかのようです。
記載内容としても、Q&A形式の「実務本」にありがちですが、通し読みではなくそのQだけを読むという想定で、同じことが何度も繰り返されています。それもそのQが執行事件で弁護士が本当に知りたいQになっているのならいいのですが、これまたこの種の本にありがちなことですが、執筆者側が説明したい項目をQにしているだけで、率直に言えば、Q&Aにしないで通し読みすることを想定した解説本にすれば(重複をなくすことで)半分かそれ以下の厚さにできたと思います(それではブックレットレベルの厚さになってしまうので、あえて無駄にQ&Aにしたのではないかと勘ぐってしまいます)。
子の引渡の執行をめぐっては、ハーグ条約実施法で手続規定があり、民事執行法には規定がなかったのを今回の改正で整備するにあたり、ハーグ条約実施法に規定がある間接強制前置(直接強制の執行は原則として違反に対する金銭支払を命じる「間接強制」をやってからでないと申し立てられない)、同時存在原則(執行官による強制執行は子が子の引渡を命じられている債務者:通常は片親とともにいる際でないとできない)、執行場所は原則として債務者宅などを、民事執行法改正で採用するか否かが問題となりました。この本では、改正の過程での議論で、民事執行法の場合ハーグ条約の場合(国外に連れ出した子をまずは元の国に戻せ)とは違って、子の引渡を命じる裁判の際に子の福祉・子の利益を裁判所が十分考慮して決定しているから違っていい(ハーグ条約実施法のような制約は不要だ)という意見があったことを度々紹介しています(126ページ、133~134ページ、157ページなど)。ところが、今回の民事執行法改正でハーグ条約実施法と異なる規定をした点について、ハーグ条約実施法もそれに合わせて改正されています(171~176ページ)。そこを通して読むと、ハーグ条約実施法とは条件・利益状況が違うからハーグ条約実施法とは異なる規定でいいんだという議論をてこに、民事執行法を改正し、その民事執行法の規定に合わせてハーグ条約実施法の方も変えてしまったということに読めて、何とも気持ちが悪い、騙されているような狐につままれたようなたちの悪い役人が策を弄したような後味の悪さを感じます。分担執筆している執筆者たちはそういう点に目が向かないのかも知れませんが、もう少し統一感のある説明があってしかるべきだと思います。
東京弁護士会法友会編 ぎょうせい 2020年2月15日発行
弁護士グループが書いた本なのですが、改正を担当した官僚が書いた解説本のような内容で、改正前の問題点(改正の必要性)と改正の過程での議論の内容(改正の経緯)と改正結果はわかりますが、弁護士であればいちばん知りたい、改正前の実務の実情と現場での工夫、ノウハウ、改正後はそれがどのように変化するのか、改正後はどのような手続で何に注意して何を準備して申立をすればスムーズに手続が進むのか、改正後も注意すべきポイントはどこかといった、本当のノウハウ部分への言及はほとんどありません。サブタイトルの「弁護士が知っておくべき改正のポイント」は、弁護士が知りたいポイントではなく、改正に関与した関係者が弁護士に理解してもらいたいと思うポイントを意味しているかのようです。
記載内容としても、Q&A形式の「実務本」にありがちですが、通し読みではなくそのQだけを読むという想定で、同じことが何度も繰り返されています。それもそのQが執行事件で弁護士が本当に知りたいQになっているのならいいのですが、これまたこの種の本にありがちなことですが、執筆者側が説明したい項目をQにしているだけで、率直に言えば、Q&Aにしないで通し読みすることを想定した解説本にすれば(重複をなくすことで)半分かそれ以下の厚さにできたと思います(それではブックレットレベルの厚さになってしまうので、あえて無駄にQ&Aにしたのではないかと勘ぐってしまいます)。
子の引渡の執行をめぐっては、ハーグ条約実施法で手続規定があり、民事執行法には規定がなかったのを今回の改正で整備するにあたり、ハーグ条約実施法に規定がある間接強制前置(直接強制の執行は原則として違反に対する金銭支払を命じる「間接強制」をやってからでないと申し立てられない)、同時存在原則(執行官による強制執行は子が子の引渡を命じられている債務者:通常は片親とともにいる際でないとできない)、執行場所は原則として債務者宅などを、民事執行法改正で採用するか否かが問題となりました。この本では、改正の過程での議論で、民事執行法の場合ハーグ条約の場合(国外に連れ出した子をまずは元の国に戻せ)とは違って、子の引渡を命じる裁判の際に子の福祉・子の利益を裁判所が十分考慮して決定しているから違っていい(ハーグ条約実施法のような制約は不要だ)という意見があったことを度々紹介しています(126ページ、133~134ページ、157ページなど)。ところが、今回の民事執行法改正でハーグ条約実施法と異なる規定をした点について、ハーグ条約実施法もそれに合わせて改正されています(171~176ページ)。そこを通して読むと、ハーグ条約実施法とは条件・利益状況が違うからハーグ条約実施法とは異なる規定でいいんだという議論をてこに、民事執行法を改正し、その民事執行法の規定に合わせてハーグ条約実施法の方も変えてしまったということに読めて、何とも気持ちが悪い、騙されているような狐につままれたようなたちの悪い役人が策を弄したような後味の悪さを感じます。分担執筆している執筆者たちはそういう点に目が向かないのかも知れませんが、もう少し統一感のある説明があってしかるべきだと思います。
東京弁護士会法友会編 ぎょうせい 2020年2月15日発行