伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

足利事件 松本サリン事件

2010-01-21 21:58:44 | ノンフィクション
 冤罪事件の当事者(被害者)による対談本。
 事件の当事者が当時自分が体験した事実や当時の心境を語る部分、とりわけ警察の取調に関する点と家族に辛い思いをさせたことを振り返る部分は切実なものがあり、貴重な語りです。
 しかし、対談部分は160ページ足らずの上、編集者による補足がその4割程度を占めています。もちろん、補足があった方が読みやすい(なかったら業界関係者以外はわからない)のですが、正味の対談がすごく少ない。その上、自らも事件の被害者であり逮捕されることなく真犯人が判明して警察の謝罪も受け公安委員なども務める人と、一旦は自白し無期懲役の判決を受けて17年間も身柄を拘束され再審中の人の体験は、重ならない部分も多く、その短い対談の多くの部分が事件の当事者としての発言よりも他の冤罪事件の紹介や制度や体制の問題点についての運動家・評論家的な発言に費やされています。そういう解説本なら、本当の運動家に書かせるか弁護士に書かせた方が内容的には深まると思います。内容を掘り下げるよりは、それを冤罪事件の当事者に言わせることで、一種の「権威付け」をして読者の読む気を起こさせようというのが企画の狙いなんでしょうけど、有名な冤罪事件の当事者を組み合わせれば本になるという企画の安易さを感じてしまいます。事件の当事者としての体験を読ませるのならば、きちんと準備したインタビュアーかその事件の弁護人にインタビューさせた方が、踏み込んだものが出てくるでしょう。せっかく事件の当事者に話させるのだからその部分を充実させて欲しかったと私は思います。


菅家利和、河野義行 TOブックス 2009年9月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

甘苦上海 Ⅰ~Ⅳ

2010-01-20 21:28:54 | 小説
 上海で成功したエステチェーン「Ladies SPA 紅」の経営者早見紅子51歳が、容姿端麗な元新聞記者・現在は翻訳業の石井京39歳に思いつめて貢ぎ、恋の駆け引きを続ける恋愛小説というか官能小説。
 通勤電車の中で読み続けるのがはばかられるような性的描写が繰り返されています。日本経済新聞の連載小説となると、こうなるものなのでしょうか。昔はこういうの夕刊紙でないと掲載できなかったんじゃないかと思いますが。
 50代の功成り名を遂げた女性経営者が、かつては腕利きの新聞記者で過去を引きずっているという設定ではあるものの現在は自活能力に乏しく容姿端麗を鼻に掛けて女などいくらでも言うなりになると豪語する高ビーなヒモ男に振り回され自尊心を傷つけられながらも貢ぎ未練がましく追いかけ続ける姿は、かなり見苦しい。私が男だからかもしれませんが、この主人公が惚れ狂う相手の石井京というキャラにほとんど人間としての深みや魅力が感じられないため、ただ容姿端麗な年下男というだけでそんなに価値があるのか、逆に50代女はそこまで卑下し自分を貶めなければならないのかと感じてしまい、共感を得にくいだけにますます見苦しく感じます。
 恋に落ちた人間はどんなに社会的地位があっても見苦しい愚かなものというテーマは、ありかなとは思います。しかし、このお話が、中高年女性が読む媒体に掲載されていたのなら、反省と共感を込めてそういうテーマとして読まれたのかもしれませんが、日本経済新聞連載となるとそうは感じにくい。女性経営者に反発と妬みを感じる読者層の、成功している女性経営者も女としては愚かな面を持っていると溜飲を下げたいというニーズに媚びているのではと勘ぐってしまいました。
 日本経済新聞らしく上海経済の動向に言及する場面がときおり登場しますが、それ以外にはチベット問題と農村の貧困問題をほんの上っ面だけなでている程度で、後はひたすら恋愛の濡れ場と嫉妬と見苦しく未練がましい駆け引きが繰り返されています。4巻あたりは私にはかなり惰性でやってる感じがしました。
 成功した経営者が主人公ですので、特に前半はブランドこだわり表現が頻出しています。私には縁のない世界で、出てくるブランドがどの程度の高級品なのかもわかりませんが、1つだけマネができそうな朝に飲む紅茶のブレンドのこだわりが「トワイニング3スプーン+マリアージュのローズ1スプーン+日東紅茶のミルクティー2スプーン+アッサムティー2スプーン」(1巻103ページ)って。「トワイニング」って言ってもプリンス・オブ・ウェールズなのかクィーン・マリーなのかダージリンなのか(はたまた「オレンジ・ペコ」とか「イングリッシュ・ブレークファーストティ」、それともまさかアール・グレイ?)でだいぶ違ってくると思うんですが、こだわりを見せながらそこが落とされています。こういう書き方されると他の描写も私が知らない世界だからわからないだけで実はいい加減なのかもと思ってしまいます。


高樹のぶ子 日本経済新聞出版社
Ⅰ 2009年3月6日発行
Ⅱ 2009年6月1日発行
Ⅲ 2009年9月1日発行
Ⅳ 2009年11月2日発行
日本経済新聞2008年9月30日~2009年10月31日連載
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

憂鬱たち

2010-01-17 19:39:45 | 小説
 生活には困っていないうつ状態の女性神田憂が、今日こそは精神科に受診しようとして家を出るが、途中で別のことに関わってしまい精神科に行けないというシチュエーションを共通にした短編連作。
 すべての作品で「カイズ」という名前の中年男性と「ウツイ」という名前の若い初々しい男性が登場しますが、作品ごとに役割や職業が異なり、統一性・関連性はありません。
 主人公が被害妄想を持ち、「カイズ」や「ウツイ」に対してあらぬ事を勝手に想像して行くというパターンが多く展開されます。読者を刺激すること自体を目的とするような奇をてらった設定や表現がちょっと鼻につきます。うつの人ってこういう妄想を持つのだろうかというあたりにも、ちょっと疑問を感じました。
 連作だと思いますが、初出が「群像」、「文學界」、Mixi、「野生時代」とバラバラなのはどういう事情なんでしょう。


金原ひとみ 文藝春秋 2009年9月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神々の午睡

2010-01-16 22:58:46 | 物語・ファンタジー・SF
 大神クォリクルミテが君臨し160人の妻との間に384人の子をなし、大神の子は「クウ」と呼ばれ大神の意志により何かを司る神に選ばれたり選ばれなかったりするという世界での、神々と「クウ」と人間の織りなす物語の短編連作。
 絶対神の気まぐれで好色・絶倫ぶりと神々も人間と同じように失敗するというあたりの設定はギリシャ神話的で、しかし神々の心情が柔らかく人間的なあたりと舞台設定はアジア的です。
 大神を設定しながら、その大神が力を振るう場面は登場せず、雨の神シムチャッカ、死の神グドミアノ、沼の神フィモット、音楽の神ラマリリア、戦の神テレペウト、風の神ピチュと何人かの人間たちで話が進んでいきます。そのため神々の話でも厳しく非情な展開は少なく共感しやすいファンタジーになっています。
 短編同士のストーリーは無関係ですが、登場する神々の関係に少し流れがあり、死の神グドミアノは気に入ったのか「盗賊たちの晩餐」以外のすべてに登場します。
 通して一つの物語とは読みにくいので、散漫な感じが残りますが、じんわりとした味わいを感じます。


あさのあつこ 学研パブリッシング 2009年10月13日発行
「アニメディア」2008年7月号~2009年6月号連載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

証拠収集実務マニュアル 改訂版

2010-01-16 00:24:21 | 実用書・ビジネス書
 民事裁判で使う証拠の入手方法等について検討解説した本。
 公的な登記・証明書類や法令、裁判記録などの調査・入手に関する基本編と、各種の裁判パターンごとに解説した実践編からなっています。実践編では各種の裁判ごとに裁判手続や主張すべき事実の説明、その立証のために提出すべき証拠、その証拠書類の入手・作成方法が解説されています。
 全般的に言えば、弁護士にとって自分があまり経験のない分野では勉強になり興味深いですが、自分が多数経験している分野では物足りないし実務感覚とフィットしない部分もあります。多数の弁護士の分担執筆のため、証拠の入手についての実務的な配慮が行き届き新しい知識にも目配りされているできのいい役に立つ部分もあれば、抽象的な説明や条文・規則の説明に終始して肝心の証拠入手の具体的な記載が見られない部分もあり、ムラが大きいのが気になります。
 でも自分の知識のムラをならす意味で、弁護士にとっては読んでおいて損はない本だと思います。弁護士以外の読者は、たぶん想定していないでしょうし、読み通すのはかなり難しいでしょうね。


東京弁護士会法友全期会民事訴訟実務研究会編 ぎょうせい 2009年9月15日発行 (初版は1999年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヴァンパイレーツ5 さまよえる魂

2010-01-14 23:49:21 | 物語・ファンタジー・SF
 海賊船(ディアブロ号)と吸血海賊船ヴァンパイレーツ(ノクターン号)とそれらに命を救われた双子の兄弟コナーとグレースの運命で展開するファンタジー。
 5巻では一旦は合流したが再度別の道を歩み始めたコナーとグレースが、コナーは4巻で弟をヴァンパイアに襲われて失ったモロッコ・レイス船長がそれをきっかけに長らく仲違いしていた別の弟バーバッロ・レイスと再会してともに新たな襲撃を計画するがバーバッロの妻トロフィーや息子のムーンシャインの冷淡な態度に不信感を持ち続け、しかもヴァンパイアになって生き返ったジェズがコナーの元に戻り、グレースはローカンの目を治すためにヴァンパイレーツのサンクチュアリを訪れそこで導師モッシュ・ズーに不思議な力を見出されという展開です。コナーの方は危機また危機、グレースの方はヴァンパイレーツと船長・導師の謎への接近といった展開が今後予想されます。
 日本語版5巻と6巻が原作では1冊で、5巻は2009年12月発行で6巻は2010年4月刊行予定。これまで同様、1冊の原作の途中で放り出される5巻は「つづく」で終わり、6巻でようやく落ちつくということになるのでしょう。でも、6巻が出る頃には5巻の内容は忘れてるでしょうね。前にも言いましたが、原作で1冊のものを分冊にするにしても、せめて同時に出して欲しいものです。


原題:BLOOD CAPTAIN
ジャスティン・ソンパー 訳:海後礼子
岩崎書店 2009年12月28日発行 (原書は2007年)

1巻~3巻は2009年6月26日の記事で紹介、4巻は2009年9月19日の記事で紹介しています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新版 大学生のためのレポート・論文術

2010-01-12 21:01:24 | 実用書・ビジネス書
 大学生向けのレポートと卒業論文の書き方のマニュアル。
 この本では論文の書式や文献の引用表記などの形式面の決まりを重視している。卒業論文もテーマよりまずスケジュールを決める、章立てと各章の枚数を先に決めるといいという。段落は1ページあたり5つか6つがいいと繰り返されている。このように、形から入るのが、この本の特徴である。
 「文章をわかりやすくする原則はただ一つである。それは、/一文を短くする。/たったこれだけである」(ゴシック体原著、小笠原、2009、p. 197)というこの言い切りがすごい。
 「」内の最後に句点をつけたり、算用数字やアルファベットを全角文字にするのは「間違い」だという(同上、p.24)。マニュアル世代に迷いを与えないためには言い切る必要があるのだろうが、やり過ぎの感もある。
 「よい論文かどうかは、題名と最初の三~五行を読めばわかる」(ゴシック体原著、同上、p. 171)は、裁判用の書類にも当てはまりそう。心しておきます。現実にはそういう書き方は難しいのですが。


小笠原喜康 講談社現代新書 2009年11月20日発行 (初版は2002年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ボーダー&レス

2010-01-12 00:48:50 | 小説
 飛び抜けて楽な部署ということで労務管理を担当する何ごとにも熱中できないいい加減社員の江口理倫が、同期の韓国籍のスマートな在日青年趙成佑との交遊を通じて、自分と成佑、日本人と在日韓国人、などの溝・一線に直面する様子を描いた小説。
 主人公は、女性との関係も惰性と責任回避だけで過ごしていき、大学時代の恋人とは、自分だけ北海道から東京に出て連絡もせず会うことも避けて当然の結果としてメールで別れを切り出されながらそうしたら不満に思い、フットサル仲間の独身女性には何の感情もないといって泊まりながら結局やりたくなって肉体関係を結び、気持ちよかったからとセックスだけの関係を続けたけど、相手が「しまった。情がわいた」とつぶやくのを聞くや逃げ始め、相手に「セックスだけの関係でいい」とまで言われても会うことすら避け、やはり当然の結果として「やり逃げかよ」とメールで言われ「普通に生きてるだけなのに、なんだかいっつも悪者な気が。」(103ページ)とか言ってます。どこが「普通に生きてるだけ」なんだか、普通、そこまで冷たく無責任にはなれんでしょ。
 そういう何ごとにもいい加減な半端な無責任男江口が、なぜか成佑との関係では、避け続けてきた在日韓国人をめぐる問題を突きつけられると、無知無責任なりにも向き合おうとして行く、そういうわずかながらの成長を見せるところと、在日韓国人の心情と友情を描いたところに読みどころがあるというところでしょうね。


藤代泉 河出書房新社 2009年11月11日発行
「文藝」2009年冬号 文芸賞受賞 芥川賞候補作(芥川賞の方は「候補」で終わりましたね)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

命の灯を消さないで 死刑囚からあなたへ

2010-01-09 16:33:02 | ノンフィクション
 確定死刑囚に対して行ったアンケートへの回答を紹介した本。2008年7月に当時の確定死刑囚105人に対して、郵便のやりとりが可能な家族経由または福島瑞穂事務所から国政調査権の一環としてアンケートを送付してそれに対して返送された77人からの回答を、死刑確定日の早い順に並べて紹介しています。
 無実を主張するもの、被害者・遺族への謝罪を述べるもの様々で、法制度についての誤解に基づくと思われるものも散見されますが、それぞれの死刑囚が様々な思いを持つことが実感されます。死刑を執行するなら拘置所の職員に行わせるのではなく法務大臣や死刑判決を言い渡した裁判官が立ち会いボタンを押すべきだという意見が多数あるのも、死刑囚がそういう心情を持つことにいろいろと考えさせられます。少しでも人の役に立ちたいと、死刑執行後の臓器提供を希望する死刑囚が何人かいることにも考えさせられました。死刑執行の発表によって死刑囚の家族に迷惑かがかかるからやめて欲しいという、現在のマスコミ報道と犯罪に対して極端に厳しい「世論」を反映した結果的に以前の法務省の死刑執行を秘密にする姿勢を正当化する意見も、意外に多数寄せられています。
 拘禁され全文検閲されていることからすると、当局側に遠慮して回答内容にバイアスがかかっているのではないかという問題はありますが、そしてまた内容的に共感できないもの・不愉快なものは当然にありますが、死刑囚が現実に持つ思いを知ることができる貴重な資料です。


死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90編 インパクト出版会 2009年4月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいほうさんの場所

2010-01-05 22:34:02 | 小説
 インターネットで「シスリー姉さんの生まれ月別運勢占い」サイトを運営する世話焼きの長女志津と、姉のお節介をうっとうしいと思う市民センター勤めのバツイチの次女真奈美、体は大きいが精神未発達のガテン系アルバイターの弟俊の3人兄弟が、両親の残したマンションで同居する日々を描いた小説。
 平穏な日々の中で潜在化していたそれぞれの不安と不満が、志津の昔の占い客の来訪や俊の職場での諍いと家庭内での暴走を契機に、兄弟間の関係にひび割れを起こして行く様子、そして一種の諦めと開き直りで乗り切り、また新たな平穏な日々へと続いて行く様子が描かれています。家族、兄弟にありがちな葛藤、不満と折り合いのつけ方が読ませどころでしょう。
 タイトルの「らいほうさんの場所」は、マンションの専用庭の志津と俊が花を植えている一角で、冒頭から謎めいた言及がされ続けますが、最後まで明確な説明はありません。終盤での言及がややホラーっぽくなっていますけど。そのあたり、納得できるか、ずっと意味ありげに関心を持たせておいて何だと欲求不満を感じるか。
 本のストーリーと関係ないですが、志津が行う個別メール相談。私が電子メールでの相談をお断りしている理由でもあるのですが、相談者からの電子メールだけ読んでも、回答する側には必ずこの点はどうなってるんだろと疑問に思う点が多数出てきます。志津もそう思いながら、そこは勝手に想像してかつ当たり障りのない回答を書いていきます。占いだからそういう対応もできるんでしょうけど、法律相談だったらそれは無理というか、そういう回答じゃ相談になってない。回答する側も大変だと思いますし、こういういい加減なものにお金を払う気になる人が少なからずいるっていうことにも驚きます。


東直子 文藝春秋 2009年11月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする