「大和尚さんはお経の読み声がよかったねえ」というのが、師匠に対する多くの檀家の評価でした。それが、私の読経の直後に言われたりすると、比べられているようで自信をなくしてしまいます。
もう何年もお経を読むことはできなくなっていましたので、懐かしい師匠の読経の声を聞きたいとずっと思っていました。
どこかに誰か録音している人はいないものかと、檀家さんに尋ねてもみましたが、みつからず残念ながらあきらめていました。
ところが、師匠が亡くなるちょうど1週間前、引越をする檀家さんの仏壇の心抜きを頼まれてお経を読んだ後に、「前の和尚さんと声が似てきたねえ」とうれしいお言葉。その後に、「前の和尚さんは本当にいい声だったねえ」と。「ほら、またきた」と思っていると、「何年か前に和尚さんに頼んでお経をテープに録音してもらったのよ」と。「え!あるの!」、「ある、ある」と、急きょ引越の荷物を開けてカセットテープを探してくれました。「あったあ!」。
さらにその場で、テープを買ってきてダビングが始まりました。
レコーダーからは、少し力は衰えていましたが、紛れもなく懐かしい師匠の声が流れてきました。
長年探していてようやく手に入った師匠の声を聞いたそのちょうど1週間目に遷化するというのは、不思議な因縁だと感じています。
お陰で、貴重な宝ものが手に入った心境でした。
12日の本葬の時にも、檀家の皆さんに聞いていただいて、師匠を偲んでいただければなと思っています。ますます比較されようとも。