70代後半のピカソは南フランスで過ごす。この時期リノカットという独自の技法を獲得してから、ピカソの版画は色が溢れるように湧き出てくる。闘牛と女性と馬という主題が繰り返し出てくる。
「バッカス祭」(1959)。バッカス神は豊穣、葡萄酒の神で収穫の祝祭の神でもある。人々が酒や饗宴に酔い痴れ踊り続ける様は古来から描かれてきた。空と地面の青を基調とした版と、地面と踊る人間・動物の黒と茶を基調とした版の二つに分割された版からできているとのこと。空の白と青の紋様に私はとても惹かれた。このような空の表現に自由奔走な画家の感性を感じた。
「草上の昼食」(1962)はマネの「草上の昼食」を下敷きにしたもので、油絵、パステル画、デッサンなど様々な表現で繰り返し描いている。人物が元の絵よりも大胆に性を表現している。元の絵では男性もいたが、ピカソは女性だけにしてしまったようだ。しかも先ほどの絵とは違って今度は黄色と赤が氾濫するように溢れている。
マネの絵はこんなにも激しく、艶めかしく、そして奔走ではなかった。時代の変化でもあり、思想の変容でもある。20世紀の激しい時代の変化を感じる絵ではないだろうか。そしてピカソという人物の性に対するこだわりを感じる。
二つの「ランプの下の静物」(ともに1962)は私はとても完成度の高い作品に思えた。激しい情念や体の動きは影をひそめ、明るい電燈のもとでね静物が存在を誇示している。少しだけ飛び跳ねてひかえめな動きを見せているのかもしれない。グラスと思しき器も光を享受している。ピカソという人物の安定した精神状態を表しているように見える。妻ジャクリーヌとの平穏な生活を思わせるものがある。
これらの作品、いかにもピカソという側面を見せてくれる。特に色の豊穣な氾濫に私は圧倒された。とても充実した時間を過ごしたように感じた。
実は最晩年の1968年には300点を大いに超えるエロティックな女性を描いた銅版画でピカソは有名になるが、今回はこれらの作品は展示されていなかった。評論家には酷評された版画であるが、本人はいたって真面目に作成したといわれている。版画作品としてはピカソを語るに欠かせない作品らしいので、私は期待していたが、残念であった。別の機会に期待しようと思う。
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