先ほど記した加藤楸邨の句は、以下の述懐(5句)という連作の最後の句であった。
述懐(5句)
・火の中に死なざりしかば野分満つ
・身に沁みて死にき遺るは謗らるる
・死ねば野分生きてゐしかば争へり
・霜の石踏まれどおしの朝いたる
・ある夜わが吐く息白く裏切らる
収められているのは句集「野哭」の中の「野哭抄」(自1946年9月 至1947年12月)とあり、初めの方なので1946年秋の句と思う。
その句の少し前には、
教員組合闘争委員会後
・曳きて来し野分の影や鉄の扉に
とある。敗戦後の労働組合の体験や社会世相が色濃く反映している句なのであろう。
先に取り上げた句の「裏切らる」が何を示すかが、分かりづらかったが、多分社会運動の中での「裏切られ」た体験と私は理解した。労働組合指導部の闘争の断念、あるいは交渉相手の妥結内容の反故、はたまたともにスクラムを組んだはずの仲間の背離‥。
述懐の5句全体から見ると、戦争で死ねば屍は野ざらしで放置され、生きのびては敗戦国民同士の諍いに巻き込まれる。そんなやるせない体験なのかもしれない。そんなさまざまな体験が裏にはあると思われる。
述懐(5句)
・火の中に死なざりしかば野分満つ
・身に沁みて死にき遺るは謗らるる
・死ねば野分生きてゐしかば争へり
・霜の石踏まれどおしの朝いたる
・ある夜わが吐く息白く裏切らる
収められているのは句集「野哭」の中の「野哭抄」(自1946年9月 至1947年12月)とあり、初めの方なので1946年秋の句と思う。
その句の少し前には、
教員組合闘争委員会後
・曳きて来し野分の影や鉄の扉に
とある。敗戦後の労働組合の体験や社会世相が色濃く反映している句なのであろう。
先に取り上げた句の「裏切らる」が何を示すかが、分かりづらかったが、多分社会運動の中での「裏切られ」た体験と私は理解した。労働組合指導部の闘争の断念、あるいは交渉相手の妥結内容の反故、はたまたともにスクラムを組んだはずの仲間の背離‥。
述懐の5句全体から見ると、戦争で死ねば屍は野ざらしで放置され、生きのびては敗戦国民同士の諍いに巻き込まれる。そんなやるせない体験なのかもしれない。そんなさまざまな体験が裏にはあると思われる。