★みな椿落ち真中に椿の木 今瀬剛一
★椿的不安もあるに井の蓋は 小川双々子
まったく傾向の違う俳句だが、おもしろいと思った。
第1句、赤か白か、花が咲きそろっているときのツバキは実際の樹形よりも少し大きめに見えるのであろう。赤いツバキなら膨張職でもあるので実際に膨らんで見えるかもしれない。白いツバキであっても葉影が暗いので白い花は目立って樹形がより大きく見えると思う。
花が散ってしまうとツバキは確かに少しばかり小さくなったように見える。それは他の樹木でも同じかもしれない。しかし咲いているときの形そのままに下に積もった花を従えてツバキの樹形を見ると、「真中に」すっと立っている樹形にハッとする。
第2句、「椿的不安」とは、多分ポロっと突然に頭が落ちてくるように花が落ちてしまうという恐怖に近い不安をツバキの花に感じたのではないだろうか。もうひとつ、私は小さい頃庭に古い井戸があり、ポンプはすでに朽ちて取り払われていたけれど、コンクリートの枠がのこり、木の板の蓋が使われなくなった井戸の枠に掛けられていた。草に埋もれていた。
親からは「危ないから絶対に蓋を取って覗いてはいけない」ときつく言われていた。たまたま隣の中学生が蓋を捲って井戸の底を見せてくれたことがある。暗い底に自分の顔が映っていて、底知れない不安を感じた。板を捲ると奈落の底のような不安感は今でも記憶している。
そんな古井戸を巡る不安と、ツバキの花の突然の落果という不安、これが私には結びついた。