昨日病院で一服しながら読み終わったのは「万葉考古学」(上野誠編、角川選書)。6名が執筆している。「おわりに」に本書の性格がよく現れている。
「大宰府やその近郊で詠まれた「万葉集」の歌と遺跡が存在している場所が、重なり合っているような不思議な感覚を覚えていた。‥当時の人々見ていた水城はどのような姿だったのだろうか。土木工事にはどのくらいの人が従事し、どこからやって来て、どのような生活を送っていたのだろうか。生活のための物資や土塁の建設資材などは、どこからどんなふうに運ばれてきたのだろうか。残念ながら現在までの発掘調査では、水城を築造した「ヒト」の存在や生活感覚について考古学的にすべてが明らかになっているとはいい難い。つまり、まだわかっているようでわかっていないのだ。考古学的視点から、「万葉集」に詠まれた世界を語ることはできるのだろうか。一つの始点になるのは昭和59年(1984)、森浩一編の「万葉集の考古学」である。‥歌が詠まれた場所や空間の一部として捉え、考古学や歴史地理学などの成果と立体的な融合を試みる方法は有効であると考えられる。」(小鹿野亮)
この「あとがき」の目的が果たされているか否かは別として、大変勉強になった書物であった。特に大宰府と松浦を扱った「第3章 神仙郷の万葉考古学」は地図も豊富で私の興味をかなり満たしてくれた。この種の試みが多くなることを願いたい。