力強い異郷のリズムが全篇を覆う。スペインから北アフリカへ、体の中心に宿る望郷の思いを膨らませ二人は旅に出る。血が成せる業か分からないが二人は本能のおもむくまま血のルーツへと手繰り寄せる。
まさにアラブ系の血のたぎりだ。音楽も全身を揺さぶるように足元から来る。
日本人では考えられない太い熱い旅なのである。この感覚は暑い砂漠から来る血しぶきの感じだなあ。
秀作。
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しっとりと静かに、憎しみと雪解けそして新たな愛の始まり、終わりを美しい十和田に描く。あまりに自然な二人のなりゆきに脚本、演出の熟練が伺われる。
完璧メロドラマなんだが音楽とか、ちょっとした仕掛けといい(湖での心中、愛の成就直前の交通事故等々)うなるほどうまい。
心配していた加山雄三の演技も意外とさわやかで評価できる。
遺作なんだが、素晴らしい文句のつけようのない作品であった。
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成瀬初の時代劇はいかにもインテリ風の好材。通し矢の競いとは恐れ入る。時代劇の装いはしていても100%スポーツもの。あまりに単純なハナシなので成瀬の微笑が見えそうだ。この作品は終戦直前に完成したという。何となく分かるなあ。
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映像、脚本、演技、演出ともほぼ完璧のできばえに驚きを隠せない。特に主役の二人の美しさは耽溺的でさえある。芸と恋愛というこの時代の崇高性も充分感じられ、大衆文化の現代に較べての高度さも伺われ、大衆の粋さも感じられる。
揺るぎない秀作であるとともに成瀬の代表作ではないかと思う。
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この時代で妻と愛人とそれぞれの子供と父親としての男。じっくり等間隔に距離を置いて描いたことは当時でも斬新でなかっただろうか、、。
離婚が稀有だった時代にせよ、そのテーマは今でも現代的である。しかし、少し男の位置が良すぎはしないか、、。
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決して面白くないまさにこれぞ政治的な映画を娯楽映画の手法で見せきったことにまず拍手を送りたい。この手のハナシは映画ぐらい出ないとみんな感心を持たないことは言うまでもない。その意味で映画化にこじつけたことはアメリカと言う国のスケールの大きさを感じてしまう。
作品的には後半全く夫の収入源に無関心だった妻が夫に疑いを持ち始める辺りとあのぐうたら弟が急にヒューマニズムに目覚めるところはちと違和感も感じたが . . . 本文を読む
うーん、昔の話と思ってはいけないんですよね。何かあの時代の庶民の小さな生活が一部始終見えますね。ちょっと、そう、作文集が原作めいたところも強いですが、それでも住み込みだの露天の隣の親切な女性だの国民ほぼ貧乏の時代でもいい時があったのが分かります。的確な演出力に驚いてしまう。
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成瀬の集大成といえる日本映画の名品。傾き始める柳橋の遊郭に日本の滅びを描く。なんといっても女優の演技でしょう。田中絹代の抑えた演技の中での日本人の美しさ。山田五十鈴の艶やかさとともに粋さ。杉村春子の三味線芸者の意地。栗島すみ子の冷酷にも思えるが平行思考観。逆に高峰秀子、岡田茉莉子ら若手がかすんでくるぐらい。
素晴らしい情感の映画である。
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成瀬にしては珍しい製作を兼ねた子供もの。子供から見た大人の姿を丁寧に描いている。
子供を捨てる母親への哀憎。宿屋を営む母親への異母兄弟を見てからの不信感等、二人の子供の大きな世界がだんだん狭まってくる歪みが良く現れている。
日本版「大人は分かってくれない」を少し連想するほどあのラストはやりきれない。
秀作。
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おそらく正月映画として製作されたのではないかと思われる豪華絢爛な成瀬東宝映画。これだけ人数が多い割に一人一人手抜かりなく性格付けをしている点をまず誉めたい。それが全体のバランスを崩すことなくドラマ仕立てになっている。置き去りにした我が子(宝田)が偶然近所に住むことになる後半からぐっとドラマとしても焦点がはっきりしてくる。高峰と草笛の対立はこのドラマでのハイライト。その後急激な悲劇が待っているのだが . . . 本文を読む
なかなか楽しく見させてもらいました。だんだん3人の関係が歳月のあるものであり、しかもかなり捻じり切れない深い秘密のあることも分かってくるその脚本と演出の手際さは格別だ。
ただ、ラストの上り詰めた3人の格闘劇の後でのあの収め方は放り出した感もありちと甘さが残る。だが、久々に面白い成瀬映画だ。
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成瀬巳喜男のとても現実のものと思えない虚構メロドラマ。全体に硬く何かわけの分からないお粗末な絵画展を見ている感がする。
そのぎすぎすした感じがラストまで付きまといどうも心が入っていくことがなかった。
成瀬もこういう作品があるんだね。
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戦後まもなくの日本、特に東京の象徴である銀座を舞台の群像劇。民衆の一人一人の生活が鮮やかで地に足を下ろしている感覚が優れ日本人の当時の生態を生き生きと描いている。佳作ですなあ。
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川端文学と成瀬巳喜男。すばらしく清廉で鎌倉とうまく合っている。素材は小津と変わらないのだが、やはり成瀬映画だ。小津に較べてこだわりがすごい。生身の人間を描いて小津との違いを感じるのも面白い。
セックスという素材もあるけれど、一人一人の人間の醜さも露出しており、成瀬の人間観察はさすが。
ある意味では成瀬映画の到達点のひとつと言えるのではないか。秀作。
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