これは、最後まで読みやすいし、主人公の心境が愛しいし、何人もの真犯人が出現しては消えてゆく、そして最後の1頁でまさに本当の真犯人が、、と最近のミステリーでは出色の出来であります。まあ、この大どんでんがえしには作者の読者への企みが強すぎるようにも思えるが(特に男の心情)、それでもやはり面白い。僕も最後まで騙されてしまった。
この真相へと至る過程の主人公の哀しみが強く残るだけに印象深い作品となった。 . . . 本文を読む
短編集である。こういう時代ものを読むのは実に云十年ぶりだ。通常ならば読まない。でも今回は読む必要に迫られた。そして結構楽しんだ。
この小説群を読んでいて、昔読んだ松本清張の時代バージョンのイメージを持った。結構ミステリーっぽく作ってある。多少の謎は提示されるわけである。けれど、ミステリーとは全く手法が異なり、犯人もどんでん返しもあるわけではない。
しかし、市井の人間の生きざまが確かにここにはあ . . . 本文を読む
ほぼ10年ほど前に初演された劇の再演である。たった10年だが、こういう空気感が主体の劇では、時間が経過すると共に失っていくものもあるんだなあと思ってしまう。
劇はこれと言ってストーリーは存在せず、どこにでもいるような、あるような市井の人々の姿である。男女の別れといっても、理由があるでもなく、うだうだしている男女の姿がそこにある。
一方、札幌ラーメンがうまいからというって、札幌の旅立っていく男の . . . 本文を読む
人間生きていて、愛する人との喪失が一番苦しいという。仏教でも文学でももちろん人生でも「愛別離苦」が一番のテーマとされる所以である。
母親が外出していて事故に遭う。そして死ぬ。家族のみんな、自分を責める。それから家族はばらばらになる。6年たっても変わりはしない。時間がすべてを変えてくれるわけではないのだ。
それは淡路阪神大地震、東日本大地震で僕らが経験し、知ってしまったことである。時がその時に止 . . . 本文を読む
この劇団では久々のエンターテイメント。客演も多く、総勢15名で、いつもの倍近い俳優陣。凝った位置の舞台づくり。あの陰鬱なマクベス劇が絢爛豪華、人間の欲望に彩られ、一挙春を越えて、夏そして奈落の秋を駆け巡る。
衣装が独特で、いかにも豪華。一人一人凝っている。それぞれの役者に考えさせたのだろうか、見ているだけで面白く、いつもの劇鑑賞とはちと違う視点から見ている自分に気づく。
展開としては、いかにも . . . 本文を読む
5人で奏でるコント集。超ミニのコントを入れれば全部で11編。90分。1年9か月ぶりの公演らしく、溜まりに溜まったものを練りをかけて珠玉のコント集にした。
ほとんど独創的でどこかで見たなあというのがない。それが彼らのモットーであり、自負なのであろう。
練習も随分したのだろうなあ、久々ぶりといった感じがしない。最初僕も初めての劇団なのでちょっと硬かったが、コントが始まるとすぐその雰囲気に入る。みん . . . 本文を読む
今回は前代未聞の「タイトル当て」!! まあ、そんなことは気にしないで、いつも通りミステリを楽しんだ吾輩である。文章が今の若い人の感覚におおいに溢れ、面白いのである。しかも、設定も孤島ものであり、連続殺人が、、。
そしてこの作家の持ち味である明るいセックス描写。楽しい。男性目線ではあるが、面白い。こんな年寄りが言っているのだから間違いはない。
けれど、女性陣から見たらどうなるかは、吾輩の知るとこ . . . 本文を読む
ステタイ恒例の、行政とのタッグマッチ。今回は自殺防止キャンペーン。
と硬い感じになってはいるが、劇を見ているといつもと変わらず虎本節がガンガン鳴り響いている。人とのコンタクトを大事にしているステタイの渾身の劇である。
一日一回公演なのに20人以上の出演者の誰もがセリフをとちらない。練習十分であるステタイ以外の多数の劇団員が参加している大所帯だが、家族的な匂いもするほど、彼らはしっくりしている。 . . . 本文を読む
出し惜しみが続く映像も、1時間を過ぎたころからやっとあのテロ行動が始まるが、、。
いやあ、これは駄目ですたい。テロシーンだけは秀逸の映像であるが、あとはいかにも付け足しです。イーストウッドってこんなにも軽い映画作家でごわしたか。
そういえば、最近の事実立脚もの作品もこういう展開だったが、それにしても「ハドソン川の奇跡」では彼なりのきっちりとした指摘があったはず、、。
うーむ、途中は観光映画と . . . 本文を読む
さすがです。最近、人間の本来持っている悪について掘り下げる映画作家が少なくなっており、ハネケはその意味で現代では孤高の作家ですなあ。昔はベルイマン、ブニュエル、グリーナウェイ、ギャスパー・ノエなど錚々たる監督がいた、、。
悪と善とは対局ではあるが裏腹にあり、それは人間性そのものであります。人間を探求すると自然とそこに行きつくことになるのは、自然の摂理とも言える。
それにしてもこの映画に出てくる . . . 本文を読む
良質の演劇を見た感がするなあ。題材からそう思うのか、しかし昭和という時代性を強く感じる作品でもある。
今まで随分大竹野原作の劇を見てきたが、この作品が一番洗練されていて、私小説っぽいイメージを持つ。いつもの暗さ、陰鬱なユーモアがあまり感じられない。この感覚はすこぶる好きだ。
演出が素直で、敢えて丁寧に家族の心をテーマに、描いているからだろうなあと思う。いつもの大竹野作品はややもすれば漫画チック . . . 本文を読む
まあよく練られたミステリーであります。読んでいて楽しいし、あまり関係ないと思われた事件がなんとそれが動機付けになるなど、伏線の張りかたも一流です。立派でございます。
まあ、あんなへんてこりん家族はそうそういないとは思いますが、そこは一方変わり者でも一流のらいちさまがでーんと控えているから、読ませます。
ただトリックはちょっとやり過ぎの感もないではない。いくら何でもセックスの最中に犯行をやっての . . . 本文を読む
長江の下流から上流、そして源流へと遡る膨大でたゆまない人生を映し出すリー・ピンビンのカメラの集大成。そのすごさ。今回はアン・ウェイの音響も映像にすこぶるマッチし、壮大な映像詩を見せてくれる。
最初落ちぶれたような娼婦のアン・ルーが川をさかのぼるごとく若くなってゆき、川の精としての彩を見せ、同時に生と死の重みを感じさせる展開に唸ります。
不意に訪れる一個の死もこの膨大な長江の流れのもとでは一瞬の . . . 本文を読む
関節リューマチの女性と孤児院育ちの荒くれ男との強い愛の物語であります。たまたま主演のサリー・ホーキンスは「シェイプ・オブ・ウォーター」と同じく社会的マイナーの役柄を演じていますが、断然こちらの方が親近感があります。
何故かって、弱者同士だから心打つ、とかそんな絵空事を言うつもりは全然ないが、誰もが辿り得る愛の醸造感が観客に自然に伝わって来るのです。
セリフの少ないこの夫婦の繫がりも、この芸達者 . . . 本文を読む
結構ムズイ中にもコメディ調の明るい香りのする芝居である。死体が消えたり、クスリが出て来てミステリーっぽく作り込み、この不条理劇に新風を吹き込もうとしている。
生者と死者、地下と地上で生息する人々など深く考えれば考えるほど分からなくなってくるのは、僕の人生経験が足りないせいか、と思わせる展開だ。
いつも思うが、第2劇団とsputniktって、境目がなくなっているのでは、と思われるほど出し物、俳優 . . . 本文を読む