なかなか達者な筆さばきであります。ミステリー的には殺人事件といったものは起こらないが、山岳での事故に対するアッと驚く仕掛けも用意されており、十分読むに値する秀作であります。
けれど1点だけ言いたいことがある。
少々クリスティーの著名な小説と同様の伏線だが、それを明かさず最後の方になって言及するというのはいかがなものか。やはり両事故とも有数な山岳事故であるだけに、事故の真実を追いかける専門ルポラ . . . 本文を読む
現代の学生が考えるいわゆる「女の一生」です。一人のカップルを歳月を通して、4人の役者カップルで演じるという実にある意味贅沢な作り込みです。でも子供たちや孫が以前のカップルで演じられるので、少々嬉しい戸惑いも生じます(これは見ていて面白い)。
それにしても実に安定したある意味恵まれた女の一生で、ほとんど通常の人間が経験するいわゆる「苦労」といったものはあまり見えてこないと思いました。
まだ(若い . . . 本文を読む
60分の中編劇なんだが、えらくシュールっぽい。丸い舞台にテーブルが一つ。上に、レゴが乗っている。奥に書棚があり、そこにも何故かレゴの作品群が、、。この作品には何かレゴに象徴しているものがあるらしい。
家族の話である。けれどこの家族、誰一人血のつながった人間はいない。夫婦に娘二人、息子一人。そしてもう一人隣の家に住む男の子。彼もかぎっ子なのでいつもこの家にいる。十分家族である。そしてこの男の子が成 . . . 本文を読む
昔懐かしスタンダード画面。カメラはサウルだけを追う。クローズアップ。彼とともに動く。望遠レンズで撮ったかのように彼の周囲はボケている。しかし、観客はそれが何を表わしているのかつぶさに気づく。それは人間が見てはならないものなのだ。
正直このカメラ映像は少々疲れるが、人間って不思議と慣れる。そしてその正視し難いできごとでさえそのうち慣れてくる。僕らもサウルの日常と化している。
自分のことを、生きて . . . 本文を読む
短編の2作、「Pの妄想」「Fの告発」と読んできて中編の「Yの誘拐」とくる。普通に読ませる手記から始まり、大山もこんな、限りなく普通の散文が書けるんだなあと感心していたら、それはある人間の手記だったことが分かり、そして、、。
とここから俄然面白くなる。普通のミステリーマニアだったら、恐らくこの時点で手記の著者である哀れな父親が真犯人だろうと、一応胸に秘めページを繰るだろう。
ところが二転三転、最 . . . 本文を読む
軽やかなギャクコメディを目ざした劇団なのだろうか、上演回数も決して少なくはないのにみんな素人っぽい。セリフもたまにトチるし、間も合わない感もある。でもその雰囲気にだんだん慣れてくると、味というものも出てくる。
不思議なもんだ。この劇団、軽く見捨てられない何かがある。可愛くもある。そのうち何か余興のような時間が結構長く続き(ほとんど一人の俳優の集中芸だが)、最近の若者(学生たち)の趣向も味わえる展 . . . 本文を読む
たまにメジャーの演劇を見る。とはいってもキャラメルだから、商業演劇って程高尚ってわけでもない。十分演劇の粋を楽しめる。成井さんの演劇はどれもみんな観客を感動させる。僕はいまだ、愚作といったものに会ったことがない。
今回も39年前にタイムマシーンで1970年に戻り、と少々派手目なところはあるが根はしっとりと、人の心の湯気を描いたものである。小演劇と違い前から20席ほど後ろの方だったので、いつもと違 . . . 本文を読む
舞台には2段ベッドが4台、平ベッドが1台ある。日本人と韓国人がいる。女性も数人。場所はトルコのイスタンブール。
放浪の旅をしているいわゆるパックパッカーたちが安宿に居候している。政治的な不安定が生じ、みんなここに足止めを食っているのだ。
時はまさにサッカーの日韓ワールドカップが行われている最中。日本はトルコに敗れ、今韓国とイタリアが行われている。その試合の2時間を彼らの会話と同時進行させる珍し . . . 本文を読む
舞台にはまっすぐ大きな花道が設営してあり、観客は正面の舞台と両方見られるように少し斜めに席を設定してある。これがなかなか心地よかった。結構足元が自由でくつろげるのだ。
ZAZAはもともと商業演劇場で広く、僕がいつも行っている劇場とは環境的に雲泥の差がある。この観客席がどうも水たまりを意味しているらしく、そういう感じで劇を見てくださいとの前説がある。
話は地味目で、過酷な姥捨てとその山に棲む奇獣 . . . 本文を読む
ちょっと古めかしい時代を意識したミステリー(というか今や懐かし探偵小説といった雰囲気)ですが、登場人物も少なく、真犯人だけはそのうち分かってくる展開になっている。
でも、整形外科で顔を変えるトリックが斬新で、おそらく海外でもないのではないかと思われるほどである。
でも、肝心の殺人のトリックがちょっときつすぎて、現実的ではないなあと思ったり、戦後まもなくといった時代設定にしても、警察が存在する時 . . . 本文を読む
それほど期待しないで見た演劇だった。学生演劇だからなんてという気持ちがどこかにあったのかもしれない。
でもいつも思うのだ。学生演劇を見るために大学構内に入ったりしているとき、街中では見られない学生と巡り合う。そういう若者の純な姿が好きだ。
そんな気持ちで見始めた。とてもいい。今時の学生が源氏でなくて、平氏を演ずること。そこに現代人は何を感じるか、、。この切り口がとてもいい。
白と赤の色彩対比 . . . 本文を読む
2006年江戸川乱歩賞受賞作である。シベリア捕虜収容所の悲惨な実態が目を引く。ミステリーとしては少々物足りない気もするが、30万人という収容人数を考えるに、 歴史上忘れてはいけない事実であることを強調している著者に何やら強い親近感を覚える。
元シベリア抑留兵が書いた手記と俳句という突拍子のない設定は面白い。それを本にしようとする冒頭のとっかかりもワクワクする。
しかし、60年前を現代に蘇らせる . . . 本文を読む
スリランカの政治情勢は正直言って全く分かってなく、最初は少々うろたえる。映像も全編泥臭く、敢えて映像美というものから距離を置いたかのようなオーディアールの姿勢に自分自身はっとする。きつい映画である。
難民がいかに生きて行けるのか、幸運にも難民として受け入れられ第二の祖国で生活を始めたといっても、そこは野戦病院かブラックなやくざしか住んでいない郊外のスラム団地である。
僕にはこのギャングたちとデ . . . 本文を読む
日本推理作家協会賞受賞(短編部門)ということで読んでみた。
小さな島に因縁を持つ人たちの物語である。現在淡路島に住んでいるというそういう環境もこの小説に影響を与えているのだろう、思ったよりなかなかの秀作群である。
ミステリーじみている小説が意外と少なく、かえって面白く読めた。また、ミステリーではおなじみの空白の動機付けなんかはしっかりと描かれている。
僕はその中でも「雲の糸」が一番感動的に読 . . . 本文を読む
どこから見ても一流の映画ですなあ。時代設定がノスタルジーっぽく完璧。カメラがどのシ-ンを見ても秀逸。うっとりです。そして流麗な演出。実にうまい脚本。そして俳優陣のそれこそ完璧な演技。これぞ映画です。
冒頭から観客を乗せてしまう演出も素晴らしいが、ケイトとルーニーの愛の駆け引き演技も見所です。その雰囲気に酔ってしまい、気づいたらラスト近くにまで来てしまうが、冒頭のレストランシーンに移り行き、その手 . . . 本文を読む