妻と散歩していると、遠くに鯉のぼりが泳いでいるのが見えた。
♪ いらかのなみとくものなみ かさなるなみのなかぞらを・・・
妻が歌いながら
「いらかって何?」
「瓦(かわら)のことだよ。瓦を波に見立てて、瓦の波と雲の波の間の空を、鯉のぼりが泳いでいる、という意味だよ」
「そうなの」
会話はそれで終わったのだが、しばらくすると正面に日本瓦の屋根が見え、それが波打っているようだったので
「ほら。あの屋根の瓦が波打っているように見えるのを、いらかの波と言ったんだよ」
「えっ。かわらって屋根の瓦のことなの」
「そうだよ。さっきから説明してるじゃないか。何だと思ったの」
「川原(かわら)かと。川の波のことかと思った」
「鯉のぼりは、人家の庭の上で泳ぐものだろう。その下にどうして川があるんだよ」
「川を横断して、鯉のぼりがたくさん泳いでいるじゃない」
「それは最近の風潮だろう。この歌は、家の横で屋根より高いところを、鯉のぼりが泳いでいる風景を歌ったものだよ」
「そうなのね」
とまあ、何ともお粗末な会話であった。
いらかの波と鯉のぼり。