灰羽連盟と「説明不足」:世界構造の説明について

2007-05-30 23:11:41 | 灰羽連盟
さて前回「説明不足」の言葉が濫用されていることを指摘したが、ここでは灰羽連盟と説明不足の問題について述べてみたい(まだ灰羽を見たことがない人はこの記事を参照のこと)。


最初に断っておくが、今日私が知る限りで、灰羽連盟に対する「説明不足」という評価は見られない。ただ、私が見たレビューは10に満たないし、レビューを書かない人たちのこともある。何より「何となく印象に残るいい話だった」という評価が多いのが気になっているのだ。「何となく」…何と便利で恐ろしい言葉だろうか!おそらく視聴者の中には、「何となく」もやもやとしたものを抱えたまま13話を見終えた人も少ないくないのではないか?よってここでは、説明不足という批判の対象になりう要素の一つ、世界構造の設定(の説明)について考えてみることにしよう。


さて、前掲の過去ログでも述べたことだが、説明不足かどうかは、不足している説明を入れたときに作品がよりよくなるかどうかで判断すべきである(もし必要でないのに説明が欲しいと思うなら、それは単に知りたいという欲求であって批評ではない)。では、灰羽連盟において世界構造の設定や世界の由来の説明は必要であっただろうか…?


答えは「否」である。
確かに、灰羽やグリの街の由来を考えてみること自体はおもしろい。しかし、それを描くには膨大な量の説明が必要になるだろうし(遺跡、トーガ、灰羽連盟、転生のメカニズム、鳥etc...)、また13話で描ききることはおよそ不可能だろう。仮に収まったとしても、おそろしく中途半端な代物ができたに違いない。では26話構成にしていればよかったのか?確かに、クウとの絡みなどを描写するためにあと1,2話くらい必要だったと思わなくもないが、26話では完全に間延びして微妙な内容になったと思う。少なくとも、(26話で)「世界のはじまり」等をお話ではなく説明(真実)として組み込んでいたら、今あるものとは全く違った作品になったことはだけは疑いない。そして少なくとも、その「全く違ったもの」は製作者たちの作ろうとしたものではなかったのである。


では製作者たちの作ろうとしたものとは何だったのだろうか?LOVE WILL LIGHT THE WAY灰羽と「実存」:Wonderingの歌詞からで歌詞について言及し、灰羽連盟と「実存」の表現及び灰羽連盟における「実存」の鋭さで述べたように、灰羽という特殊な存在が自分の存在意義などを求める意味や効果、要するに灰羽の「実存」の問題が根幹に据えているのである。その狙いが上手くいっており、かつ余計なもの(説明)を極力排除したからこそ、灰羽連盟という作品は視聴者の心に残る作品になったのだと言える。あるいは世界の構造を説明することで話が壮大になれば、前半の生活の情景などで培われた個人への密着感が失われ、灰羽が苦悩する姿もどこか遠いものとして受け取られたであろう(要するに逆効果)。このように、世界の構造などについて説明を加えることは、あまりに大きなデメリットを伴うのであった。


以上から改めて結論をくり返すと、(特に13話という範囲内において)灰羽連盟には世界構造の設定や世界の由来に関する説明が不要どころか、無くて正解(本編のままで正しい)だったと言えるだろう。



冗長の最たるもの。引き際を誤った人気漫画。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 情報過多 | トップ | 月野定規と木工用ボンド »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

灰羽連盟」カテゴリの最新記事