昨日は人工知能の「支配」という概念がそもそもおかしいことを書いた。というのも、人は自由意思でそれに隷属するような状態となっていくため、今の私達が自分をスマートフォンの奴隷とは思わないように、未来の人間も自由意思と選択の余地が明確に毀損されない以上、自らを人工知能の奴隷とは認識しないだろう、という話だ。
しかし一方で、Cambridge Analyticaやロシアンゲート疑惑、goomailの情報収集とその利用など、ユビキタスが私達をより効率よく支配するために使われるのではないかと懸念する人はいるだろうし、それは妥当なものだ。しかしながら、それに対抗するためには、近代的な自由意思の概念と、それを侵されるが故の反抗という旧来の図式では人を動かすのは難しい。なぜなら、政府ではなく地域住民が監視カメラを設置することを望むように、ビッグブラザーVS民衆ではなく、監視を望むリトルピープル(ないしリトルブラザー)が多数存在するという現実があり、その人たちを動かすのは極めて困難だと考えられるからだ(そのような認識が、neo-reactionism的予測を私がする根拠の一つである)。
・・・と昨日の記事に注釈をつけたところで今日のお題。先ほどロシアンゲート疑惑と書いたが、軍事力で以前のようなプレゼンスを保てないロシアが採っている戦略が「ハイブリッド戦争」と呼ばれていることは以前にも触れたことがある。膨大なデータ化が進んでおり、人がそれを処理しきれなくなって即物的な反応をしやすくなる現状とその未来を考える時、ロシアの政策について見ておくことは様々ヒントになる部分があるだろう・・・という感じで小泉悠のロシアの(主に軍事)政策に関する講演の動画を転載させていただきましたよと。
それでは以下、感想めいたことをつらつら書いてみたい。
〇共産主義崩壊の影響で男性の平均寿命が大幅に低下
そう言えば旧共産圏って自殺率が高いってのは統計データとかでも言われてますな。まあ旧ソ連時代に正しいデータが示されているのか、ってのも気になるが、共産主義態勢崩壊による社会環境の激変とアノミー、労働環境の劇変(悪化)・・・といった影響がもろに出たのだろう。小泉はロシア男性が飲んだくれてた話などをしているが、受け皿がない状況で梯子を外された人間が陥りやすい状態として、他山の石とすべきだろう。
〇ロシアのプレゼンス維持・拡大政策
ロシアの軍事力が具体的な数字で示され、その展開の仕方が西側寄りであることが言及されている。このような状況を見る時、トランプのシリア撤兵、ブレグジットの混乱(そこから欧州の多極化が進めばなお良し)、米中対立といった要素をロシアとしては最大限活用したいところだろう。
経済制裁や原油価格の下落は相変わらずきついが、他の産油国にも影響が出ているので、サウジなんかがある程度んとこで調整したいっす、と言ってたのは果てさてどうなったんだったか・・・
しかしこうして見ると、ロシアの周辺国にとってロシアの侵攻ってのは極めて現実的なことなんだなと痛感する。たとえばラトビアではロシアが再度侵攻してきた時の備えとして様々なものが分散してデータ化されてたりするが、そりゃ当然のことではある。
その他にも、今でこそ隣国ではないが、何度もロシアという名の悪夢に苦しめられたポーランドは、1956年のスターリン批判を受けた民主化運動の際にも、ハンガリーと違ってゴムウカが民主化運動をある程度のところで沈静化させ、軍事介入を防いだのであった(ご存知のようにハンガリーは軍事介入があってナジ=イムレが処刑された。しかしこの問題は同時期に起こっていた第二次中東戦争で英仏イスラエルに国際的非難が集まっていたこともあり、そこまで大々的にはクローズアップされなかった)。よくよく考えてみれば、それはたった60年前のことであり、しかも今はウクライナ問題とかが起こったばかりやからねえ・・・そら警戒しますわ。
〇ロシア的世界観
ロシアが世界をどう見ているか、という話が極めて説得的でおもしろい(これはロシアの世界観を肯定しているのではない。しかし、ゲームの対戦相手の思考・志向・嗜好を知るのは定石中の定石だ)。こうして改めてロシア領土の必然性のなさ(ヤクートやブリヤート、旧カザン=ハン国などを含む民族的多様性)を聞くとその危うさは明確であり、それが旧ソ連領への帝国主義的観念とも繋がり、また一地域の自立であっても他地域への連鎖反応に繋がるとして強硬な態度を取らせる原因だろう(中国も同じ問題を抱える)。だから自立傾向は承認しないし、どころか積極的に叩き潰しにいく。北方領土についても、こういった背景を元に考える必要がある。まあ端的に言うと、よほどの旨味が相手にないと無理って話である。「正論」を言えばわかってくれる、行動してくれるなんてのはウェーバー的に言えば「政治的未熟児」と同じなので(「正論を言うことが正当性を担保する」、即ちこちらの立場を強化する根拠として重要であるのと、正論だから相手もそれをわかってくる、受け入れてくれる、ということの間には巨大な溝がある・・・ということがあまり理解されてないように思える。もちろんやられてる側=日本側としては俺も腹が立つのだが、それと交渉が上手くいく戦略であるか否かは別の話である)。
〇ソルジェニーツィンの話
要するに反体制派の代表的人物であるソルジェニーツィンが、一方で帝国主義的思考・行動には賛同しているという話で、これまた非常に興味深い。単純化された情報をドラッグのように摂取させられ動員されるのが嫌なら、結局複雑性に目を向けるしかないんじゃねーすか?という趣旨のことを最近よく書いているが、まさにこういうことだ。
ちなみに私がここで想起したのは、アメリカの核開発とスパイの暗躍である。アメリカがマンハッタン計画で原爆を開発した頃、その情報を入手しようとアメリカ共産党員やKGBのスパイが蠢動し、それは見事に成功した。そしてそれが上手くいった理由は、アメリカの原爆開発に関わる研究者の中に、元共産党員であったり、共産主義に魅力を感じていたり、アメリカの帝国化を懸念した者たちがいて、程度の差こそあれ自ら情報を流したからである(クラウス=フックスやセオドア=ホールが有名)。
国家の威信をかけた武器の開発というと、多くはフリッツ=ハーバーのような、愛国者をイメージするかもしれない。そして、兵器が使われた後に現実を知り、批判的な態度を取るような者もいるよね、と考える(この記述にそのまま当てはまるわけではないが、ラッセルとともに宣言を出したアインシュタインがわかりやすい。とはいえ、ちょっと長い注釈をつけると、ハーバーはナチスドイツの人種政策には反発したし、ホールもその発言が事実ならば、アメリカの巨大化を懸念した人物であり、そも「愛国」とか国にロイヤリティーを感じるとは何なのか、と思わされる事例でもあるが。少なくとも、政府という名の長い物には巻かれることが愛国であるかのような言説は、歴史的に見れば愛国と言うよりはむしろただの権威主義にすぎない、と明記しておきたいところではある)。
しかし実態としては、そもそも研究者が多様な国籍で共同研究を行っていたこともあり、その思惑は様々であった。そしてそのことが、原爆の開発情報をソ連へともたらし、冷戦体制が構築される一つの要因となったのである。
〇(ウズベキスタンや)トルクメニスタンは言う事聞かない
そら「トクルメンバシ」とか言って現代の専制君主制みたいな事やろうとしてる国が、他所の命令聞くわけねーよなw
〇ジャイアンリサイタル
みんなスルーかよwwwあまりに喩えが的確すぎて、俺が現場にいたら爆笑をこらえて「ヒヒヒッ」っと筒井康隆のキャラがやりそうな笑い声を漏らしてまいそうだわw
〇ロシアを研究し始めたきっかけ
シベリア抑留経験者が身近にいて育ったという話は初耳でしたわ。
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