実話を基にした映画「引っ越し大名」(犬童一心監督)を観る。参勤交代より経費も労力もかかるという、江戸時代にあった国替え=転封の悲哀をコメディにした物語だ。引きこもりの侍から引越奉行になっていく過程・成長を星野源が見事に演じる。 実話の「引っ越し大名」のあだ名がある松平直矩(ナオノリ)は7回も国替えしたという。そうした苦境実話を基にして、監督はそれをアイディアと人間力とで乗り切る娯楽時代劇にしている。
「引越は'戦’でござる」という台詞にあるごとく、失敗すれば切腹ものだった。幕府は、外様大名の勢力削減や親藩・譜代による要衝地治安対策として国替えを実施した。国替えには今の経費に換算すれば15億円はかかるという。したがって、大名は莫大な経費と労力を負担しなければならない。
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そうした困難を「引越歌」を踊りながら道中を行列したり(振付は野村萬斎)、引っ越しのノウハウを古文書の手引きで解決したり(姉さん女房的な高畑充希)、曲者を追い払ったりして(豪胆な高橋一生)、愚直に困窮を生き延びていく。それは現代のサラーリーマン社会の閉塞を打ち破るヒントに満ち満ちている。
最後に、リストラされて帰農した武士も合流してともに農的暮らしを始めるのも現代的示唆に富んだものだった。