山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

近代日本の経済の礎を作った渋沢栄一

2021-04-15 20:55:39 | 読書

 「渋沢栄一」の生涯を描いた、津本陽『小説 渋沢栄一 上・下』(幻冬舎、2007.2)を読み終える。「小説」と銘打っているものの、史料の引用が多く、史録とか実録とかのほうが実態に近いように思えた。その意味ではむしろ、史料にもとずいた経過にこだわり過ぎて著者の大胆な想像力に欠けている気もする。うがった見方をすれば、その弱点ををカバーするように「小説」をむしろ冠しているのかもしれない。

                       

 基本的な流れは大河ドラマにも展開されると思うが、尊王攘夷運動にのめり込みながら開国路線に切り替え、さらには公務に見切りをつけ民間での経済活動の基礎を邁進していく。その変わり身の早いリアルな視座は、実家での「藍」をめぐる商いにルーツがある。それらを支えていたのは論語の教えであると著者は繰り返し示唆している。

               

 日本の大企業の退廃が次々出てきているが、論語をふまえた企業倫理を重視していた栄一の再評価を著者は現代に提起する。栄一は二宮尊徳の影響もあったに違いない。明治から昭和初期にかけてこの「報徳思想」を大切にしていた実業家は少なくない。しかし今は、東芝をはじめ目先の利益ばかりを求める体たらくに走り、地球規模の課題・哲学を欠落したやましい結果しか出てこない「いま」ということになる。

               

 だから、世界の先進だった日本のITも環境政策もいまや大きく水を開けられてしまった。各国の思惑を超えた「EU」という発想は、困難は山積しているもののその指導者・政治家の哲学や倫理に深さを感じる。いま渋沢栄一を注目するとはそのグローバルな倫理とフットワークを学ぶことに他ならない。大河ドラマはそれを描きだせるかどうかも注視したいものだ。

 

 

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