石碑調査(栃木県限定)と拓本等について(瀧澤龍雄)

石碑の調査(栃木県内限定)を拓本を採りながら行っています。所在地などの問い合わせは不可です。投稿は、実名でお願いします。

風化石碑の解読と復元ー複写法を読んで

2006年08月03日 | Weblog

 知人から、歴史考古学研究会発行「歴史考古学」第57号 2006年3月号の中の抜き刷り「風化石碑鑿跡が残っているー風化石碑の解読と復元ー複写法」塩原 都氏論考を頂いた。要約すれば、拓本を取った石文をいかに解読するかの方法論で、ここでは主にコピー機を使用した方法での解読しやすい複写の仕方を述べている。
その内容、はっきり言って時代錯誤である。コンピュータの発達している今、このような方法はそのパソコンを利用しない、出来ない人々の方法論であって、還暦を過ぎていても少しパソコンに慣れていれば、パッパッパッとキーボード操作でものの数秒で出来てしまうことを、延々と紙面を無駄使いして述べている。
 当然ながら、コピーを繰り返せば拓本文字は劣化してしまうが、パソコンに取り込んだ画像はそんなこともなく(基本を知っていればの話しだが)、自由自在に文字画像編集から拡大まで思いのままである。もちろん、パソコンでタンポでの墨入れ追加も自由に出来るし濃淡なども思いのまま、またその論考の中で述べている鏡像などはクリック一つで瞬時に出来てしまう。今は、そういう時代なのである。それよりも、なぜ文字を誤読してしまうのか、その原因推理の方がもっと面白かったのに、と思う。(それでは論文にならないか…)

 もっと大切なこと、それは私にとってそこに現れた文字が「読めるか」どうかにかかっている。その「読めるか」とは、文字の知識の無さから来る恐怖であり、漢文、古文、異体字、中国語、台湾語、全てに長じていない私には、そのことの方が問題なのである。学生時代には、漢文は好きな学科であったが「好き」と「出来る」は別問題であることを多くの石碑に出てくる願文から悟らされ、今さら漢文や古文書解読教室に通うことも出来ず、たった一文字の解読に数日を費やす有様。それでも、解読できればバンバンザイで、その多くは不解読文字となって、空しく空白の口マスを表記する有様である。
 しかしそのロマス、それには以下のような4種類の分類があると自分で区別している。

1、[不解読]=いわゆる、文字の形ははっきりしていながらも、「私には読めぬ文字」という意味であって、解読に長けた人や博学の士には簡単に読めてしまうかも知れない文字のことである。あくまでも「私には不読」という文字が石面にあることを意味する。特に異体字には悩まされるが、それをクリヤーすれば今度はいわゆる書家による創制文字に苦しまされること多々である。
2、[未解読]=何の努力もせずに文字存在確認だけで済ませたもので、後日の再調査再読を意味している文字のことです。その意味では(1)の以前にある文字のことです。(これって、面倒なときは時々行ってしまいます)
3、[不読]=私のみならず、恐らく誰も読めないだろうと感じる、文字の痕跡だけや砂岩などの酷く摩耗した文字があることを確認したものです。こうした文字を読んでしまう御仁が私の先輩にいることも事実ですが、その人を神様としています。尤も文字が読めないのに、深読みして前後の文字から判断して「無理に読んでしまう」猛者も時にはいますが、これは特に慎む行為だと考えています。後世に恥をさらす結果となります。
4、[不明]=欠損や剥離などによって、文字があったことが判る箇所のことです。現実に文字が無いのですから、これぞまさしく誰も読めません。推測は可能な時がありますが…

これを、石仏研究者の方々が統一してくれないので、例えば「字字字[  ]字字ロ字字」となっていても、その虫食い箇所は[不解読]なのか[未解読]なのか、それとも[不読]なのか[不明]なのかが、そこからは一切判らないのです。その方が、問題ありだと思いませんか。それが[不解読]や[未解読]文字なら挑戦のし甲斐もありますが、行って実見すれば[不明(欠損などで読めない)]該当文字だったりすると全くのガッカリ物です。
 そんな、論議がこれから博学の皆様によって発展し、一つの方向へ向かえば何と便利なことかと、つまらぬことを考えました今回の読後感です。
※それ以外に感じたことを述べると、調査時には誰でも手写するものだが、その手写するときに転記間違いを起こすこと。拓本を採らぬ時には特に細心の注意を以て手写すべきである(私の場合は、手写だけの場合は最低で現地に2回は行って再校正します)。多くの(自分のをも含めて)方の報告書(特に市町村の発行する報告書)ではこの手写時の間違いが非常に多く見られます。その最大の要因が、漢文が読めない人による調査のために前後の意味も判らず、自分の浅い知識だけで適当な文字を書き込んでしまうからでしょう。
そんな例として「堕」と「随」の石に刻まれた文字の区別がつきますか。また、基本的な「己・已・己」等が自信をって識別出来るでしょうか。更に、異体字のチョッとした文字形の違いを区別出来ますか。同様に、漢文の知識を以て、前後の文字から該当する漢字一文字を推測出来るか、時代背景を知識として持っているかなど等、石碑調査は「不器」という様々な学問知識を要求されますので、片手間に拓本採りだけが趣味ならまだしも、それを読み下すとなると、もう大変なことになりますが、それに耐えられる努力が必要でしょう。そしてそれを為した人にだけ与えられるのが、拓本などを元に文字を清書し、その意味を理解する喜びを味わえることでしょう。そして何よりも、「無以先入語為主」とあるように、私は常に読めない文字に出会ったなら、それを確定し読むには「本当にその文字で良いのか」と「疑い」の精神で、何度もあれやこれやと文字と格闘し、数日悩んでからのことにしています。
そんな石碑判読の難しかった例として、一例を挙げて置きますので興味がありましたら、「栃木県那須町の石碑」を検索してからその中の「諭農の碑」を御笑覧下さい。全景写真と銘文に拓本画像、読み下しが個々に掲載されていますので‥。以上、未熟な者が生意気にも記しました。ご苦笑くださいまして、鰓を張った私の物言いをご寛容下さい。

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