一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『凶悪』……リリー・フランキーとピエール瀧の狂気の再現力が光る傑作……

2014年02月27日 | 映画
大好きなリリー・フランキーが出演しているので、
どうしても見たかった映画『凶悪』。
公開されたのは、昨年(2013年)9月21日であったが、
佐賀県での上映館はなく、
<福岡まで見にいかなくては……>
と思っている間に、上映終了してしまい、
昨年はとうとう見ることができなかった。
DVDの発売(2014年4月2日)を待たねばならないか……
と思っていたところ、
小倉の昭和館で、
2月22日から3月14日まで上映されることを知り、歓喜。
昨日、ようやく見ることができた。


小倉昭和館は、
小倉駅から歩いて6~7分の場所にある。


さあ、いよいよだ。


小倉昭和館は、
2本立て1000円で上映している、いまどき珍しい映画館。
(映画の日、水曜レディスデイ、木曜メンズデイは800円)
ちなみに、現在上映中のもう1本は、
『劇場版 ATARU - THE FIRST LOVE & THE LAST KILL -』。


館内は、その名の如く、昭和の香りのする雰囲気。
もちろん指定席ではなく、
自由に好きな席に座ることができる。
いいね~

で、映画『凶悪』である。
見た感想はというと……
やはり、すごい映画であった。
私の好きな韓国映画『殺人の追憶』を彷彿とさせる、
骨太の「社会派サスペンス・エンターテインメント作品」であったのだ。


スクープ雑誌「明潮24」の記者として働く藤井修一(山田孝之)は、
東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤純次(ピエール瀧)から届いた手紙を渡され、
面会に行き、話を聞いてくるよう上司から命じられる。


面会室で向かい合った須藤は、
いきなり、こう語り始める。

自分は死刑判決を受けた事件の他に、
誰にも話していない3つの殺人に関わっています。
そのすべての首謀者は、自分が先生と呼んでいた男です。
そいつが娑婆でのうのうと生きているのが許せない、
この話を記事にしてもらい、先生を追いつめたい。


警察も知らず闇に埋もれた3つの殺人事件。
これらすべての事件の首謀者は、
“先生”と呼ばれる木村孝雄(リリー・フランキー)という不動産ブローカーであり、
記事にしてもらうことで、
今ものうのうと娑婆でのさばっている“先生”を追いつめたいのだと告白したのだ。
半信半疑のまま調査を始める藤井だったが、
やがて、須藤の話と合致する人物や土地が次々と見つかり、
次第に彼の告発に信憑性がある事に気付き始める。
藤井はまるで取り憑かれたように取材に没頭していくのだが……


この予告編も秀逸。


原作は、
死刑囚の告発をもとに、ジャーナリストが闇に埋もれた殺人事件を暴き、
犯人逮捕へと導いた顛末を綴った、
新潮45編集部編『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(新潮文庫)。


ベストセラー・ノンフィクションの映画化……ということで、
そう、これは実話を基に制作された作品なのである。
映画が、あまりに凄惨な内容なので、
予備知識なしで見たら、
まさか実話だとは思わないかも……

監督は、白石和彌。
1974年12月17日生まれ。北海道出身。
1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。
以後、若松孝二監督に師事し、
フリーの演出部として行定勲、犬童一心監督などの様々な作品に参加。
長編デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2009年)を経て、
本作の監督を手がけている。
長編2作目にして、この傑作をものするとは、すごい才能である。
脚本、演出ともに秀逸であるが、
感心したのは、キャスティング。
よくもこれだけの個性派を集めたものだと思う。


まずは、山田孝之。
人間ドラマ、バイオレンス描写を含むワイルドな作品、コメディ作品など、
ジャンルを問わず出演し、
その表現豊かな演技には定評があるが、
本作では、
事件の真相を暴きだそうとする主人公のジャーナリスト・藤井修一という男を、
実に見事に演じていた。
正義感にあふれる男が、死刑囚・須藤純次に感情移入することによって、
どんどん闇に入り込んでいって、
次第に暴走していく様が、とてもリアルであった。


ピエール瀧。
復讐心をたぎらせ獄中から未解決事件を告発する死刑囚・須藤純次役。
大人気テクノバンド・電気グルーヴのメンバーであるが、
俳優としての顔が大きくなってきたのを感じる。
ここ数年の映画出演だけでも、
『モテキ』(2011年)
『ALWAYS 三丁目の夕日'64』(2012年)
『はやぶさ 遥かなる帰還』(2012年)
『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)
『のぼうの城』(2012年)
『そして父になる』(2013年)
など、話題作が多く、
幅広い役柄を演じてきているが、
今回の『凶悪』の殺人犯役は、
これまでで一番似合っているのではないかと思わせるほど、
ハマっていたように感じた。
それほど恐かった。


リリー・フランキー。
告発された殺人事件の首謀者と目される“先生”木村孝雄を演じているが、
いやはや、これほど巧く演じているとは……
普段、ニコニコして、アタリの柔らかい人ほど、
本当は恐いのだということを、思い知らされる。
ピエール瀧が演じる須藤には、まだ人間的な部分があるが、
リリー・フランキーが演じる“先生”には、それがない。
老人ホームが油田に見えるほど、
人が死ぬこと(殺すこと)を何とも思っていない。
この映画を見た人は、
きっと、リリー・フランキーの笑い声に恐怖を抱くはずだ。


その他、
事件の異常さに触発されていく藤井を支える妻・洋子役の池脇千鶴、
(この役は、原作にはない映画での創作であるが、藤井の妻を配したことで、作品にグッと深みが出た)


保険金をかけられて殺される男の妻・牛場百合枝を演じた白川和子、
(40年前は、我々男性を虜にした官能女優であったが……)


藤井修一の(認知症の)母親・藤井和子を演じる吉村実子、
(藤井の妻と同じく原作にはない役だが、吉村実子の演技が素晴らしい)


須藤の内縁の妻・遠野静江を演じた松岡依都美、
(官能的肉体とやさぐれ感が秀逸)


藤井修一の上司・芝川理恵を演じた村岡希美など、
(いそうでいない独特の存在感を持っている)


個性的な俳優たちが素晴らしい演技をしていた。

最近の映画やTVドラマは、
のっぺりとした顔の美男美女ばかりを登場させて、
没個性的な作品ばかりになってしまっているが、
本作で、久しぶりに個性的で魅力的な面構えの俳優たちを見ることができた。
ピエール瀧にしても、
リリー・フランキーにしても、
本来、俳優ではないが、
俳優一本できた男優たちにはない「面構え」と「自然体でリアルな演技」がある。
白石和彌監督の手柄は、
ひとえに、このキャスティングの良さと巧みな演出にあったと思う。


書きたいことは山ほどあるが、
それは時間があるときに書き加えるとして、
本作のレビューはこの辺で終わりにしたい。

見たかった映画『凶悪』を鑑賞したことで、
私の2013年日本映画ベスト10が決定した。
順位をつけるのは苦手なので、鑑賞順で記すと、
(タイトルをクリックすると、レビューが読めます)

●『舟を編む』
●『くちづけ』
●『許されざる者』
●『そして父になる』
●『箱入り息子の恋』
●『さよなら渓谷』
●『ペコロスの母に会いに行く』
●『四十九日のレシピ』
●『共喰い』 
●『凶悪』

の10作となった。
『夏の終り』や『横道世之介』や『東京家族』も入れたかったが、
泣く泣く選外へ。
2013年公開作品は、質の高い作品が多かったし、
大いに楽しませてもらった。
感謝。

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