日本の女優で、
〈出演作はすべて見よう〉
と決めている女優は広瀬すずだが、
アメリカの女優で、
〈出演作はすべて見よう〉
と決めている女優はエル・ファニングだ。
そのエル・ファニングの主演作が公開された。
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督の『パーティで女の子に話しかけるには』である。
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督といえば、
デビュー作のロック・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001年)以来、
常に観客をワクワクさせてくれているが、
16年間で4本だけという寡作な監督なので、
新作が公開されると聞いただけで期待に胸がふくらむのだ。
しかも、
(すでに数多くの映画祭で上映されてはいるが)
一般公開は、制作本国に先駆け、日本が世界初なのだとか。
〈これはぜひとも見なければ……〉
と思い、上映館を検索したら、
福岡:KBCシネマ(12月1日公開)
長崎:長崎セントラル劇場(2018年2月23日公開)
熊本:Denkikan(2018年1月13日公開)
大分:シネマ5(2018年1月13日公開)
宮崎:宮崎キネマ館(2018年1月27日公開)
鹿児島:天文館シネマパラダイス(2018年2月10日公開)
あらあら、いつものように、佐賀だけは無いではないか。(笑)
しかも、福岡のKBCシネマ以外は、来年(2018年)の公開となっている。
早く見たかった私は、
すでに行きつけとなっている(笑)福岡のKBCシネマまで行ってきたのだった。
1977年のロンドン郊外。
大好きなパンクロックだけを救いに生きる冴えない少年エン(アレックス・シャープ)は、
友達2人と奇妙なパーティに忍び込む。
斬新なデザインの服を着て、
パフォーマンス・アートのような動きをしている人たちを、
エンたちはアメリカ人旅行者だと思いこむが、
実は彼らは異星人だった。
このパーティで不思議な魅力を持つ美少女ザン(エル・ファニング)と出逢ったエンは、
好きな音楽やパンクファッションの話に共感してくれるザンと、一瞬で恋に落ちる。
しかし、遠い惑星に帰らなければならない彼女と過ごせる時間は48時間のみ。
大人たちが押し付けるルールに反発した彼らは、
一緒にいるために逃避行するが……
最近は、こういったSFっぽい設定の映画が多い。
宇宙を舞台とした大掛かりなものではなく、
地球での日常生活に根差したSF作品。
日本でも、ここ数年、
『団地』(2016年)
『美しい星』(2017年)
『散歩する侵略者』(2017年)
など、同系統の作品が公開されていて、なじみ深いのだが、
これら日本の映画と違うのは、
『パーティで女の子に話しかけるには』が、
美少女と内気なパンク少年の恋の逃避行を描いた青春音楽ラブストーリーであること。
日本の映画がやや古風で理屈っぽいのに対し、
『パーティで女の子に話しかけるには』は斬新だし、理屈なしに楽しめる。
いや、それだけではない。
映画の舞台が70年代であるということも影響しているが、
ある種の“懐かしさ”を感じさせられるし、
ラストには“切なさ”も用意されていて、
私のような中高年世代にも違和感なく楽しめるのだ。
異星人のお姫様的存在の少女が、
48時間だけ地球で遊び回るという設定は、
乱暴な言い方をすれば、
SFパンクロック版『ローマの休日』と言えるかもしれない。
『パーティで女の子に話しかけるには』が、
そんな素敵な作品になっている最も大きな要因は、
やはり、エル・ファニングの存在感だ。
この作品でも、彼女は異彩を放っているし、
とてつもなく魅力的だ。
そんなエル・ファニングを、
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督も手放しで褒めちぎっている。
彼女の世代ではベストな女優だと思う。この脚本を読んで、気にいってくれたので出演が決まった。ザン役は彼女以外考えなかった。今回の映画では彼女の演技者としてのいろいろなスキルが生かせると思った。パンククラブでの歌も自分でこなしている。女優としては本物のプロ精神を持っていて、ナルシスティックなところがまるでない。ずうっとショービジネスで育った子役出身の女優にはどこか常識からずれたところがあるけれど、彼女はすごくノーマルで、彼女みたいな人は珍しいと思う。(『キネマ旬報』2017年12月上旬号)
子役をやっていた頃からのエル・ファニングのファンとしては、嬉しい言葉だ。
私は大ファンであるが、
エル・ファニングのことを知らない人も多いと思うので、
簡単にプロフィールを紹介しておこう。
【エル・ファニング】
1998年4月9日、アメリカ、ジョージア州生まれ。19歳(2017年12月現在)
幼少の頃から、
トッド・ウィリアムズ監督の『ドア・イン・ザ・フロア』(2004年)、
アレハンドロ・ゴンサレス・イリャリトゥ監督の『バベル』(2006年)、
デヴィッド・フィンチャー監督の『ベンジャミン・バトン数奇な人生』(2008年)、
ソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』(2010年)、
キャメロン・クロウ監督の『幸せへのキセキ』(2011年)、
J・J・エイブラムス監督の『SUPER8/スーパーエイト』(2011年)、
フランシス・フォード・コッポラ監督の『Virginia/ヴァージニア』(2011年)など、
著名監督の作品に数多く出演する。
2014年、大ヒット作『マレフィセント』のオーロラ姫役では美しく成長した姿で世界を魅了する。
その後、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』(2016年)と、
ベン・アフレック監督の『夜に生きる』(2016年)ではダークな面を持つ役、
マイク・ミルズ監督の『20センチュリー・ウーマン』(2017年)では、
主人公を翻弄する小悪魔的な役を演じるなど、演技の幅を広げている。
新作は、ソフィア・コッポラ監督の『The Beguiled』(2017年)、
小説「フランケンシュタイン」の作者を演じる『Mary Shelley』(2017年)など。
エル・ファニングには、この他、
2015年に制作された『アバウト・レイ 16歳の決断』(原題: 3 Generations)という作品で主演している。
エル・ファニングがトランスジェンダーのティーンを演じた映画であったが、
日本では当初2016年1月22日の公開が予定されていたにもかかわらず、
様々な事情で、2015年12月に中止が発表された。
トロント国際映画祭(2015年9月12日)で披露された際、凡庸な評価を受けたことや、
シスジェンダー女性であるエル・ファニングがトランスジェンダーの男性を演じたことに対して批判の声が上がった事等が、中止の原因と考えられる。
だが、
来年(2018年)2月3日の日本公開が決まり、映画を見ることができることになった。
『アバウト・レイ 16歳の決断』はぜひ見たいと思っていた作品なので、
今から楽しみにしている。
話が脱線してしまったが、
『パーティで女の子に話しかけるには』には、エル・ファニングの他、
ニコール・キッドマンも出演している。
パンクロッカーたちを束ねるボス的存在の女性を演じているのだが、
これがまたカッコイイのだ。
ド派手なメイクで、見る者の度肝を抜く演技をしている。
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督は語る。
キッドマンの私生活はむしろ保守的な気さえするが、演技となると話が違う。いつも冒険したがっていて、それまでとは別のことにチャレンジする。監督選びも独特で、ラース・フォン・トリアーからパク・チャヌクまで個性的な監督の作品に好んで出ているし、脇役でも興味があれば出演する。次にどんな人と組んだらおもしろいのかをいつも考える。そんな挑戦をしている女性は、たぶん彼女とイザベル・ユペールくらいじゃないかな。ギャラとか名声にはこだわらないし、外見も気にしていない。(『キネマ旬報』2017年12月上旬号)
エル・ファニングと共に、
ニコール・キッドマンの演技も見逃せない。
ザン(エル・ファニング)と恋に落ちる少年エンを、
第69回トニー賞で演劇主演男優賞を受賞したアレックス・シャープが演じているのも本作の見所のひとつではあるが、
それは私ではない誰かが語ってくれるだろう。(笑)
映画『パーティで女の子に話しかけるには』は、
私にとっては、エル・ファニング(それにニコール・キッドマンも)がすべての作品であった。
とにかくキラキラしている。
ぜひ、映画館で……