この映画を見たいと思った理由は、ふたつ。
ひとつは、清原果耶が出演していたから、
もうひとつは、監督が瀬々敬久だったから。
清原果耶については、もう皆さんもご存知のことと思う。
映画では、今年(2021年)だけに限っても、
『花束みたいな恋をした』(2021年1月29日公開)、
『まともじゃないのは君も一緒』(2021年3月19日公開)、
『砕け散るところを見せてあげる』(2021年4月9日公開)、
『夏への扉-キミのいる未来へ-』(2021年6月25日公開)、
(本作)『護られなかった者たちへ』(2021年10月1日公開)と、
すでに5本、出演作が公開されているし、
TVドラマでも、
現在放送中(2021年10月4日現在)のNHK連続テレビ小説、
「おかえりモネ」(2021年5月17日~10月29日)で、
主演の永浦百音を演じ、すでに国民的女優の仲間入りを果たしており、
清原果耶を見ない日がないくらいの活躍ぶりである。
私は、NHKの主演ドラマ「透明なゆりかご」(2018年7月20日~9月21日)を観て、
そのあまりにも素晴らしい演技に感動し、ファンになったのだが、
以来、(映画もTVドラマも)彼女の出演作はすべて見る(観る)と決めて、実行している。
瀬々敬久監督は私の好きな監督の一人で、
特に、
『ヘヴンズ ストーリー』(2010年)
『最低。』(2017年)
『菊とギロチン』(2018年)
のような、マイナーな作品を愛している。
『感染列島』(2009年)
『64-ロクヨン- 前編/後編』(2016年)
『友罪』(2018年)
『楽園』(2019年)
『糸』(2020年)
などのメジャーな作品には、(私にとっては)イマイチなものが多いのだが、
『アントキノイノチ』(2011年)
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017年)
のような、秀作、感動作も混じっているので、
瀬々敬久監督作品は見逃せないと思っている。
本作『護られなかった者たちへ』は、
中山七里の同名ミステリー小説を、
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で主演した佐藤健と、瀬々敬久監督が再タッグを組み、
阿部寛の共演で映画化したもので、
清原果耶の他、倍賞美津子、吉岡秀隆、林遣都、永山瑛太、緒形直人らも出演している。
瀬々敬久監督作品で、清原果耶がどのような演技をしているのか……
ワクワクしながら映画館へ向かったのだった。
東日本大震災から9年後、
宮城県内の都市部で、
全身を縛られたまま放置され餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生した。
両手を拘束されたうえ、四肢や口をガムテープで塞がれ、餓死していた一人目の被害者は、
保健福祉センター課長・三雲忠勝(永山瑛太)で、
二人目の被害者は、
福祉保健事務所の元所長・城之内猛留(緒形直人)であった。
被害者はいずれも善人、人格者と言われていた人物で、
なぜ、このような無残な殺され方をされなければならなかったのか?
遺体の状態には共通項が多く、同一人物による犯行も疑われたことから、
宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎(阿部寛)は、
二人の被害者に必ず何か共通点があるはずだと考え、捜査し、
三雲と城之内が福祉事務所で2年間、同じ時期に職員として働いていたことをつきとめる。
笘篠と、そのパートナー・蓮田智彦(林遣都)は、
保健福祉センターのケースワーカー・円山幹子(清原果耶)に同行して、
生活保護受給者たちと接触し、
行政側が真っ当な対応をしていても逆恨みされていることがあることを知る。
そして二人が、
捜査対象を三雲と城之内が勤務している期間に生活保護申請を却下された者や、
受給していながらケースワーカーの報告で打ち切られた者を調べていると、
利根泰久(佐藤健)が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。
利根は、放火、傷害事件を起こして服役し、刑期を終えて出所したばかりの元模範囚だった。
犯人としての決定的な確証がつかめない中、
第3の事件が起きようとしていた……
「東日本大震災」と「生活保護」という、
デリケートな問題をテーマに絡ませているし、
犯人の意外性はあるものの、犯行動機がやや弱いし、
ミステリーとして成立し難い面もあったと思うが、
瀬々敬久監督作品としてしては、成功している映画ではなかったかと思う。
現在と過去と何度も入れ替えながら、(これが案外難しいのだ)
違和感なく物語を積み上げていく構成は見事で、
脚本(林民夫・瀬々敬久)の良さも感じられた。
私は、清原果耶を目当てに本作を見に行ったので、
清原果耶が見ることができただけで大満足なのであるが、(コラコラ)
瀬々敬久監督の演出で、
これまでとは違った清原果耶を見ることができたような気がする。
10代と、大人になった20代の見た目の変化も、演技の差異も見事であったし、
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」と同じ土地で、
同じ「東日本大震災」を経験した若い女性の役でありながら、
「おかえりモネ」とは真逆とも言える役どころで魅せる。
本作『護られなかった者たちへ』のロケの方が、
「おかえりモネ」の撮影よりも前だったと思うが、
本作でも、
「おかえりなさい」
という言葉が何度も出てくるし、
「おかえりモネ」と『護られなかった者たちへ』は、
表裏を成す作品であったのではないかと考える。
両作の演じ分けも素晴らしいし、
清原果耶という女優の奥深さを見たような気がした。
本作の主役・利根泰久を演じた佐藤健。
『るろうに剣心』(2012年8月25日公開)
『るろうに剣心 京都大火編』(2014年8月1日公開)
『るろうに剣心 伝説の最期編』(2014年9月13日公開)
『るろうに剣心 最終章 The Final』(2021年4月23日公開)
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021年6月4日公開)
など、『るろうに剣心』シリーズを全部見ているので、
佐藤健と言えば緋村剣心のイメージが強いのであるが、
『バクマン。』(2015年10月3日公開)
『世界から猫が消えたなら』(2016年5月14日公開)
『何者』(2016年10月15日公開)
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017年12月16日公開)
『ハード・コア』(2018年11月23日公開)
『サムライマラソン』(2019年2月22日公開)
『ひとよ』(2019年11月8日公開)
『一度死んでみた』(2020年3月20日公開)
など、いろんなジャンルの映画にも出演しており、
このブログでもレビューを書いてきた。
本作では、連続殺人事件の容疑者で、
過去に起こした放火事件で服役し、出所したばかりの男・利根泰久を演じているのだが、
理不尽さ、やり場のない怒り、虚しさなど、
様々な感情を抱えて、それをずっと内包しながら生きている男を、
佐藤健は繊細な演技で表現し、本作を質の高いものにしている。
身寄りがなく、孤独に生きてきた彼は、
震災後、家族と呼べる存在に出会うのだが、
その家族を護るために、彼は、思いがけない行動にでる……
これ以上は話せないが、
感動へ導く彼の演技は、年末の賞レースでも評価されることだろう。
瀬々敬久監督と組んだ『8年越しの花嫁 奇跡の実話』も良かったが、
本作も長く私の記憶に残る作品になると思う。
利根を追う、宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎を演じた阿部寛。
阿部寛の刑事役と言えば、
TVドラマ「新参者」(2010年4月18日~6月20日、TBS)や、
映画『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』(2012年1月28日公開、東宝)、『祈りの幕が下りる時』(2018年1月27日公開、東宝)の加賀恭一郎をすぐに思い出すが、
本作を見ているときも、序盤は、加賀恭一郎のイメージがチラついて困った。(笑)
それでも、中盤から終盤にかけては、次第に、
東日本大震災で最愛の家族を失い、
9年後の今なお喪失感に苛まれながら職務を全うする刑事に見えてきたし、
彼の哀しみ、孤独感が巧く表現されていたように思う。
特に、映画のラストで、
利根(佐藤健)と海辺を歩きながらの演技は秀逸で、
これまであまり見たことのない阿部寛を見ることができたように思う。
利根が震災後の避難所で出会う女性・遠島けいを演じた倍賞美津子。
1946年11月22日生まれの74歳。(2021年10月現在)
倍賞美津子は、若き頃は魅力的だったし、
特に、映画『復讐するは我にあり』(1979年)などでは妖艶ですらあったのだが、
〈どうしてこうなっちゃったの?〉
というくらい変貌してしまった。(コラコラ)
若く美しかった女優は、老いると、
(不自然に)厚化粧して出演するか、
まったく出なくなるかのどちらかなのだが、
倍賞美津子は、厚化粧をすることもなく、自然体でおばあさん役をやっているし、
それは評価に値する。
『あやしい彼女』(2016年公開)
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(2019年公開)
『糸』(2020年公開)
など、ここ数年、映画でよく見かけるようになったのは、
おばあさんの役をできる(有名な)女優が少なくなっているからかもしれない。
本作『護られなかった者たちへ』でも、
事件に関わる重要な役を、抑えた自然な演技で観客を魅了する。
その他、
笘篠誠一郎の亡き妻・笘篠紀子を演じた奥貫薫、
学習塾の代表・宮園真琴を演じた西田尚美、
遠島けい(倍賞美津子)と利根泰久(佐藤健)と知り合うことになる、
家族を亡くした小学生・カンちゃんを演じた石井心咲、
震災後、カンちゃんを引き取った女性・春子を演じた原日出子、
三雲(永山瑛太)の妻を演じた篠原ゆき子、
生活保護受給者のシングルマザーを演じた内田慈など、
私の贔屓の女優が大勢出演しているのも嬉しかった。
殺される役で、
三雲忠勝を演じた永山瑛太や、
城之内猛留を演じた緒形直人など、
主役級の俳優をキャスティングしていたのも驚きであったし、
笘篠誠一郎(阿部寛)とバディを組む刑事・蓮田智彦を演じた林遣都、
国会議員・上崎岳大を演じた吉岡秀隆、
保健福祉センターの所長・楢崎肇を演じた岩松了、
国会議員・上崎岳大の私設応援団・宮原を演じた宇野祥平、
福祉保健事務所、現・所長の支倉を演じた黒田大輔、
出所した利根を見守る保護司・櫛谷貞三を演じた三宅裕司など、
実力のある俳優を脇に配していたのも良かった。
2021年(令和3年)1月現在の、生活保護の、
被保護実人員は2,049,630人で、被保護世帯は1,638,184世帯。
本作『護られなかった者たちへ』では、
「東日本大震災」と「生活保護」を絡ませてテーマとしていたが、
「コロナ禍」の今、「生活保護」の問題は、より重要度を増している。
瀬々敬久監督は、このことに関して、次のように語っていた。
菅首相が、コロナ禍になったときに「自助・共助・公助」と言いましたよね。これはまさしく生活保護の話なんですが、「まず身近な人が助けてください」と共助を訴えた。本来は公助→共助→自助のはずなんだけど、いまの世の中はその逆をやってくれと言う。つまりいま、「護られなかった者たち」がどんどん生まれてしまっている。
そうなってはいけない、そうしたくないためにこの作品があるのに、現実がもうそんな状態になってしまった。この映画が多くの方に響けばいいなという想いはありつつ、東日本大震災から10年経っても何も変わっていなかったとも感じています。というかいまや、もっとひどい状況になっていますよね。そこはとても複雑です。
最初、僕たちは本作をヒューマンミステリーとして作っていました。「社会問題に切り込む!」という感覚ではなく、いかにミステリーとして面白くしようか考えていたけれど、いまの時代がより社会問題のほうにハマるようになってしまった。観客の皆さんが目を向けてくれて、身につまされる部分が、そちらに動いてきたんですね。だから言ってしまえば、時代がこの映画を作ってしまったのかもしれない。(「CINEMORE」インタビューより)
予算が逼迫して国が生活保護受給者の調整や申請を却下する「水際作戦」や、
受給する側の「不正受給」など、
生活保護の実態について描きながら、
社会の矛盾を背負いながら働いている保健福祉センターの職員の葛藤も同時に描いている。
原作者の中山七里は、
「事件の犯人はわかっても、物語の犯人は読み終えた後も誰にもわからない」
と語っていたが、言い得て妙。
そういう意味では、謎解きが最も難しい一級のミステリーだったかもしれない。
本作の終盤、ある登場人物が語る、
「私たちはそういう国に住んでいるんです」
というセリフが重く心に残る秀作であった。