一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『溺れるナイフ』……山戸結希監督が小松菜奈と菅田将暉の美を抉った傑作……

2016年11月10日 | 映画


インディペンデント映画で高い評価を得てきた若き監督たちの、
商業映画デビューが相次いでいる。
真利子哲也監督の『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年5月21日公開)、
中野量太監督の『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年10月29日)に続いて、
若き天才・山戸結希監督の商業映画デビュー作『溺れるナイフ』が11月5日に公開された。
真利子哲也監督の『ディストラクション・ベイビーズ』も、
中野量太監督の『湯を沸かすほどの熱い愛』も、
素晴らしい傑作であったので、(レビューはタイトルをクリックすると読めます)
山戸結希監督の商業映画デビュー作である『溺れるナイフ』も、
期待に胸を膨らませて見に行ったのだった。


東京で雑誌モデルをしていた望月夏芽(小松菜奈)は、
急に父親の郷里である浮雲町に転居することになる。
自分が求めていたものと大きくかけ離れた田舎での生活にがっかりする夏芽だったが、
コウと呼ばれている長谷川航一朗(菅田将暉)と出会ったことで人生が一変する。


コウは地元一帯を取り仕切る神主一族の跡取り息子で、
夏芽はひねくれ者で一風変わったコウに強く惹き付けられる。
そしてコウもまた、この町では異質な夏芽の美しさに次第に惹かれていく。


しかし、火祭りの夜に、ある悲劇が二人を襲う。


深く傷つきコウと別れてしまった夏芽。
孤独な彼女を救ったのは同級生の大友勝利(重岡大毅)だった。


彼の優しさに癒されながらも、
コウに急接近する幼馴染の松永カナ(上白石萌音)に心を乱され、行き場を失う夏芽。


そんなある日、芸能界復帰のチャンスが訪れる。
夏芽はどんな決断をするのか?
コウはどんな想いでいるのか?
永遠を信じていた二人の恋の行方は……




原作は、累計発行部150万部以上を誇るジョージ朝倉原作の同名人気コミック。
小松菜奈と菅田将暉のW主演。
「10代の少年少女たちの挫折と再生を、激しく、儚く、美しく描いたラブストーリー」
そんな映画と聞けば、誰しも軟弱な青春映画を想像しがち。
だが、まったく違っていた。
案外、骨太の、神話的な作品だったのだ。
舞台は浮雲町という架空の町だが、
撮影は、和歌山県新宮市を中心に、南紀・串本などで行われており、
私のような古い人間には、
なんだか中上健次の作品世界を描いた映画のようにさえ思えた。
中上健次の小説で、映画化されている『火まつり』や『軽蔑』などよりも、
より中上健次の作品に近いように感じた。


結論から言うと、映画『溺れるナイフ』は傑作であった。
それも、ビックリするような傑作であったのだ。
山戸結希監督、畏るべし。

山戸結希(やまと・ゆうき)
新鋭女性監督。
1989年生まれ。愛知県出身。
上智大学文学部哲学科卒業。
在学時に撮影した『あの娘が海辺で踊ってる』が評価され、
2012年、『あの娘が海辺で踊ってる』でデビュー。
2014年、『5つ数えれば君の夢』が渋谷シネマライズの監督最年少記録で公開。
『おとぎ話みたい』がテアトル新宿のレイトショー観客動員記録を13年ぶりに更新する。
2015年、日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。



1989年生まれだから、今年(2016年)で27歳。
弱冠27歳の若き女性監督が、このような傑作をものするとは……
本当にビックリ仰天なのである。


映像の美しさ。
アングルの見事さ。
演出の巧みさ。
音楽のセンスの良さ。
どれもが斬新で、ワクワクさせられる。


こんな感覚は久しぶりだ。
上映時間の111分間、ずっと興奮していた。



長谷川航一朗を演じた菅田将暉。


本作での菅田将暉は、神懸かっていた。
演技の素晴らしさは勿論のこと、
存在感や、その容姿の美しさは、神秘的でさえあった。
〈菅田将暉はこの先どうなってしまうのだろう……〉
と心配になるほど、今の彼は振り切れた演技をしている。
山戸結希監督によって抉り取られた彼の美は、
本作で、哀しいまでに輝いている。



望月夏芽を演じた小松菜奈。


演技力はまだこれからという感じだが、
その存在感と美しさはピカイチで、
その鮮烈な美にすっかり魅せられてしまった。
少女の過剰な自意識を描いた作品で注目を集めてきた山戸結希監督によって、
小松菜奈の存在そのものが実に魅力的に描かれており、
『渇き。』(2014年6月27日公開)や
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年5月21日公開)などよりも、
本作の彼女の方が数段素晴らしかったし、美しかった。
12月17日公開予定の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』も控えているので、
こちらも楽しみ。



その他、
松永カナを演じた上白石萌音や、


大友勝利を演じた重岡大毅が、
期待以上の演技で、しっかり作品を支えていた。


書きたいことは多いが、
出勤前なので、この辺で。
天才・山戸結希監督が、
小松菜奈と菅田将暉の神々しいまでの美を撮った傑作『溺れるナイフ』。
映画館でぜひぜひ。
ここ数年の青春映画では、ナンバーワンの作品です。

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