一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

りりィさん、逝く。

2016年11月12日 | 映画


ヒット曲「私は泣いています」で知られるシンガー・ソングライターで俳優のりりィ(本名鎌田小恵子〈かまた・さえこ〉)さんが11月11日、肺がんで死去した。64歳だった。葬儀は近親者で行う。

1972年に歌手デビュー。複雑な女心をハスキーボイスで歌い、女性シンガー・ソングライターの先駆けとして注目された。「私は泣いています」(1974年)、「オレンジ村から春へ」(76年)などがヒットした。

俳優としても活躍。大島渚監督の『夏の妹』(1972年)に出演。話題のドラマ『3年B組金八先生』(2001~2002年)、『半沢直樹』(2013年)では複雑な事情を抱える母親役を熱演した。映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)でも、印象的な演技を見せた。

長男はロックバンド「ファジー・コントロール」のJUONさんで、「ドリームズ・カム・トゥルー」のボーカル吉田美和さんの夫。2009年に出演したテレビドラマ『救命病棟24時』の主題歌は、息子夫妻が歌った。
(朝日新聞)



1952年2月17日、福岡県福岡市生まれ。
母親は中洲でバーを経営、
父親は米空軍の将校で、
りりィはハーフであった。


1972年、20歳のとき、東芝EMIより歌手デビュー。
1974年のシングル「私は泣いています」が97万枚を越える大ヒット。
その美貌と、独特のハスキー ヴォイスで、一世を風靡した。


女優デビューは、大島渚監督作品である『夏の妹』(1972年)。


本土復帰にわきかえる沖縄を舞台に、
戦中、戦後を通じて日本と沖縄を引き裂いた愛と憎しみを、
沖縄の美しい自然を背景に、少女の心情を通して描いた秀作。
主人公の菊池素直子(愛称「スータン」)を、
当時、大人気だった栗田ひろみが演じて話題になった。


りりィは、スータンのピアノの家庭教師で、父が再婚しようとしている若い女性、小藤田桃子を演じている。



りりィは、
24歳のとき結婚するが1年で別居、7年後の1981年離婚。
1982年、ビクター音楽産業に移籍。
その後2度目の結婚をし、活動休止。JUONを出産。
子育て中は郊外に移り住んでメディア露出も控え、数年間主婦業に専念。
子育てが一段落した1997年頃から復帰した。

1997年10月10日から12月19日まで、
毎週金曜日(22:00~22:54)に、
TBS系の「金曜ドラマ」枠で放送されたTVドラマ『青い鳥』は、
私が好きだったドラマで、
優れた脚本家にしてミステリー作家でもあった野沢尚が脚本を担当しており、
主演の豊川悦司の格好良さ、
夏川結衣や山田麻衣子の美しさが印象的な傑作であった。




りりィは、
豊川悦司が演じた主人公・柴田理森(しばた・よしもり)の生き別れの母親・岡安すみ子を演じている。
理森は、5歳上の兄・敬文を尊敬していたが、
9歳の時に水難事故で、敬文は理森を救い出し犠牲になる。
土地にも夫婦間にも閉塞感を抱いていたすみ子(りりィ)は、
一家の期待の星であった敬文が死んだ直後、他の男と失踪し、夫と離婚。
理森(豊川悦司)が、かほり(夏川結衣)と、誌織(鈴木杏)を連れて北へ向かい、
岩手にある理森の母・すみ子(りりィ)の牧場に身を寄せる第5回で、
初めてりりィが登場するのだが、
最初見たとき、それがりりィとは判らなかった。
エンドロールでりりィと知ったのだが、大層驚いた。
ハーフとしての面影が薄れ、まったく別人のりりィがいたからだ。
若いときは違い、演技も格段に上手くなり、
このドラマで、女優・りりィの誕生を目撃したといえる。



ここ数年の映画出演作では、
やはり、今年(2016年)3月26日に公開された、
『リップヴァンウィンクルの花嫁』が強く印象に残っている。
そのレビューで、私は次のように記している。

真白の母・里中珠代を演じた、りりィ。
出演時間も短いし、
ラスト近くに出てくるだけなのだが、
見る者に、強烈なインパクトを残す。
とにかく「スゴイ!」の一言。
最近は、スクリーンでも老け役が多いのだが、
本作でも、老いた女を実に巧く演じていた。
いや、「成りきっていた」というべきなのかもしれない。
こんなに驚かされるとは思ってもみなかった。
このシーンを見たとき、私など、
〈本当に岩井俊二監督作品?〉
思ってしまったほど……

とても好きなシーンです。りりィさんが神々しくて。切なくて。人の家を借りて撮影したんですが、本当に部屋が狭くて、撮りながら、みんなヘンな感じになっていって。よくわからないな、このシーン、と思いながらやっていました。(笑)。ヘンな空気が充満して、岩井さん自身もカメラをずっと回したりしていて、不思議なシーンでした。(『キネマ旬報』2016年4月上旬号)

と、黒木華が語っていたが、
このシーンだけでも、
この映画を見る価値はあると断言できる。
りりィの演技もまた、
助演女優賞候補になるほどのものであったと付け加えておかなければならないだろう。


『リップヴァンウィンクルの花嫁』でのりりィの演技は、とにかく凄かった。
彼女自身、撮影時、あるいは“死”の予感があったのかもしれない、
“覚悟の演技”ともいえるくらい凄まじいものであった。


傑作『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、
DVDも発売され、レンタルも開始されているようなので、
まだご覧になってない方は、ぜひぜひ。(レビューはコチラから)

りりィの出演作として、
来年(2017年)2月25日公開予定の『彼らが本気で編むときは、』が控えている。
女性として人生を再出発しようとしているトランスジェンダーとその恋人のもとに、
母親に置き去りにされた少女が引き取られてきたことから始まった3人の奇妙な共同生活を描いた作品で、
主演のトランスジェンダーのリンコ役を生田斗真が、
そのパートナーであるマキオ役を桐谷健太が演じている。


私の好きな女優も多く出演している。
『かもめ食堂』などで知られる荻上直子監督の5年ぶりの新作なので、期待できるし、
この作品で、女優・りりィを見送りたいと思っている。


享年64歳。
ずっと年上のお姉さんと思っていたら、
ちょっとだけ年上の、ほぼ同じ年代の歌手であり女優であった。
『リップヴァンウィンクルの花嫁』での演技を見て、
女優としてのりりィの今後を楽しみにしていた私としては、
本当に残念でならない。
謹んでご冥福をお祈りいたします。


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