一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『オーケストラ!』 ……ラスト12分22秒、身震いするほどの感動が……

2010年04月29日 | 映画
ゴールデンウィークが始まった。
が、私の仕事はGWなんかとは無縁。
仕事の毎日。
私の休みはというと、
本日(29日)と、
所属する山岳会のGW特別山行が予定されている5月3日、4日のみ。
(これも申請してやっと取得できた)
あとはずっと仕事をしている。

昨年の今頃は、体調を崩して、薬の副作用で苦しんでいた。
あのような体験は二度としたくないので、今年は無理をせず、躰に気を遣ってきた。
自分のことだけを考え、マイペースを守ってここまで来た。
お蔭で、今年は体調も良好で、楽しく日々を過ごしている。
有り難いことだ。

そんな必殺仕事人である私の貴重な休みであるところの今日は……
山か?
映画か?
読書か?
と悩んだが、映画に行くことに……
見たい映画があったのだ。
この映画の存在を知った日から、ずっと見ることのできる日を待っていた。
山は逃げない。
本も逃げない。
だが、映画だけは逃げるのだ。
チャンスを逃すと、映画館では見ることができなくなる。
「DVDがあるじゃないか」という人もいるが、
映画館で見る映画と、DVDで見る映画は別物なのだ。
映画館で見てこそ、映画を見たと言えるのだ。
だから、どうしても見たい映画があったら、迷わず「映画」を選択しなければならない。
ミニシアター系の作品だと、普通、上映期間は2週間~3週間。
「次の休みにでも……」なんて呑気に構えていると、映画はいつの間にかどこかに消え去っている。
一度逃すと、リバイバル上映でもない限り、もう二度と映画館では見ることができない。
大袈裟に言えば、もう永遠にその作品に逢えなくなるのだ。
ということで、今日は福岡まで行ってきた。
見た映画は、『オーケストラ!』。
この作品、佐賀県での上映予定は、今のところ無い。
だから、福岡まで行く必要があったのだ。
映画館は、天神にあるKBCシネマ。
本日の第1回目の上映に合わせて行ったのだが、行列ができていた。
真ん中よりやや前目の席を確保できて一安心。
その後も続々と入場者があり、とうとう満席になってしまった。
最前列までびっしり。
さすが福岡の映画館だ。

さて、『オーケストラ!』は、どんな物語かというと……

ロシア・ボリショイ交響楽団で劇場清掃員として働く、さえない中年男アンドレイ(アレクセイ・グシュコブ)。
そんな彼だが、かつては栄えあるボリショイオーケストラで主席をつとめた天才指揮者だった。
1980年、ブレジネフ政権は、ユダヤ人を排斥、ボリショイ劇場のオーケストラからも多くのユダヤ人が連行され、それに反対したアンドレイも解雇された。
失意のあまりアルコール依存症になったアンドレイは、どうにかそれを克服したものの、指揮者への復帰をいまだ諦めきれずにいた。
そんなある日、アンドレイは一枚のFAXを目にする。
それは、演奏を取りやめたサンフランシスコ交響楽団の代わりに、パリのプレイエルに出演するオーケストラを2週間以内に見つけたいという内容のものだった。
FAXを見た瞬間、アンドレイは正気の沙汰とは思えない、とんでもないことを思いつく。
それは、彼と同じく、いまや落ちぶれてしまった、かつてのオーケストラ仲間を集め、偽の楽団を結成し、ボリショイの代表としてこのコンサートに出場するというものだった。
タクシー運転手、蚤の市業者、ポルノ映画の効果音担当……
モスクワの片隅でかろうじて生計をたてていたかつての仲間たちを説得にまわるアンドレイに、昔の仲間たちは二つ返事で応じてくれた。


演奏曲目は、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。
ソリストには、若手スターのジャケ(メラニー・ロラン)を指名。


こうして、寄せ集めオーケストラはパリに乗り込むのだった。
(ストーリーはパンフレット等から引用し、構成)


ね、ちょっと粗筋を聞いただけで、見たくなったでしょう?(笑)

で、実際に見た感想はというと……
思いっきり笑わせて、
思いっきり泣かせて、
思いっきり感動させてくれた映画でした。
「素晴らしい」の一言。
福岡まで見に来た甲斐がありました。
いや~、映画って、やっぱり好いですね~

アンドレイを演じた、主演のアレクセイ・グシュコブ。
ロシアでは40本以上の映画に出演し、名誉芸術家にも選ばれている名優。
この作品では、まったく喋れなかったフランス語をマスターし、未知の分野だった音楽の世界をものにし、見事に天才指揮者を演じきっている。


両親を知らないフランスの人気ヴァイオリニスト・ジャケを演じたメラニー・ロラン。
パリ生まれの27歳。
ジェラール・ドパルデューに見出され、1999年デビュー。
『マイ・ファミリー 遠い絆』で、ロミ・シュナイダー賞の他、セザール賞とリュミエール賞の最有望女優賞を受賞。
タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』で世界的に注目される。
美しく、繊細なヴァイオリニストを好演。


「クラシックのソリストには、殻に閉じこもった気難しいイメージがある。そうした部分を持ちながら、最後のコンサートで自分の内面や弱さを表現しきれる女優さんが必要でした。メラニーはとてもクールで、近寄りがたいイメージなのですが、女優としての才能はもちろん、4ヶ月間ヴァイオリンの練習を欠かさない意志の強さも持っていました。美しさは言うまでもありませんから」
と、ラディ・ミヘイレアニュ監督が語るように、メラニー・ロランを起用したことで、この映画はかなりの部分で成功を約束されたのではないかと思う。
それほどメラニー・ロランは素晴らしかった。
蛇足だが、
私の悪い癖で、
また彼女に一目惚れしてしまった。(コラコラ)


この他、
救急車の運転手をして生計を立てている、アンドレイの親友の元チェロ奏者を演じたドミトリー・ナザロフや、


ジャケの育ての親であり、ジャケのマネージャーを演じるミュウ=ミュウ(懐かしい~)も好い演技を見せていた。


とにかく、ラストのコンサートシーンが素晴らしい。
この、12分22秒のシーンの為に、約3週間かけて撮影されたとか。
「演技者もトランス状態となり、感極まって撮影が一時中断したほど」
とメラニー・ロランが語るように、見る者も、身震いするほどの感動を受ける。
私は涙で顔がぐしょぐしょになった。(笑)


現在、九州では、福岡のKBCシネマのみで上映中。
T・ジョイリバーウォーク北九州で、6月26日から、
長崎セントラル劇場で、8月7日から上映予定。
佐賀での上映予定は、今のところ無い。
この映画は、DVDではなく、ぜひとも映画館で見て頂きたい。
それだけの価値がある作品です。

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