一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『青天の霹靂』 ……劇団ひとりの演出力、大泉洋と柴咲コウの熱演に拍手……

2014年05月28日 | 映画
「劇団ひとりが、自著『青天の霹靂』で、映画監督デビュー」
というニュースを知ったのは、昨年(2013年)の夏頃だった。

正直、劇団ひとりという人物には関心がなかった。
芸風もそれほど好きではなかったし、
俳優としての彼もあまり評価していなかった。
このブログに、
映画『八日目の蝉』(2011年)のレビュー(←クリック)を書いたときも、
「劇団ひとりにはやや違和感があった」
と、わざわざ書いているほど。
話題になった小説『陰日向に咲く』も私の好みには合わなかったし、
次作の『青天の霹靂』は読んでさえいなかった。

だから、
劇団ひとりの映画監督デビューの話はすっかり忘れていたのだが、
今年(2014年)になって、
映画『青天の霹靂』が5月24日に公開されることが決まり、
劇団ひとりの他に、
私の好きな大泉洋、柴咲コウ、風間杜夫などが出演していることや、
脚本担当として、劇団ひとりと一緒に、橋部敦子※が名を連ねていることを知り、
「ちょっと見てみたいな」と思うようになった。
で、今日、時間を作って、見に行ってきた。
※橋部敦子
『救命病棟24時』、『ナースのお仕事』、『スタアの恋』、『僕の生きる道』、『僕と彼女と彼女の生きる道』、『僕の歩く道』、『不毛地帯』、『フリーター、家を買う。』、『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』、『僕のいた時間』などの作品で知られる、私の好きな脚本家のひとり。


39歳の売れないマジシャンの晴夫(大泉洋)は、
母に捨てられ、父とは絶縁状態で、
両親を恨みながら生活していた。
そんな彼に、突然、父の訃報が届く。
警察で遺灰を受け取り、
ホームレスだった父親が生活していた場所へやってくる。
「俺は何のために生まれてきたのだろう」
絶望にうちひしがれる彼に、一閃。
青天の霹靂。


気がつくと40年前の浅草にタイムスリップしていた。


そこで若き日の父・正太郎(劇団ひとり)と、
母・悦子(柴咲コウ)と出会い、


スプーン曲げのマジックで人気マジシャンになった晴夫は、
ひょんなことから父とコンビを組むことに。


やがて母の妊娠が発覚し、
10カ月後に生まれてくるはずの自分を待つ晴夫は、
自身の出生の秘密と向き合うこととなる……


似たような設定の映画の
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)や、
『異人たちとの夏』(1988年)や、
『地下鉄(メトロ)に乗って』(2006年)
などを持ち出すまでもなく、
この手の映画は数多くあり、
ストーリー的には新鮮味には欠けるが、
脚本がしっかりしていて、
とてもメリハリがきいており、
笑わされ、泣かされ、感動させられる作品となっていた。


なりよりも、大泉洋が素晴らしかった。
晴夫役は彼しか考えられないほどピッタリのキャスティングであったと思う。
バラエティなどでは常に面白いことを言っている印象があるが、
コメディとシリアスなドラマの両方ができる巧い役者で、
ここ数年だけでも、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
『アフタースクール』(2008年)
『半分の月がのぼる空』(2010年)
『探偵はBARにいる』(2011年)
『しあわせのパン』(2012年)
『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(2013年)
などに出演しており、
それぞれにおいて高い評価を得ている。
本作でも、これまでの作品には負けない、
いや、それ以上の演技をしている。
今年(2014年)は、
『ぶどうのなみだ』(三島有紀子監督作品)、
『TWILIGHT ささらさや』(深川栄洋監督作品)
という出演作(どちらも今秋公開予定)も控えており、
大泉洋の「大活躍の年」になりそうだ。


晴夫の母・悦子を演じた柴咲コウも良かった。
詳しく書くと映画を見る興味が削がれてしまうので書けないが、
ラスト近くの晴夫との会話には感動させられた。
涙が止まらなかった。
この映画における柴咲コウは、とにかく美しい。
劇団ひとり監督が、彼女を神々しいまでに美しく撮っている。
プレミア試写会の舞台挨拶で、
柴咲コウが、劇団ひとりの初監督ぶりを褒めた後、
「監督はすごく人見知りで雑談が一切なかった。そこだけがちょっと残念だった」
と語ったとき、
劇団ひとり監督は、
「監督業でいっぱいいっぱいで、それ以外のことで緊張したくなかった。柴咲さん、自分が思っている以上にキレイですからね!」
と答えているが、
この「柴咲さん、自分が思っている以上にキレイですからね!」という言葉に、
柴咲コウに対する想いがすべて詰まっているように感じた。


劇団ひとりに関しては、
役者の部分より、やはり監督としての演出力を褒めておきたい。
共同脚本の橋部敦子に助けられた部分もあるだろうが、
これほどの感動作に仕上がっているのは、
やはり劇団ひとり監督の手腕によるところが大きい。
無駄なシーンがほとんどなく、
内容的にギュッと締まっており、
上映時間96分にまとめた演出力は高く評価される。
(編集を担当した穗垣順之助の仕事も見事)
先程のプレミア試写会の舞台挨拶で、劇団ひとり監督は、
「右も左も分からないど素人だけど、皆さんに全力でサポートしてもらい作品が出来上がった。最初で最後の監督業だと思って、1分1秒にこだわって作った」
と語っているが、
ワンシーン、ワンシーンが丁寧に撮られていて、
初監督作とは思えないほどの出来栄えだった。
初メガホンの作品がこのレベルならば、
「最初で最後の監督業」とはならず、
第2作、第3作と、
監督業が本業になっていくのではないかとさえ思った。
それほどの秀作であったと、付け加えておきたい。


年末の賞レースでは、大穴的な存在になるかもしれない映画『青天の霹靂』。
みなさんも、今のうちに、ぜひぜひ。


この記事についてブログを書く
« 由布市の山林 ……幻の花・ク... | トップ | 涌蓋山 ……満開のミヤマキリ... »