一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『アリー/ スター誕生』 ……今すぐ映画館へ駆けつけてもらいたい傑作……

2018年12月23日 | 映画


映画公開直後に、
……今すぐ映画館に駆けつけてもらいたい感動作……
とサブタイトルをつけてこのブログで紹介した『ボヘミアン・ラプソディ』は、
(本文はコチラから)
その後、大ヒットを記録し、
12月18日時点で、累計観客動員は403万9849人、
興行収入は55億5525万円を突破。
年末年始の推移を考慮に入れると、
最終興収は80億円以上と予想されている。
このブログのレビューを読んで、すぐに映画館へ駆けつけて、
その後リピーターとなって何度もこの映画を見たという友人、知人たちから、
連日、お礼のメールが届くようになり、
私としても嬉しい限りであった。
佐賀の田舎の映画館でさえ、現在でも1日4~5回上映されており、
未だ衰えを見せる気配すらない。

その映画『ボヘミアン・ラプソディ』の主人公であるフレディ・マーキュリーと、
名前に縁のある人気女性ミュージシャンと言えば、レディー・ガガ。
ガガの初期に制作された楽曲に携わった音楽プロデューサーのロブ・フサーリは、
ガガの声のスタイルをフレディ・マーキュリーのそれと比較し、
クイーンの楽曲「RADIO GA GA」をもじり、
現在の芸名“Lady Gaga”を彼女に与えている。
そのレディー・ガガが主演を務めた映画が12月21日に公開された。
『アリー/ スター誕生』だ。
『アメリカン・スナイパー』などで有名なブラッドリー・クーパーとのW主演なのだが、
このブラッドリー・クーパーが、監督と製作も担当しているという。
〈見たい!〉
と思った。
で、公開直後に映画館に駆けつけたのだった。



昼はウエイトレスとして働き、
夜はバーで歌っているアリー(レディー・ガガ)は、
歌手になる夢を抱きながらも自分に自信が持てなかった。
ある日、歌っていたバーで、
大物ミュージシャンのジャクソン(ブラッドリー・クーパー)に歌声を惚れ込まれる。


半信半疑のアリーであったが、ジャクソンに彼のライブに誘われる。


ジャクソンは、このライブで、アリーを突然ステージに上げ、
彼女が作曲した「シャロウ」を歌わせる。


アリーは戸惑いながらも、ジャクソンと熱烈な恋に落ち、恋人同士になる。


彼のプロデュースによって舞台で共演し、瞬く間に才能を開花させるアリーは、
ついに、歌手としてソロデビューを果たす。


一気にスターダムを駆け上がり、
スターとして輝き始めるアリー。
だが、アリーの成功とは裏腹に、耳の持病が悪化して不安にさいなまれるジャクソン。


マネージャーとして支えてくれていた兄・ボビー(サム・エリオット)とも対立してしまう。


いまやスーパースターとなったアリーの活躍を喜ぶ一方、
聴覚が失われていく自分にフラストレーションを溜め込み、酒に溺れていくジャクソンは、
立場が逆転したアリーに辛く当たるようになる。
そして、アリーの晴れ舞台で、
ジャクソンはとんでもない大失態を犯してしまう……




ジャネット・ゲイナーとフレドリック・マーチが主演した1937年版、


ジュディ・ガーランドとジェームズ・メイソンが主演した1954年版、


バーブラ・ストライサンドとクリス・クリストファーソンが主演した1976年版


と、『スター誕生』は過去3度映画化されており、
レディー・ガガとブラッドリー・クーパー主演の本作『アリー/ スター誕生』は、
4度目の映画化となる。


もともとはクリント・イーストウッドが映画化する予定で進められていた企画で、
ビヨンセを主演とする筈であったが、
プロジェクトはビヨンセの妊娠により延期となった。
その後、紆余曲折があり、最終的に、
『アメリカン・スナイパー』でイーストウッドとタッグを組んだブラッドリー・クーパーが、
初監督作としてメガホンをとることになり、
2016年8月16日に、レディー・ガガの参加が正式に発表された。
ブラッドリー・クーパーが、
共同脚本と、主演と、監督を務めていると聞いて、
見る前はちょっと不安であったが、それは杞憂であった。
正直、これほどの作品に仕上げているとは思わなかった。

良かったと思うところを列記してみよう。


①冒頭のジャクソンのライブシーンが好い。
ジャクソンのかっこよさをここで見せつける。
ジャクソンのかっこよさって、
つまりは、ブラッドリー・クーパーのかっこよさになるのだけれど、(笑)
ブラッドリー・クーパー監督はそのことをよく把握していて、(爆)
自分のことを実にかっこよく見せている。
ギターを弾いて、歌って、作曲もしていて、監督もしているという自分を、
冒頭で観客に見せつけるのだ。



②アニーがジャクソンのライブで初めて歌うシーンにシビれる。

映画で、歌ったり、演奏するシーンがある場合、
俳優に歌わせるか?
歌手に演技をさせるか?
なのだが、
本作では歌手に演技をさせていて、大正解。
演技は二の次で、まずは歌が上手くなければならない。
だから、レディー・ガガのキャスティングは大正解なのだ。
この“歌”で聴かせる。
アニーがジャクソンのライブで初めて歌う「シャロウ」に、
鳥肌が立つほど感動させられるのだ。



③ミュージカルではないけれど、歌で心情を表現していて秀逸。


これほど、演技者と歌との関係が密な作品も稀だと思う。
歌を作っているシーンで、
それが突然、声になって見る者の耳朶をくすぐる。
こんな素敵な体験は、めったにできるものではない。



④レディー・ガガの素顔(に近い顔)を見ることができる。


レディー・ガガって、顔も服装も、奇抜なイメージが強いが、
この映画では、別人かと思えるほどの素顔(に近い顔)を見ることができる。

私は、以前からブラッドリーのファンで、この映画には私のすべてを注ぎ込むつもりで参加しました。彼に「ノーメイクでカメラテストをやりたい」と言われたので、私はメイクをすべて落とし、髪も元の色に染め直したの。(『ENTERTAINMENT Magazine 12月号』)

とレディー・ガガは語っていたが、
その素顔(に近い顔)が、実に可愛くて美しい。
どうしてあんな奇抜な化粧と衣裳を纏うのだろう……と思えるほどに、
素顔(に近い顔)は本当に素敵だった。


加えて、ピアノの弾き語りも秀逸。
レディー・ガガのライブではいつもやっているそうだが、
(ライブには行ったことがないので)見たことのない私は、
ピアノの弾き語りが可愛くて美しい顔に相応しく思えて、
とても感動したのだった。



⑤初監督作とは思えないほどのブラッドリー・クーパーの演出力。


『ボヘミアン・ラプソディ』でもライブ会場のバックから撮影が秀逸だったのだが、
本作でも、これまで見たことのない角度からの撮影がなされていて、驚かされた。




臨場感を出すために、実際のライブ会場で撮影したものが多かったそうで、
映画の観客も、実際にそのステージに立っているような気分にさせられる。


レディー・ガガの演技も素晴らしく、
これもブラッドリー・クーパーの演出力の賜物と思われた。



⑥身近な問題を題材として活かしている。


ジャクソンには、兄弟や家族の問題があり、


アリーには、ルックスに対するコンプレックスがある。
歌は上手くも、ルックスが良くないのでデビューができないという過去を持つ。


ジャクソンは、後半、酒に溺れ、薬物に手を出すようになる。
スターの世界を描きながらも、見る者にも共感できるような問題提起もしており、
普遍性のある物語になっている。



⑦ジャクソンを演じたブラッドリー・クーパーの演技が素晴らしい。


先程、

映画で、歌ったり、演奏するシーンがある場合、
俳優に歌わせるか?
歌手に演技をさせるか?

と書いたが、
アリーの場合は、「歌手に演技をさせる」で正解であったが、
ジャクソンの場合は、「俳優に歌わせる」で正解であった。
いや、「ブラッドリー・クーパーに歌わせる」で正解であった……と言い直すべきか。


ブラッドリー・クーパーの演技は「さすが」の一言で、
歌手にこれほどの演技は無理と思われる。
問題は、ブラッドリー・クーパーの演奏と歌唱力だったのだが、
これも軽くクリアしていてビックリした。


おまけに作曲までしているというのだから、
並みのミュージシャン以上と言えるかもしれない。


さらに監督、製作、脚本などにも関わっているのだから、
凄い才能にひれ伏すしかない。
監督賞、作品賞、主演男優賞、歌曲賞など、
オスカーでいくつノミネートされるのか、今から楽しみだ。



この他にも、良かったことは書ききれないほどたくさんある。
あとは、皆さんに、自分の目で、自分の感性で、見つけてもらいたい。


この映画の唯一の欠点は、
アリー(レディー・ガガ)よりも、
ダメ男のジャクソン(ブラッドリー・クーパー)に重きが置かれていること。
それは、ブラッドリー・クーパーが監督、製作、脚本(共同)を担当しているので、
まあ、「仕方がない」と言うしかないだろう。(笑)
むしろ、「こんなダメ男をこれほど魅力的によくぞ撮った」と褒めるべきかもしれない。


昔の『スター誕生』を見たことがある人も、ない人も、
レディー・ガガが好きな人も、そうでない人も、
“愛”とは何かを知りたい人も、そうでない人も、
家族とは何かを知りたい人も、そうでない人も、
若い人も、若くない人も、
映画をよく見る人も、あまり見ない人も、
とにかく、あらゆる人に見てもらいたい映画『アリー/ スター誕生』。
今すぐ映画館に駆けつけて、
一刻も早く見てもらいたい傑作だ。

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