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最近は、見たい映画がない。
たまに、見たいと思う映画があっても、
佐賀県での上映がないものがほとんどで、
新型コロナウィルスの第3波の感染者が(佐賀県とは比べものにならないほど)多い福岡県まで出掛けて行って鑑賞しようとは思わなくなった。
……ということで、
3週間ほど映画館から足が遠のいていたのだが、
久しぶりに、
〈見たい!〉
と思う映画に出逢うことができた。
それが、中国で製作された岩井俊二監督作品『チィファの手紙』なのである。
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岩井俊二監督作品の『ラストレター』を見たのは、今年(2020年)の1月。
……松たか子、広瀬すず、森七菜が輝く岩井俊二監督作品……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、(コチラを参照)
大好きな作品であったし、
何度でも見たいと思った作品であった。
その『ラストレター』の中国版と言えるのが、『チィファの手紙』なのである。
あの美しい物語が、
今度は中国を舞台に繰り広げられているのである。
〈見たい!〉
ではなく、
〈絶対、見たい!〉
と思った。
今年(2020年)の9月11日に公開された作品であるが、
佐賀では、シアターシエマで、
12月25日(金)~12月30日(水)の6日間限定での公開であった。
ということで、
シアターシエマでの公開初日に鑑賞したのだった。
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姉、チィナン(邓恩熙)が死んだ。
彼女宛に届いた同窓会に出かけ、そのことを伝えようとした妹、チィファ(周迅)だったが、
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姉に間違えられた上、スピーチまでするはめに。
同窓会には、チィファが憧れていたイン・チャン(秦昊)も来ていた。
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途中で帰ったチィファをチャンが追いかけ、呼びとめる。
チャンがチィナンに恋していたことを知っていたチィファは姉のふりを続けた。
連絡先を交換するが、
チャンが送ったメッセージのスマホ通知を、チィファの夫ウェンタオ(杜江)が目撃。
激昂し、チィファのスマホは破壊されてしまう。
仕方なくチィファは、チャンに住所を明かさないまま、一方通行の手紙を送ることに。
かくして始まった「文通」は、思いもかけない出来事を巻き起こす……
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先程、
『ラストレター』の中国版と言えるのが、『チィファの手紙』なのである。
と書いたが、
『チィファの手紙』が『ラストレター』の(岩井俊二監督による)セルフリメイクではなく、
実は、撮影も公開も、『チィファの手紙』(2018年中国公開)の方が先なのである。
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そもそも、出発点は、
岩井俊二監督が韓国で撮影したショートムービー『チャンオクの手紙』で、
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〈ぺ・ドゥナが主演のこの作品を、もし長編にしたらどうなるか?〉
との想定から企画開発が始まり、
脚本を完成させた岩井監督は、
韓国、中国、日本の三ヶ国でそれぞれ別の作品として創るというアイデアを思いついたとか。
その結果、
韓国では『チャンオクの手紙』と題したショートムービーだったものが、
中国では『チィファの手紙』となり、
日本では『ラストレター』となって完成したというワケだ。
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『チィファの手紙』と『ラストレター』は、
ストーリーの骨格は同じであるが、
(中国と日本の風土や環境や習慣が違うように)その他の部分は微妙に違っており、
そこが興味深かったし、面白かった。
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大きな違いは、夏休みの設定が、冬休みになっていたこと。
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『ラストレター』が夏のキラキラした開放的な印象をもつ作品になっているのに対し、
『チィファの手紙』の方は、どちらかというと冬の閉ざされた暗い印象の作品になっている。
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それは、キャストの演技にも影響していて、
中国人キャストの演技は陰影が濃く、やや湿り気を帯びたものになっている。
なので、
同じ骨格を持った物語であるのに、
両作は、まったく異なる趣の作品になっており、
『ラストレター』を鑑賞したことのある者は、
『チィファの手紙』をいろんな角度から何倍も楽しめることになる。
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『ラストレター』のレビューで、私は、
松たか子、広瀬すず、森七菜を絶賛したが、
『チィファの手紙』の、
(松たか子、広瀬すず、森七菜と同じ配役の)
ジョウ・シュン(周迅)、ダン・アンシー(邓恩熙)、チャン・ツィフォン(张子枫)も良かった。
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特にダン・アンシー(邓恩熙)の美しさには魅了された。(日本版では広瀬すずの役)
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2005年4月18日生まれなので、
中国で『チィファの手紙』が公開された当時(2018年)は、まだ13歳。
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年下役のチャン・ツィフォン(张子枫)は2001年8月27日生まれなので、
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4歳も年下なのであるが、
チャン・ツィフォンよりも年上に見えるし、大人びて見える。
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その落ち着きのある美しさは、一見に値するし、
彼女の“美”が『チィファの手紙』を見る価値のあるものにしているとさえ言える。
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初恋は、それぞれの人生において一度きりのものであるが、
映画では、初恋を何度でも体験できる。
『チィファの手紙』でダン・アンシーを見て、
私は何度目かの初恋を体験することができた。
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この齢になって、初恋を体験できるなんて、
これほど嬉しいことはない。
極論すれば、
私にとって、この映画は、それがすべてであった。