本作『ひとりぼっちじゃない』を見たいと思った理由は、三つ。
①私の好きな女優・河合優実の出演作であるから。
➁私の好きなロックバンド「King Gnu」の井口理の映画初主演作でもあるから。
③私の好きな脚本家・伊藤ちひろの初監督作品であるから。
河合優実は私が好きな女優で、
出演作はすべて見ると決めているので、本作もかねてより見たいと思っていた。
「King Gnu」は私の好きなバンドで、
特に井口理のボーカルには魅了されている。
俳優としても活躍しており、
彼の映画初主演作なら見たいと思った。
伊藤ちひろが脚本を担当した映画には、
『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年公開)行定勲・坂元裕二と共同執筆。
『春の雪』(2005年公開)脚本。佐藤信介と連名。
『クローズド・ノート』(2007年公開)脚本。吉田智子、行定勲と連名。
『今度は愛妻家』(2010年公開)脚本。
『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(2013年公開)脚本。行定勲と連名。
『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(2014年公開)脚本。
『きょうのできごと a day in the home』(2020年公開)企画・脚本。
などがあり、
近年では堀泉杏名義で、
『ナラタージュ』(2017年公開)脚本。
『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)脚本。
『母性』(2022年)脚本。
なども手掛けるなど、
優れた脚本家という認識があったし、
その伊藤ちひろが、自ら書いた小説を、
自ら脚色、監督したら、どんな作品になるのか……興味があった。
ただ、心配事がひとつだけあって、
それは、私と感性が真逆の女性映画評論家Kが、本作に対して、
説明はどうでもいい。映像で観せろ。画面で語れ。
いや、「ひとりぼっちじゃない」は決してそんな傲慢で威圧的な作品ではないが、観葉植物の化身のような馬場ふみかに惑わされる若い歯科医の迷走は、虚実皮膜を鮮やか飛び越え、伊藤ちひろ監督のデビュー作、もう一目惚れ。
美術、装飾、音響、音楽の映像的一体感もただごとではない。そして何よりエロチック!
という「一目惚れ」したコメントを寄せていたこと。(笑)
いろんな意味で興味を持たされた『ひとりぼっちじゃない』であったが、
肝心の上映館が佐賀にはなかった。
で、3月21日に、福岡のKBCシネマまで見に行ったのだった。
不器用でコミュニケーションが苦手な歯科医師ススメ(井口理)は、
アロマ店を営む宮子(馬場ふみか)に恋をする。
だが、宮子は、部屋に鍵をかけず、急に連絡が取れなくなったりする謎多き女だった。
ススメは自分ですら良くわからない自分のことを、
宮子が理解してくれてうれしく感じる一方で、
自分が彼女のことを理解できないと思い悩んでいた。
そんなある日、
ススメは宮子の友人である蓉子(河合優実)から、
宮子について驚きの事実を聞かされる……
心配していたことが、現実となった。
やはり、女性映画評論家Kとは感性が真逆であった。
伊藤ちひろ監督のデビュー作に私は「一目惚れ」することもなく、
美術、装飾、音響、音楽の映像的一体感も感じられず、
エロチックとも思わなかった。
感性だけで(雰囲気だけで)撮ったような作品で、
全編にわたって流される「水中で吐き出すポコポコというような空気の効果音」を聴いていると眠くなったし、何度も寝落ちしそうになった。
〈本当に伊藤ちひろの作品なの?〉
と確認したくなった。
上映時間2時間15分は長すぎるし、
上映時間139分の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と同じく、
苦行の135分間であった。(コラコラ)
エンドロールに、
「企画・プロデュース 行定勲」
とあり、
〈ああ、そういうことね……〉
と、妙に納得するものがあった。
行定勲は嫌いな監督ではないのだが、
彼が企画・プロデュースする映画には(たまに)まったく私に合わない作品があったからだ。
行定勲がディレクターを務める「くまもと復興映画祭2019」で、
招待作品『オーファンズ・ブルース』(工藤梨穂監督)を見たとき、
正直、この映画は、私にとっては、いろんな意味でキツかった。
昔のATGの作品を見ているかのよう……と言えば聞こえはいいが、
未完成の単なる試作品のように思えたからだ。
(中略)
映画祭でなければ見なかった作品であるし、
映画祭でなければ途中退場したかもしれない作品であった。
行定勲監督が映画祭に招待した作品なので、
最後まで見れば何かしら良い部分が見つかるのではないか……と思いながら見ていた。
と書いたのだが、
『ひとりぼっちじゃない』にもまったく同じ感想を抱いたし、
上映中も
〈『オーファンズ・ブルース』みたいな映画だな……〉
と思いながら見ていた。
だからエンドロールで「企画・プロデュース 行定勲」を目にしたとき、
妙に納得したというわけ。
〈行定勲はこの手の作品が好みなんだよね~〉
と。(笑)
伊藤ちひろ監督は、
相手の真意を察することの難しさ、妄想は広がっていくけど、なかなか答えに辿り着けない、そういう経験をしたことのある方は多いはず。これが恋となれば、ひどく自分の感情がこじれていく。相手の表情や言葉にいくら注意を向けても心を丸ごと見透すなんて不可能だから、コミュニケーションの向き合い方にうまく折り合いをつけられないと苦しくなっていく。その感覚をそのまま映画にしようと思いました。
とコメントしていたが、
〈「その感覚(妄想)をそのまま映画に」してもらってもな~〉
というのが正直な感想。
原作、脚本、監督の3役を担っていたからこそ、
客観的な目が必要であったし、
独りよがりな作品にならないように気を付けるべきであったと思う。
だからこその「企画・プロデュース 行定勲」だったと思うのだが、
行定勲は一体何をしていたのか……
と、批判ばかりになりそうだったので、
〈レビューは書かずにおこうか……〉
と思ったのだが、
河合優実の出演作であるので、正直迷った。
本作のレビュー執筆が、映画を見てから10日以上も経っているのは、
そういう事情があったからなのだ。
河合優実の出演作なので、河合優実に関して少しだけ書いておこうと思った次第。
宮子の友人である蓉子を演じた河合優実。
歯科医師ススメ(井口理)と、
アロマ店を営む宮子(馬場ふみか)の、
二人のやりとりだけだったならば、
正直、途中退場していたような気がする。
この映画を、最後まで見てしまったのは、
やはり河合優実が出演していたればこそ……と思われた。
それは、単に、私が河合優実のファンだからということだけではなく、
本作における蓉子(河合優実)の存在、役割が、そう思わせたからだ。
ススメも宮子も、フワフワとした非日常を生きているようにしか思えないのだが、
蓉子だけは日常、というか現実を生きている感じがして、
そこだけが本作をかろうじて見るべきものにしているように思われた。
河合優実の演技も素晴らしく、
井口理や馬場ふみかとは比較にならないレベルのものであったと思う。
本作に対して、河合優実は、
お話をいただいて脚本を読み始めたとき、すぐに心奪われたのを覚えています。語弊を恐れずいえば、繰り出される数々の「ヘン」な描写に胸が躍り、また新しく、興味深い本に出会えたことが嬉しかったです。井口さんと馬場さんとそれぞれまったく違うパーソナリティを持ち込み、お互いの色を混ぜた結果どうなるのか全くわからない中で起こることを楽しんでいました。完成を見て、伊藤ちひろ監督の感性をどこまで素直に、純粋に保てるかの戦いだったんだなと改めて感じました。純粋さはいつでも強いものを産むなと思います。ぜひご覧ください。
とコメントしていたが、
一読、本作への賛辞のようにも読めるが、
繰り出される数々の「ヘン」な描写に戸惑いながらも、
伊藤ちひろ監督の感性をどこまで素直に純粋に保てるか……戦っていたことが窺える。
その部分に私は感動するし、
難役に挑んだ河合優実の果敢なチャレンジに拍手したいと思った。
本作『ひとりぼっちじゃない』への出演を経て、
河合優実という女優は、更なる進化を遂げていくのであろう。
次作を楽しみに待ちたいと思う。