原題:『Stoker』
監督:パク・チャヌク
脚本:ウェントワース・ミラー
撮影:チョン・ジョンフン
出演:ミア・ワシコウスカ/ニコール・キッドマン/マシュー・グッド
2013年/アメリカ・イギリス
高揚の根源
作品冒頭で、クルマから降りた主人公のインディア・ストーカーが黄色いセンターラインを超えて、向かい側の草原へ歩きながら、花が色を選べないように人の運命は決まっていることを悟る時に映し出される花は赤いのであるが、ラストにおいてその花が実はスピード違反をしていたインディアのクルマを停めたハワード保安官の首にインディアが植木バサミを刺した際に吹き出した血の色で染まったことが分かると戦慄を覚える。その花は赤い花ではなくて白い花だったのであるが、さしずめインディアは‘赤ずきんちゃん’ではなくて冷徹な‘白い’殺人者といったところであろう。それはチャーリーの存在を知っていた、インディアの父親であるリチャードには分かっていたことで、だからリチャードはインディアに大きな犯罪に手を染めないように銃の撃ち方を教え、鳥などを撃つことで衝動を抑えようとしていたはずなのである。
しかしチャーリーはインディアが自分と同種の人間であることを見抜いており、毎年の誕生日にストーカー家の世話人であるマックギャリックを介してスニーカーを贈っていた。まるでインディアの18歳の誕生日を待っていたかのようにチャーリーはインディアの目の前に現れ、プレゼントとしてハイヒールを贈るのである。しかし機転を利かせたマックギャリックの計らいによって手に入れていた鍵を手がかりにインディアは父親の書斎で自分宛のチャーリーの手紙を発見していた。高校で優等生だったインディアがチャーリーに抱いていた感情はエロスなのだと彼女自身も思っていたに違いない。ちょっかいを出してきたクラスメートのクリス・ピッツを鉛筆で撃退し、別のクラスメートであるウィップ・テイラーに襲われた時は、チャーリーが助けに来て、インディアの体に跨っているウィップの首を絞めて殺してしまう。その体位はまるで性交で果てた男のように見え、その時の様子を思い出しながらインディアはシャワーを浴びながらマスターベーションをするのであるが、やがてその興奮は思春期の女性が男性に抱くエロスからではなくて、殺人によってもたらされていることをインディアは悟ることになる。相手は誰でもいいわけではない。ファザーコンプレックスだったインディアはリチャードという‘枷’が取れたことで‘権力者’をターゲットにするのであり、だからマックギャリックや叔母のグウェンドリンを殺したチャーリーや、保安官のハワードを殺して快楽を感じても、恋敵だった母親のイヴリンを殺すことはないのである。