MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ポッピンQ』

2016-12-31 21:54:09 | goo映画レビュー

原題:『POP IN Q』
監督:宮原直樹
脚本:荒井修子
撮影:中村俊介
出演:瀬戸麻沙美/井澤詩織/種崎敦美/小澤亜李/黒沢ともよ/羽佐間道夫/小野大輔/島崎和歌子
2016年/日本

本当の意味で「エピソード0」の作品について

 舞台が高知県というところからシブい。主人公の小湊伊純は中学3年生で卒業と同時に東京に引っ越すことになっているのだが、所属していた陸上部で後輩の深町美晴に相変わらずタイムを計ってもらっている。卒業式に出席するのかしないのかためらっているところも伊純の地元に対する心の葛藤が上手く描かれている。
 同じ頃、同い年の日岡蒼や友立小夏や大道あさひや都久井沙紀もそれぞれの「壁」にぶつかっていた。例えば、蒼は勉強ばかりの学校生活に嫌気がさしており、同級生がサイン帳を差し出しても断ってしまう有様なのであるが、4人の様子は伊純ほど詳細に描かれてはいない。
 そんな彼女たちが「時のカケラ」を拾ってワープしてきた「時の谷」は、ポッピン族が生息しており、彼女たちそれぞれに「同位体」と呼ばれるポッピン族が付き、ダンスをして世界を救って欲しいと懇願される。
 5人でダンスの練習をしていたところに「沙紀の未来」と名乗るキャラクターが現れ、沙紀は敵方に回ることになるのだが、これが「既に大人たちに決められた未来」とするならば中学生にとっては「敵」であるという暗示であろう。実際に、「沙紀の未来」は消えてしまいクライマックスで5人は一緒にダンスを踊ることになる。
 そして「時の谷」から無事に戻ってこれた伊純は両親と祖父に祝福されながら卒業式を迎えたのであるが、このありきたりの物語に驚かされるのはエンドクレジットが終わった後に訪れる。彼女たちは東京の同じ高校に進学していることに始業式の最中にお互い知ることになるのであるが、それは観客も同じである。つまり本作はこれから始まるメインの高校生活を舞台とする物語のほんの序章にすぎないのである。だから本当の意味で「エピソード0」である本作の評価は続編の出来次第ということになるのではあるが、ある意味これほど驚かされた作品は今年観た映画の中で一番である。


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「地位協定」論争

2016-12-31 06:17:30 | Weblog

TPP「可能性0でない以上、追求する」 自民・高村氏

 2016年12月30日付の毎日新聞の「発信箱」というコラムに佐藤千矢子論説委員が『「地位協定」論争』という興味深い記事を載せているので引用してみる。

 「米軍の新型輸送機オスプレイが沖縄県名護市の海岸に落ち、大破した事故をめぐり、先日、NHKテレビ『日曜討論』の与野党論戦で、気になるやり取りがあった。
 事故は日本の領海内で起きたため、海上保安庁が捜査できるよう米軍に申し入れているが、米軍からの回答は今に至るまでない。
 在日米軍の地位などを定めた日米地位協定が壁になって『日本側は捜査もできない』と訴えた共産党の志位和夫委員長に対し、自民党の高村正彦副総裁は『北大西洋条約機構(NATО)の米軍も同じだ。日本だけが特別じゃない』と反論した。志位氏が『違う。イタリアでは捜査権を持っている』と再反論すると、高村氏が『持っていない』と言って応酬になった。
 国内に駐留する米軍が事件・事故を起こした場合、日本とイタリアの捜査権に違いはあるのか。どちらの政治家の説明が正しいのか。
 外務省に聞くと、日米地位協定とNATО軍地位協定で、協定上の刑事裁判権に違いはないが、運用の実態までは把握していないと言われた。
 前泊博盛・沖縄国際大学教授の編著『本当は憲法より大切な『日米地位協定入門』』(創元社)によると、イタリアでは、米軍基地はイタリア軍司令官のもとに置かれ、米軍は重要な行動をすべて事前通告し、事件・事故の発生を通告する取り決めという。前泊さんは『そもそもイタリアではこんな危険な訓練は認めないから、オスプレイのような事故は起こらない』と話す。」

 つまり「イタリアでは捜査権を持っている」という志位和夫委員長の再反論に対して、「分からない」ではなく「持っていない」と言い放った高村正彦副総裁は明らかに平気で嘘をついているのであり、NATО軍地位協定に関して運用の実態までは把握していないと何のためらいもなく言える日本の外務省は勉強不足というよりも緊張感が持てないバカと断定するしかないであろう。


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「既得権者」とテレビ報道の「官製」化

2016-12-31 00:33:23 | Weblog

【浜田宏一・内閣官房参与、田村秀男・産経新聞編集委員対談】「財政赤字は必ずしも悪くない」
安倍プーチン会談の「惨敗」を伝えない大手新聞社の苦しい言い訳
米国メディアの評価は「ロシアが日本の希望を粉砕」

 2016年12月27日付の毎日新聞の「月刊 時事フォーラム」の記事を引用しておきたい。一つ目は水野和夫法政大学教授の「日本の茶番劇 既得権者のご都合主義」というものである。

「日本銀行が2年で消費者物価上昇率2%を達成できなくなると、浜田(宏一内閣官房参与)は『物価目標それ自体は重要ではなく、雇用等を伸ばす手段に過ぎない』という。さらに、国の巨額の債務について、『実際はそこまで利口な国民はいません』ので、『その錯覚を利用して、公債という”ニセ金”で皆を富んでいる気持ちにして消費を刺激した方が経済は活性化する』と国民を愚弄する。
 神津(里季生連合会長)は『もう一度民進党に政権を取ってもらいたい』といいながら、小泉純一郎元首相が『野党が一本化し、原発ゼロを争点にしたら与党は負けると分かった』といっているのに神津は『安全が確認できて(略)原発は再稼働もあり得るべきだ』という。本当に民進党の応援団なのか疑わしい。
 藤原(治・電通元常務)は、今回の過労死の背景について同社の『特殊な企業体質を理解しなければ、電通の再発防止策が妥当かどうかの判断は難しい』という。特殊な会社であることをやめて人命を優先すべきだ。トランプ氏が批判したエスタブリッシュメント(既得権益者)が日本にも大勢いるのである。」

 二つ目はジャーナリストの森健の「日露首脳会談 テレビ報道の『官製』化」である。

「東京での日露首脳会談後、安倍晋三首相は夜のニュース番組に相次いで出演した。
 最初に登場したNHK『ニュースウオッチ9』では首相と近いとされる女性記者も同席。最大の関心事である領土問題への質問は少なく抑えられ、共同経済活動は大きな成果という体裁で会話は進められた。その後、首相は民放各局へも出演した。
 領土問題はどういう道筋になったのか。北方四島でロシアは自国の法制度を主張するが、首相の言う『特別な制度』はどの程度可能なのか。ロシアが警戒する日米安保条約の適用範囲はどうなるのか -。誰もが知りたい項目についてテレビは厳しく追及せず、首相もほとんど言及しなかった。
 要は、首相の相次ぐテレビ出演は、国民への丁寧な説明というより、国民からの批判をかわすためのPRだったのだろう。
 この間、批判を抑えたテレビの”官製報道”には違和感を拭えなかった。とくにNHKは、プーチン露大統領の来日行程を追っかけ状態で報道したうえ、会談後に放送した『NHKスペシャル』では未曽有の映像を放送していた。11月のペルーでの日露首脳会談直前、安倍首相や谷内正太郎国家安全保障局長などの幹部会議にカメラが入り、その様子を放送していたのである。音声こそ流していなかったが、記者陣がそこまで居合わせるのは異例中の異例だろう。
 18日の毎日朝刊は『首相読み違え』として10月ごろまで希望的に『2島返還』を観測していたと伝えた。失敗は失敗として厳しく尋ねるべきが報道の役割だ。だが、いまテレビはその役目を担えているのだろうか。」

 つまりアメリカでドナルド・トランプが次期大統領として選ばれた要因である、「反権威」と「大手メディアに対する不信」が日本においても醸成しつつあるように見えるのであるが、日本人自身がそのことに気がついているのかどうかは分からないし、気がつくことが良い悪いのどちらに転ぶのかさえも不透明である。


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『海賊とよばれた男』

2016-12-30 00:02:05 | goo映画レビュー

原題:『海賊とよばれた男』
監督:山崎貴
脚本:山崎貴
撮影:柴崎幸三
出演:岡田准一/吉岡秀隆/染谷将太/鈴木亮平/野間口徹/ピエール瀧/國村隼/綾瀬はるか
2016年/日本

「力ずく」で描かれる豪商について

 個人的には全く評価しない『永遠の0』と同じ製作チームだったので多少不安はあったが、原作に漂うイデオロギーを薄めた分、出光興産創業者の出光佐三をモデルとした主人公の国岡鐡造の生き様が活写された佳作に仕上がっているように思う。
 後に石油の精製販売会社として大企業になる「国岡商会」であるが、その道のりは正に紆余曲折で、「ポンポン船」に搭載されているエンジン用に灯油の代わりにダブついていた軽油を売ったり、大連の満州鉄道には冬場に凍らない機関車の車輪に使用する車軸の潤滑油を売り込んだり、終戦直後に石油が手に入らない間はラジオの修理で会社を維持したり、なかなかメインの「石油」にたどり着かないところが興味深い。
 しかし国岡が決断して自社で所有する「日承丸」でイランから石油を輸入しようとした際に、圧力をかけていたイギリスのフリゲート艦「バンカーベイ」に見つかるものの、停船勧告されても通過できてしまうシーンには、何故原作にないシーンを撮っていながら理由を明かすことなく上手く通れてしまうのかよく分からないし、東雲忠司を中心として全国の石油タンクの底に残る石油をさらう業務を請け負うのであるが、あのような危険な作業で事故が起きないのが不思議なくらいで、妻の国岡ユキに対する態度も含めてやはり詳細な描写は違う意味で『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(三木孝浩監督 2016年)のように甘い、というよりも「力ずく」で押し通したように感じる。


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『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』

2016-12-29 00:27:02 | goo映画レビュー

原題:『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
監督:三木孝浩
脚本:吉田智子
撮影:山田康介
出演:福士蒼汰/小松菜奈/東出昌大/山田裕貴/清原果耶/大鷹明良/宮崎美子
2016年/日本

理屈で把握しようとすると魅力を失う作品について

 甘いラブストーリーだと思って観ていたら、本格的なSF作品だったことに驚いた。2017年3月の一カ月間で起こる物語をここで説明することは敢えて差し控えておくが、村上春樹の小説のファンならば観て十分に楽しめるのだろうか。しかし個人的には主人公の南山高寿の気持ちは理解できるものの、彼の恋人となる福寿愛美の気持ちが理解しにくかったのは、上映から40分過ぎた頃にようやくメインタイトルが出るように時空が逆転しており、どうしても愛美の時系列が上手く捉えきれないからであるのだが、このような物語を感覚ではなく理屈で捉えようとすると、例えば、何よりも最も大切にしなければならない「ノート」を何故愛美が高寿の部屋に置き忘れてしまったのかとか、そもそも2人の寿命は何年に設定されているのかと余計なことを考えてしまい、結果、作品そのものをつまらなくしてしまうのである。しかしいずれにしてもここまで複雑なストーリーを無難にまとめた三木孝浩監督の手腕は相変わらず素晴らしい。
 『溺れるナイフ』(山戸結希監督 2016年)に続いて、本作においても主演を務めた小松菜奈が全身びしゃびしゃに濡れていたシーンがあったところは笑えた。


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『溺れるナイフ』

2016-12-28 00:28:43 | goo映画レビュー

原題:『溺れるナイフ』
監督:山戸結希
脚本:山戸結希/井土紀州
撮影:柴主高秀
出演:菅田将暉/小松菜奈/重岡大毅/上白石萌音/市川実和子/ミッキー・カーチス/堀内正美
2016年/日本

「呪縛される男」と「自由な女」のすれ違いについて

 東京で雑誌モデルをしていたほどの美少女である望月夏芽が父親の故郷の田舎に引っ越してきたのをきっかけに、夏芽を巡って不良少年の長谷川航一朗と優等生の大友勝利の、性格が正反対の男子が奪い合うという典型的な学園ラヴストーリーであるが、荒れた映像の質感が愛に忍び寄る甘さを拒絶しているように感じる。
 夏芽は航一朗と付き合うようになるが、ある祭りの晩に、祖父の鉄男が倒れて病院に運ばれたと知らせてきた知り合いの蓮目匠の車に乗せられた夏芽はひと目の無いところに連れていかれ蓮目に暴行されそうになる。機転を利かせた航一朗がいち早く夏芽を助けにくるが、蓮目に返り討ちに遭うのだが、夏芽は他の村人たちに救われる。
 しかし自分を助けてくれなかった航一朗を夏芽は許すことができず、そんな時に優しくしてくれる勝利と親しくなるのであるが、夏芽は再び芸能界に復帰するために東京で暮すことになる。東京へ向かう前日、航一朗の勇姿を見ようと夏芽は「月ノ明リ神社」の小屋へ行くと、再び蓮目と遭遇し乱暴されそうになるのだが、今回は航一朗に助けられる。
 ところで本作が何を言いたいのか勘案してみるならば、その美貌で世界を自由に渡り歩ける女性と、「その土地一帯を取り仕切る神主一族の末裔で跡取り」であるが故に夏芽に一緒に東京に行こうと誘われても断らざるを得ない航一朗と、カラオケで吉幾三の『おら東京さ行くだ』を歌って不本意ながら東京に行く夏芽に別れを告げる勝利の態度に見られるように、生まれ育った土地に縛られて動けない男性の違いが描かれているのである。このようなテーマを扱った作品は今はあまり見られないが、かつてATGが低予算で好んで描いていたテーマなのである。このようなテーマに27歳の女性監督が挑んだことに驚かされる。
 望月夏芽を演じた小松菜奈が頻繁に全身がびちゃびちゃになるところが笑える。


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『この世界の片隅に』

2016-12-27 00:51:54 | goo映画レビュー

原題:『この世界の片隅に』
監督:片渕須直
脚本:片渕須直
撮影:熊澤祐哉
出演:のん/尾身美詞/細谷佳正/稲葉菜月/牛山茂/新谷真弓/小野大輔/岩井七世
2016年/日本

日本のアニメーションの第3の可能性について

 まず基本的な作画が素晴らしい。この、今にも絵の輪郭が崩れそうな危ういタッチを見たのは『かぐや姫の物語』(高畑勲監督 2013年)以来ではないだろうか。時代背景を勘案するならばこのタッチが選ばれたことは決してたまたまではない。それは主人公の浦野すず(後の北條すず)が絵を描くことが好きであることと大いに関係しているだろう。例えば、海の波にうさぎを見いだすように、すずは絵を描くことで現実を捉えようとしているのである。
 その危ういタッチが崩れるシーンが目の前で黒村晴美を亡くした時で、すず自身も利き手の右手を失うと同時に本作の作画自体が崩壊し、デッサンからやり直すことになり、逆に、広島市に原爆が投下されたシーンにおいては、呉市に住んでいるすずたちには当初ピンと来なかったために作画が乱れることがなく、ここに却ってリアリティーを感じるのである。ここには『君の名は。』(新海誠監督 2016年)、『GANTZ:O』(川村泰監督 2016年)と並ぶ日本のアニメーションの第3の可能性を見て取ることができる。


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『ドント・ブリーズ』

2016-12-26 00:32:13 | goo映画レビュー

原題:『Don't Breathe』
監督:フェデ・アルバレス
脚本:フェデ・アルバレス/ロド・サヤゲス
撮影:ペドロ・ルクエ
出演:ジェーン・レヴィ/ダニエル・ゾヴァット/ディラン・ミネット/スティーヴン・ラング
2016年/アメリカ

現代の悲惨な「カリフォルニア・ドリーミング」について

 『ブレア・ウィッチ』(アダム・ウィンガード監督 2016年)と比較するならば、本作の方が断然面白い。空き巣で稼いでいたロッキーとマニーとアレックスたちは娘を交通事故で失い30万ドルの賠償金を得たイラクの退役軍人で盲目のノーマン・ノードストームという老人の家に忍び込む。この盲目という点を甘く見たところに3人の失敗があった。
 アレックスの父親がセキュリティー会社に勤めており、家の鍵やセキュリティーシステムを熟知していることもあって、老人の家には忍び込めたものの、老人が飼っている狂犬や自分の家を熟知している元軍人の老人に意外と手こずることになる。結末が中途半端なのだが、ヒットしたおかげで続編が制作されることになったようだから期待は持てる。


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『ブレア・ウィッチ』

2016-12-25 00:46:52 | goo映画レビュー

原題:『Blair Witch』
監督:アダム・ウィンガード
脚本:サイモン・バレット
撮影:ロビー・バウムガルトナー
出演:ジェームズ・アレン・マキューン/ウェス・ロビンソン/ヴァロリー・カリー
2016年/アメリカ

映像の恐怖の「質」について

 大学の映画学科で学んでいた大学生のヘザー・ドナヒューが「ブレア・ウィッチ伝説」を探るために撮影場所だったメリーランド州のバーキッツビルの森で行方不明になった1994年から20年が経過した2014年になってヘザーの弟であるジェームズ・ドナヒューが、ユーチューブで偶然見つけたヘザーの姿らしい像が映っていた映像を見つけたことで仲間のリサ・アーリントンたちと、動画をアップしたタリアとレーンにコンタクトを取って、ヘザーを探しに行くことになる。
 しかし行方不明になってから20年も経っているのに姉が生きていることを信じて探しに行くという設定に無理があるように思う。おそらく森そのものであろうとは想像できるものの、結局「敵」の正体もはっきりせず、ドローンや頭に装着できる小型カメラなど撮影に工夫は見られるが、擬似ドキュメンタリー特有の映像は相変わらず荒く、観客の怖がらせ方に基本的に変化はない。
 ただ最も怖いと思えるシーンは、ジェームズがユーチューブで見た同じ映像が、ジェームズたちが撮影した映像に紛れ込んでいたことくらいであろう。


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「愛称」と「略称」

2016-12-24 00:09:52 | Weblog

 経済協力開発機構(ОECD)が実施した学習到達度調査において日本が「読解力」の成績で4位から8位に落ちたことに関連して12月7日付毎日新聞朝刊に掲載されていた26面の「語彙不足に警鐘」という伊澤拓也記者の記事を引用してみる。

「6日公表された2015年の学習到達度調査(PISA)で、読解力は前回より平均点が22点も下がり、順位も落とした。文部科学省は筆記からコンピューターで解答する方式への移行が一因としたが、日本の生徒が他の分野で操作に苦慮した傾向は見当たらない。PISAの他にも読解力の低下を示すデータがあることから、専門家は「読解力の基礎となる語彙(ごい)の量が不足している」と警鐘を鳴らしている。

 読解力は文章を読み、内容を理解したかを問う調査。日本は過去2回連続で平均点、順位とも上げたが、今回は09年と同じ8位に戻った。
 この結果について、国立情報学研究所の新井紀子教授は「本文が複数ページにわたって画面が変わるなど読み取りにくい問題があった側面はあるが、各国とも同じ条件で解答しているし、マウスの操作も他の分野では問題なかった。過去の順位から考えれば、日本の読解力は8位程度とみるのが自然な解釈ではないか」と分析する。
 東大入試に挑戦する人工知能(AI)「東ロボくん」を開発中の新井教授は、開発の過程で子供の読解力に疑問を持ち、中高生を対象にした調査を実施している。短い文章を読んで選択肢を選ぶ内容だが、簡単な文章の主語を読み違えたり、「てにをは」などの助詞を正しく理解できていなかったりするような誤答が目立ったという。新井教授は「教科書の文章を理解できていない子どもが多数いる。危機的な状況」と指摘する。
 要因として、新井教授は語彙量の不足を挙げる。世帯人数の減少に伴って家庭内で大人同士の会話が減り、活字離れで長文を読む機会が減ったことなどの環境の変化が背景にあるという。
 新井教授は「国語の授業で文学作品を読むだけでなく、論理的な文章をグラフや表と併せて読み解く作業も必要だ。教科の中身を見直す時期に来ているのではないか」と提言している。
 11年3月まで中学校教諭だった笠井正信・中央大特任教授(国語教育)は教育現場の問題も指摘する。「教えられたことを暗記するという思い込みの学習観が読解力向上を阻害している。学力調査対策としてドリルなどに『答え』を書くことに終始する授業や勉強法がいまだに当たり前だ」という。「読むことは、考え学ぶことだと徹底する必要がある。どんな意図や意味があるのか、書き手と対話をしながらテキストと向き合うように仕向けることが教師の役割だ」と注文した。

 新井教授の調査例
【問題】
 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。

 Alexandraの愛称は(  )である。

  中学生の解答
(1)Alex(正答)・・・38%
(2)Alexander・・・11%
(3)男性・・・12%
(4)女性・・・39%」

 不覚にも私は「Alexander」を選んでしまい、落ち込んでいたのであるが、12月17日付毎日新聞の「メディア時評」でノンフィクション作家の高橋秀実も「Alexander」を選んでいたので多少は安心した。高橋の意見を引用してみる。

「正解はAlexなのだが、私は不正解とされるAlexanderかと思った。なぜなら愛称は面白くなくてはいけないから。ルールに従うならそれは愛称ではなく略称なのだ。おそらく論理を読み取れるかという問題なのだろうが、論理とは言葉のルールにすぎず、何も伝えない。論理的に正しい文章とは、誰が読んでも同じ結論に導出される文章であって、無難であっても、何も生み出さない。これを読解力などというから新聞の記事は面白くないのである。」

 私は高橋ほど新聞記事に対して厳しくはない。私の間違いの原因は英語を母国語にする人たちの感性が理解できていないことから起こったことで、愛称と聞いて「アレックス」というのはあまりにも素っ気ないように感じただけで、提示された問題にクレームをつけるつもりは毛頭ない。


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