原題:『張込み』
監督:野村芳太郎
脚本:橋本忍
撮影:井上晴二
出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村高広/菅井きん/浦辺粂子/小田切みき
1958年/日本
一週間程度の張込みでは解決しない問題について
作品冒頭において警視庁捜査第一課刑事の下岡雄次と柚木隆男が、容疑者の石井を追うために鹿児島行きの列車に飛び乗るシーンからオープニングのタイトルバックが映し出されるまでの異様な長尺さと、ラストにおいても逮捕した石井を連れて下岡と柚木が最終の東京行きの列車が、改札口の明かりが消された後に出発するまでの執拗に長いシーンが印象的で、要するに本作は刑事ものというジャンルを超えた、人間の業そのものを映し出すことを試みているように見える。
両刑事が張り込む先は、石井の元恋人で、現在は佐賀の銀行員の横川仙太郎の妻のさだ子である。後妻だったさだ子を監視していた柚木には、さだ子が幸せそうには見えなかったため、石井と再会した際に、嬉しそうにはしゃいでいるさだ子を目撃した時にはたいそう驚いたのであるが、それは柚木自身にも他人事ではなかったからである。柚木には高倉弓子という恋人がいたのであるが、下岡の妻の満子の口ききで、風呂屋の娘の信子との好条件の縁談話が持ち上がっていたからである。
さだ子を見ているうちに柚木は「資産」よりも「愛」を選択することを決心するのであるが、性別の違いや銀行員と日雇いと刑事という立場の違いなど勘案するとすぐに納得できるようなオチではない。