MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『傷だらけの天使 港町に男涙のブルースを』

2017-02-28 00:43:12 | goo映画レビュー

原題:『傷だらけの天使 港町に男涙のブルースを』
監督:神代辰巳
脚本:大野靖子
撮影:田端金重
出演:萩原健一/水谷豊/岸田森/ホーン・ユキ/池部良/潤ますみ/荒砂ゆき/田島義文/山中貞則
1974年/日本

「ロマンポルノ」がテレビドラマとして放送された時代について

 舞台は鴨川グランドホテルの一室。主人公の小暮修が行きずりの女性とベッドを共にしているところに見知らぬ男たちが乗り込んできたのだが、修は間一髪で部屋から逃げ出した。修は辰巳五郎の依頼で東南アジアから輸入している冷凍エビを横流ししている犯人を突き止める役目を担っていたのだが、そんな時にバーで知り合った、地元でヌードスタジオを経営している梶シュンスケと出会い、金欠から彼のスタジオを手伝う羽目になった。
 乾亨と合流して、絶えず自分の命を狙っている者たちの正体を探っているうちに、実はその冷凍エビに紛れこませて麻薬が日本に持ち込まれていることを知る。自分の命を狙っている者たちの首謀者は中興水産の柳田社長であることが分かるが、なんと最初に修を襲撃させた犯人は梶だったのである。
 梶によれば柳田はかつて戦時においてニューギニアで中尉として21人の部下と1人の従軍カメラマンを従えていた。戦況が悪化しアメリカ軍が襲撃してくる直前に撤退命令が出ていたのであるが、小さなモーターボートしかなかったために柳田は一人で逃げてしまい、部下は全員射殺されカメラマンだった梶一人が生き残ったのだった。梶は3年前に柳田の所在を知り、30年来の恨みを自ら晴らそうとしていたのである。
 ここで不可解なシーンがある。梶が修と亨に手榴弾を見せた後に、海岸で修が手榴弾の一つを手に取ってピンを外して爆破させるのである。しかし再び修に扱い方を教えて手榴弾を渡した後に、ヌードモデルのアケミが詰難すると「あれはおもちゃで、本物がここにあるはずがない」と梶は答えるのだが、最初の手榴弾は爆発しているのだから、梶自身も30年も経ったために記憶が不確かなのである。
 クライマックスにおいて船に乗って待っていた梶を柳田はライフルで撃ち殺そうとするのだが、30年も経っており腕が鈍って仕留めることができない。その内に梶が柳田が乗って来たモーターボートに乗り移って刀で切り殺し、2人とも海の藻屑となる。
 本作で使用される曲は「好きになった人」、「浪曲子守唄」、「戦友」、「同期の桜」など別れをテーマにしたもので、最後は「君が代」に日本国国旗で、そもそも梶と柳田がいがみ合う原因になったものが示されるというアイロニーが神代辰巳監督らしい。


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「High Energy」 Evelyn Thomas 和訳

2017-02-27 00:04:13 | 洋楽歌詞和訳

Evelyn Thomas - High Energy

 2月19日にNHK-BSプレミアムで放送された「笑う洋楽展」で久しぶりにイヴリン・トーマス

(Evelyn Thomas)が1984年にリリースした「ハイ・エナジー(High Energy)」を聴いた。

まずは和訳をしてみたい。

「High Energy」Evelyn Thomas 日本語訳

高いエネルギーとなるあなたの愛が私を高揚させている
高いエネルギーとなるあなたの愛が私を高揚させている

ほんの先週のことだった
私が通りを歩いていた時に私たちは初めて出会った

あなたは私を追いかけてきて
私たちの目が合ったのだ

私はあなたの腕の中に吸い込まれるようだった
どれだけ私が驚いたか想像できるかしら

おとぎ話の中でしか起こらないと思っていたことだった
正に交わした視線の間で愛が私に命中した

高いエネルギーとなるあなたの愛が私を高揚させている
高いエネルギーとなるあなたの愛が私を高揚させている

電話であなたが私を呼ぶ時
あなたは私の魂を浮足立たせる

他の誰もが長続きしなかったことを嬉しく思う
その天恵は見せかけのものだったのだから

あなたが私に触れる度に
私はスリルを味わう

私があなたの目を覗き込むと
私の心はじっとしていられない

 最初聴いた時にはグロリア・ゲイナー(Gloria Gaynor)が1978年にリリースした「恋のサバイバル

(I Will Survive)」を意識した曲だと思っていたのだが、今回改めて聴いてみたらフランキー・ゴーズ・

トゥ・ハリウッド(Frankie Goes To Hollywood)が1983年にリリースした「リラックス(Relax)」

のようなアレンジの、きついビートでディスコミュージックとしていまいち乗れない感じがする。


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『ラ・ラ・ランド』

2017-02-26 00:27:19 | goo映画レビュー

原題:『La La Land』
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
撮影:リヌス・サンドグレン
出演:ライアン・ゴズリング/エマ・ストーン/ジョン・レジェンド/ローズマリー・デウィット
2016年/アメリカ

21世紀の「理由なき反抗」について

 主人公のセバスチャン・ワイルダーもミア・ドーランもそれぞれの夢を追いかけている。ミアは女優になるためにネヴァダ州の田舎からロサンゼルスにやって来たが、何度オーディションを受けても落ちてばかりだったし、セブは本格的なジャズを演奏したかったが、彼が求められる音楽は例えば、シドニー・ベシェ(Sidney Bechet)のようなジャズではなくケニー・G(Kenny G)のようなポップなフュージョンなのである。
 しかし2人の夢とは何だったのかラストで分からなくなる。まるで走馬灯のように描かれる2人の五年後の「理想」は、まるで本当の夢であるように張りぼてで描かれ、だから逆に厳しい現実は、例えば冒頭のシーンが象徴するようにCGではなく実写で描かれるのである。
 楽曲はどれも印象的なのだが、個人的にもっとも感動したエマ・ストーンが歌った「オーディション/夢見る愚か者たち(Audition/The Fools Who Dream)」を和訳しておきたい。

「Audition/The Fools Who Dream」 Emma Stone 日本語訳

私のおばは以前パリに住んでいた
思い出すわ
彼女が家に来ると私たちに外国にいた時のことを話してくれたの
彼女は一度裸足で河に飛び込んだと私たちに言っていたのを思い出す
彼女は笑っていた

向こう見ずに跳んだのよ
セーヌ河に飛び込んだ
水は凍るような冷たさで
彼女は一ヵ月間くしゃみをしていたが
彼女はまたやると言った

夢を見る者たちを祝福しよう
彼らは愚か者に見えるかもしれない
心を痛めている者たちを祝福しよう
私たちが犯す失敗を祝福しよう

彼女は感覚を掴んだ
天井の無い空の
フレームの中の日暮れの

彼女は飲んだくれの人生を送り
あっという間に亡くなった
私はいつだってその情熱を思い出すはず

夢を見る者たちを祝福しよう
彼らは愚か者に見えるかもしれない
心を痛めている者たちを祝福しよう
私たちが犯す失敗を祝福しよう

彼女は私に言った
ちょっとした狂気がカギとなる
それが私たちに見たこともない色を示してくれるから
それが私たちをどこへ導いてくれるのか誰が知っているというの?
だから彼らは私たちを必要としているのよ

だから反逆者たち(rebels)を連れてこよう
小石からできる波紋は
やがて画家となり詩人となり劇となるのだ

だから夢見る愚か者を祝福しよう
彼らは異常に見えるかもしれない
心が折れた者たちを祝福しよう
私たちが犯す失敗を祝福しよう

私は全ての物事の足跡をその時点までたどっていく
彼女と雪とセーヌ河の
全てに笑顔を絶やさずに
またするよと彼女は言った

 セブとミアが映画館で観ていた『理由なき反抗(Rebel Without a Cause)』(ニコラス・レイ監督 1955年)は上映途中でフィルムが燃えてしまう。本作は新世紀の「理由なき反抗」なのである。


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【MV】シュートサイン Short ver. / AKB48[公式]

2017-02-25 00:39:01 | 邦楽

【MV】シュートサイン Short ver. / AKB48[公式]

 

 小嶋陽菜のソロのセンター曲といえば2013年10月にリリースされた「ハート・エレキ」以来で、1960年代のグループ・サウンズを取り入れたものだったが、この「シュートサイン」も1980年代のディスコ・サウンドを取り入れており、要するに作詞を担っている秋元康は小嶋陽菜に「昭和」を感じるのだと思う。
 ミュージック・ステーションで初披露された時に聴いた際、これはグロリア・ゲイナー(Gloria Gaynor)の「恋のサバイバル(I WILL SURVIVE)」だと思った。小嶋陽菜の卒業とプロレスを絡めたイメージに「私は生き残る」という意味が加わる時、これは小嶋陽菜が今後芸能界で生き残るという決意表明のように聞こえて、なかなか洒落た卒業ソングではないだろうか。
 歌詞の中に「Get Serious」というフレーズがあるのだが、秋元康は歌詞を書いていた時点で既に『ラ・ラ・ランド』(デミアン・チャゼル監督 2016年)を観賞していたのだと思う。
 ところで2月18日放送された『AKBチーム8のブンブン!エイト大放送』において小田えりなが松田聖子の「青い珊瑚礁」を歌っていたのだが、ここで改めて気づかされたのは、松田聖子の歌の上手さだった。小田えりなが下手という訳ではなく、むしろAKBグループの中では一番上手いメンバーであるはずなのだが、やはり松田聖子の上手さには全く追いついていなかった。最も松田聖子といっても当時の松田聖子であり、今の松田聖子でさえ当時の松田聖子には足元にも及ばないのではあるが。


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『愚行録』

2017-02-24 00:06:14 | goo映画レビュー

原題:『愚行録』
監督:石川慶
脚本:向井康介
撮影:ピオトル・ニエミイスキ
出演:妻夫木聡/満島ひかり/小出恵介/松本若菜/臼田あさ美/市川由衣/濱田マリ/平田満
2017年/日本

「記録」の「愚行性」について

 演出の観点から見てみるならば、例えば、作品の冒頭で主人公の田中武志が乗るバスを平行移動のドリー撮影でゆっくりと映し出し武志が高齢者の女性に席を譲らない場面と、ラストにおいて田中が妊婦に席を譲った後にバス内で360度回転するパンで車内を映し出すコントラストや、あるいは田向一家を惨殺した後に、殺人犯が血まみれの自身の身体を風呂場のシャワーで洗い流す場面から田中が傘をさしている雨の場面の流麗な展開など洒落た演出が見られる。
 しかしストーリーとなるとどうも納得しかねる点が多々ある。例えば、有名大学に通っている夏原友季恵が同じ大学の同期で、いかにも冴えない学生であるはずの田中光子を目の敵にして騙すようなことをする動機がよく分からない。
 あるいは光子がネグレクトした千尋という名前の赤ん坊に対して、光子の兄である武志が何故代わりに世話をしなかったのか、千尋が亡くなった時に病院にまで駆けつけているが故に尚更よく分からず、橘美沙子が田中兄妹の実の母親に会いに行って「事実」を知った時、はたして武志の話がどこまで本当の話だったのかますます分からなくなり、これは「愚行」が書かれた「記録」なのか、あるいは「記録」そのものが「愚行的」なのか観客は途方に暮れてしまうのである。


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『マリアンヌ』

2017-02-23 00:42:42 | goo映画レビュー

原題:『Allied』
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:スティーヴン・ナイト
撮影:ドン・バージェス
出演:ブラッド・ピット/マリオン・コティヤール/リジー・キャプラン/マシュー・グード
2016年/アメリカ

フランスにかぶれるブラッド・ピットの「不徹底」について

 前作『白い帽子の女』(アンジェリーナ・ジョリー監督 2015年)にしても本作にしても、どうもブラッド・ピットの「フランスかぶれ」が気になる。前作ではローランドというアメリカ人の役だったから下手なフランス語は気にならなかったが、本作ではカナダ人である。
 ところがブラッド・ピットが演じたマックス・ヴァタンというカナダ人の「素性」がよく分からない。もちろんこれは極秘諜報員というストーリー上の分からなさではなく、例えば、マックスは自分はオンタリオ州出身と言っており、フランス語を使わないことはないのだがオンタリオ州の公用語は英語で、あるいはマックスは引退後はメディシンハット(Medicine Hat)で暮したいと語っており、メディシンハットはカナダのアルバータ州にあり、公用語は英語なのであるが、マリオン・コティヤールが演じたマックスの妻となるマリアンヌ・ボーセジュールはマックスが喋るフランス語の「ケベック(州)訛り」が酷いと文句を言っているのである。
 しかしこうは言っても私たち日本人は全く気がつかないことで、アメリカ人のロバート・ゼメキスもイギリス人のスティーヴン・ナイトも気がつかなかったのかもしれないが、フランス人のマリオン・コティヤールが気がつかないはずはなく、どのような思いで撮影に臨んでいたのか知りたいところではある。


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ヴェネツィア派の三巨匠

2017-02-22 00:28:01 | 美術

 国立新美術館で『ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち(Venetian Renaissance Paintings)』が

催されたのは確か去年だったはずだが、東京都美術館では『ティツィアーノとヴェネツィア派展

(Titian and the Renaissance in Venice)』が早くも開催されている。

 しかし目立つのはやはりタイトルにもなっているティツィアーノ・ヴェチェッリオ(Tiziano Vecellio

の作品で上の『フローラ(Flora)』(1515年頃)などは同時代の他の画家と次元が違うという

くらいに美しい。


(『ダナエ(Danae)』 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 1544-46)

 上の作品を観たミケランジェロは「色彩も様式も気に入ったが、素描の修練が足りない」と

感想を述べたようだ。確かに女性の胴と脚のバランスが悪いようにも見えるのだが、もちろん

ミケランジェロ・ブオナローティ(Michelangelo Buonarroti)は素描を重んじるフィレンツェ派で、

ティツィアーノのヴェネツィア派とは作風が対立することは記憶にとどめておかなければ

ならない。


(『聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ(The Holy Family with Saint Barbara and the Child Baptist)』 パオロ・ヴェロネーゼ 1565)

 ティツィアーノ以外の作品ならばパオロ・ヴェロネーゼ(Paolo Veronese)の上の作品が

素晴らしく、ようするにヴェネツィア派はあとヤコポ・ティントレット(Jacopo Tintoretto)の

作品を加えればほぼ全てを網羅できるといっても過言ではないだろう。


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『幸せなひとりぼっち』

2017-02-21 00:22:54 | goo映画レビュー

原題:『En man som heter Ove』 英題:『A Man Called Ove(オーヴェと呼ばれる男)』
監督:ハンネス・ホルム
脚本:ハンネス・ホルム
撮影:ゴラン・ハルベルグ
出演:ロルフ・ラスゴード/バハー・パール/フィリップ・バーグ/アイダ・エングヴォル/カタリナ・ラッソン
2015年/スウェーデン

他人に理解されない覚悟を持つということ

 舞台はおそらく2015年の3月頃。前年に58歳の妻のサーシャを病気で亡くし、子供のいない主人公のオーヴェは独りで生活していたが、59歳になるオーヴェは43年勤めていた鉄道局から事実上のクビを言い渡され、その前に自分から辞めてしまい、どのようにして自殺しようかと考える毎日を過ごしている。
 オーヴェは鉄道員の父親に育てられた。無口な父親との生活で、オーヴェの性格は内向的なものになっていったが、それでも父親に車の仕組みなどを学ぶ。オーヴェのスウェーデン製の「サーブ」好きは折紙付きで、例え親友でもボルボに乗っているだけで疎遠になってしまうほどである。学校も優秀な成績で卒業したのであるが、その直後に父親は鉄道事故で亡くなってしまい、さらに父親が建てた自宅は隣家の火事のもらい火で焼失してしまう。
 列車に偶然乗り合わせたサーシャと逢ったのはそんな時だった。サーシャは教師になるために大学で勉強しておりウクライナ出身の小説家のミハイル・ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』を読むような秀才だった。結婚して2人にようやく子供ができた矢先にサーシャは事故に遭遇してしまうのである。
 一見するならばオーヴェは近所に住む厄介なうるさい頑固爺であるが、オーヴェは他人に冷淡な人間ではない。事故で車イス生活を余儀なくされたサーシャのために自ら学校にスロープを取り付けて教師の職をもたらし、体が不自由になった親友が強制的に施設に入れられるのを防ぐために市役所と掛け合う。線路に降りて自殺しようとしていた若者を救っても決してそれを吹聴したりはしないのである。
 生き方が不器用なオーヴェは自分を高く評価してくれる人だけで葬儀をして欲しいと願う。そういう覚悟を持った生き方は悪くはないと思った。


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『ジャズ大名』

2017-02-20 00:11:56 | goo映画レビュー

原題:『ジャズ大名』
監督:岡本喜八
脚本:岡本喜八/石堂淑朗
撮影:加藤雄大
出演:古谷一行/財津一郎/神崎愛/岡本真実/殿山泰司/本田博太郎/今福将雄/小川真司
1986年/日本

「ええじゃないか」と「ジャズ」の違いについて

 最初の舞台はアメリカの西南戦争が終わった1865年頃のバーモント州。ジョー、ルイ、サム、そしてアンクル・ボブは船で故郷のアフリカに戻ろうとしたが、嵐で船が沈没し、救命ボートでたどり着いた先は庵原藩が支配する駿河湾の沖合だった。
 庵原藩の藩主の海郷亮勝は音楽をこよなく愛し、黒人たちが奏でる「メイプルリーフ・ラグ(Maple Leaf Rag)」の虜になり、幕末の官軍と幕府軍による戊辰戦争を無視して演奏に夢中になり、演奏の邪魔をされたくないがために庵原藩の城内は彼らの通行を自由にして、地下の座敷牢で黒人たちと家来たちを含めてジャム・セッションを始める。それは新政府軍の殿銃隊が奏でる「トンヤレ節」をかき消すような勢いで「大名行進曲」が演奏されるのである。
 城内にいた石出九郎左衛門と松枝姫が騒音を聞いて外を見ると、現代の東名高速が映る。

 外の「喧騒」を余所に自分たちはジャズに高じるというストーリーはアイロニーというよりもただの無関心というふうにしか意味が取れず、面白みを感じなかった。


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『復活の日』

2017-02-19 00:07:46 | goo映画レビュー

原題:『Virus』
監督:深作欣二
脚本:深作欣二/高田宏治/グレゴリー・ナップ
撮影:木村大作
出演:草刈正雄/緒形拳/夏木勲/千葉真一/多岐川裕美/オリヴィア・ハッセー/ジョージ・ケネディ
1980年/日本

1980年の邦画の「ターニングポイント」について

 矢口史靖監督の『サバイバルファミリー』(2017年)と対をなすような作品が、話のスケールが大きすぎて制作費が追い付かなかったSF作品『復活の日』と言って差し支えないと思う。とりあえずヒットはしたものの製作費や宣伝費で結局赤字だった上に、映画批評家からも認められなかったらしいのであるが、日本の資本で多くの外国人俳優が集う当時のハリウッド映画と遜色が無い作品を撮りあげた深作欣二監督の手腕は高く評価されるべきもので、今となっては考えられない企画を立案したプロデューサーの角川春樹の蛮勇も無視するわけにはいかないだろう。アメリカの映画監督が引き受けなかった理由は、ストーリーの規模の大きさで失敗する可能性が高かったからなのではないだろうか。
 そういう意味では、フランシス・フォード・コッポラやジョージ・ルーカスが外国版のプロデュースを担った黒澤明監督の『影武者』が邦画配給収入で1位になり、本作が2位となった1980年は邦画のターニングポイントだったのかもしれない。それはもはやハリウッド作品には勝ち目がなくなった邦画の「敗北」という意味である。


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