MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『変身(2005)』

2016-06-30 00:22:03 | goo映画レビュー

原題:『変身』
監督:佐野智樹
脚本:よしだあつこ
撮影:浜田毅
出演:玉木宏/蒼井優/北村和夫/山下徹大/松田悟志/佐田真由美/釈由美子
2005年/日本

長尺の「ウルトラQ」について

 これほど見どころが無い作品も珍しいのではないだろうか。世界初の脳移植という大規模なプロジェクトがわずか3人の人物によってなされているという設定に無理があると思うが、演出にも無理があって、例えば、主人公の成瀬純一に信頼されて託された日記の内容をわざわざ成瀬の部屋で担当医師の堂元英隆に知らせている橘直子が成瀬に見つかって殺されてしまったり、成瀬の逃亡先を堂元の助手である若生健一が、葉村恵に教えられてやって来たと言うのであるが、その後恵が成瀬を裏切ったというような話にはなっていないので、若生がどのようにして成瀬の逃亡先を知ったのか謎のままである。更には自分の目の前で頭部を拳銃で撃って自殺した成瀬を見たはずのある恵がラストで、成瀬が描いた自分の肖像画を前に微笑んでいられるはずもなく、気が狂ったようにしか見えないのであるが、正気を失ったということなのだろうか。
 画家としての成瀬純一とピアニストとしての京極瞬介のキャラクターを演じ分けることは至難の業だと同情はするが、玉木宏の演技も上手くいっていないと思う。しかしそもそも脚本が悪いのだから仕方がない。
 だから東野圭吾原作の映画化ではなくて、「ウルトラQ」的なテレビドラマ作品として観ればいいのかもしれないが、それならば108分という上映時間は長すぎる。


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嘘八百で動く世論の末路

2016-06-29 20:32:48 | Weblog

【英EU離脱】離脱派に広がる「後悔」 「Regrexit」の造語も登場 軽い気持ちで投票…やり直したいとも
消費税率、やみくもに引き上げても税収増えない=安倍首相
“嘘つき”安倍首相 次の“新しい判断”は「消費増税再々延期」
公約を軽んじる「新判断」(6月19日)

 投票前、離脱派は英国がEU加盟国として支払っている拠出金が週3億5000万ポンド

(約480億円)に達すると主張し、与党・保守党のボリス・ジョンソン前ロンドン市長らが

全国を遊説したバスの側面にも、巨額の拠出金を「国民医療サービス(NHS)の財源にしよう」と

書かれていたのだが、残留派が、EUから英国に分配される補助金などを差し引くと、拠出金は

「週1億数千万ポンドだ」と反論し、結果、英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首

は24日のテレビ番組で残留派の主張が正しいことを事実上、認めてしまった。

 また、離脱派はEU加盟国からの移民制限を主張していたが、離脱派のダニエル・ハナン欧州議会

議員は24日のテレビ番組で、「移民がゼロになるわけではなく、少しだけ管理できるようになる」

と、「下方修正」してしまっている。

 これは決して他人事ではない。「旧3本の矢」の行方が不明なまま検証することもせずに

「新3本の矢」を取り出したり、2017年4月1日に必ず消費税の10%増税をすると政権公約して

おきながら、「新しい判断」という意味の分からない指針で、2年半という基準の分からない

延期をするような、平気な顔をして嘘がつける人物が日本国のトップに立っているのだから。


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『トリプル9 裏切りのコード』

2016-06-28 20:42:32 | goo映画レビュー

原題:『Triple 9』
監督:ジョン・ヒルコート
脚本:マット・クック
撮影:ニコラス・カラカトサニス
出演:ケイシー・アフレック/キウェテル・イジョフォー/アンソニー・マッキー/ケイト・ウィンスレット
2016年/アメリカ

「マクガフィン化」するストーリーについて

 ストーリーそのものは悪くはないが、キャラクターの個性が弱いためなのか誰が誰なのかよく分からない。イリーナ・ヴラスロフが率いるロシアン・マフィアが警官を使って盗もうとしていたものが明らかにされないことはマクガフィンとして捉えるならば理解できるが、深読みしすぎたためなのかクリス・アレンがマーカス・ベルモントと組まされることに何らかの警察組織としての意図があるのかと思ったが、何もなかったようだ。
 少しずつクリスがマーカスの行動に疑問を感じる過程は上手く描かれているものの、マイケル・アトウッドが息子へのプレゼントとして渡したものを何の疑問も感じずにイリーナたちが受け取ることに甘さを感じるし、ラストにおいてフランコ・ロドリゲスがクリスをどのようにしたかったのかも不明瞭で、「トリプルナイン」が活かしきれず肝心の最後が盛り上がらない。


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『DOORS』

2016-06-27 23:41:07 | goo映画レビュー

原題:『DOORS』
演出:中野智行(PaniCrew)
脚本:平野建
出演:小木宏誌/岩崎孝次/松川貴則/新井優/斎藤真矢/菅原ブリタニ―/古泉祐紀/飯田麻友
2016年/日本

申年が生み出すコメディー作品について

 昨今大いに話題となった人物たち(佐村河内守、佐野研二郎、高橋健一、小保方晴子、ベッキー)がアイドルグループ「謝罪オールスターズ」、通称「謝ザン」を結成し一発逆転を狙うコメディーである。実はもう一人野村というキャラがいるものの、野々村竜太郎と宮崎謙介と髙木毅が混ざっており、ネタを詰め込みすぎたせいなのかキャラがぼやけてしまっているのであるが、これは演出の問題というよりも政治の問題であろう。
 高橋健一の、その存在感の薄さが長年にわたる制服の窃盗に結びついたと捉えているところは考えさせられた。
 アンケート用紙をもらっても鉛筆がなければ記入しようがないと思う。


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『We Are Your Friends ウィー・アー・ユア・フレンズ』

2016-06-26 00:39:41 | goo映画レビュー

原題:『We Are Your Friends』
監督:マックス・ジョセフ
脚本:マックス・ジョセフ/ミーガン・オッペンハイマー
撮影:ブレット・ポウラク
出演:ザック・エフロン/ウェス・ベントリー/エミリー・ラタコウスキー
2015年/アメリカ・イギリス・フランス

「個人プレイ」の映画化の難しさについて

 すんなりと夢が叶いそうな主人公が危ない恋に陥り、クスリに手を出し、仕事も友人も失いながらも諦めずに自分の音楽を制作した結果、大きな舞台に立つことができて成功を収めるというストーリーの流れは、このようなミュージシャンを主人公とした作品にはありがちな展開ではあるが、他の作品と本作の大きな違いはグループで活動するロックスターではなく、一人でデータを収集して音を作っていくDJという職業にある。
 だから例えば、主人公のコール・カーターは仲間のダスティン・メイソンやオーリーやスクワレルと一緒に暮らして同じ不動産会社に勤めてはいるが、同じバンドのメンバーとしての葛藤はなく、あるいはカリスマDJとして登場するジェームズ・リードが作り出す作品が「古い」とされても、例えコールが自然の音を収集して「新しい」作品を生み出すシーンがあったとしても、個人的にはジェームズとコールの作品の微妙な違いが聴き分けられない。
 しかし本作を観て感じることは、ディスコ・ミュージックの進化形だと思っていたEDMが、実はスティーヴ・ライヒ(Steve Reich)やテリー・ライリー(Terry Riley)などのミニマル・ミュージック(Minimal Music)の発展形であったということである。


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蓮實重彦と平野啓一郎

2016-06-25 22:08:17 | Weblog

三島由紀夫賞贈呈式 蓮實重彦さん受賞スピーチ全文
三島由紀夫賞贈呈式で蓮實重彦さんがスピーチ「マイクを握ると何を口走るか分かりません…」

 蓮實重彦の、三島由紀夫賞の受賞会見時の「不機嫌」からの贈呈式のスマートさの転換は見事なもので、このような芸当を持ち合わせている若手作家はいないという意味で、今回の受賞は妥当なものなのであろう。『新潮』の2016年7月号をたまたま読んでいたら、選考委員に平野啓一郎がいたことに驚いた。平野の「『文学の前途を拓く新鋭の作品』とは」という選評を引用してみたい。
「三島由紀夫賞の規定には、『本賞は下記の規定により、文学の前途を拓く新鋭の作品一篇に受賞する。』という一文が掲げられている。(中略)新人は、どれほど才能があろうと、経済的にも社会的にも不安定な場所から出発せざるを得ない。文壇は彼らを自らの新しさとして広告し、『対外的に』バックアップするのである。/新人賞にとって重要なことは、受賞によって生活が少し楽になるだとか、実家の親が喜んでくれたとか、鼻で笑っていた周囲の人の態度が変わったとか、そういうことではあるまいか? そして、その新しい才能が、次なる新しい作品を生み出し得たならば、それは、文壇にとっても大いに利とするところである。/『伯爵夫人』は第二次世界大戦を背景に、体質的とも言える文体で、『摩羅』と『睾丸』と『おまんこ』の逸話を綴ってゆくが、ページを捲るほどに、生臭い大きな陰嚢に包まれてゆくような息苦しさがあった。/『活劇』として配置された『金玉潰し』は、ペンチで爪を剥がすといった類と同様で、文学とは無関係に強烈な痛みの感覚を引き起こすが、それに見合う高揚感や象徴性は欠けていた。知的な意味では、読後にこそ始まる小説なのだろうが、主人公の祖父が射精なしで『女を狂喜させる』ことに徹していた理由が、『近代への絶望』と『仄めかされる』点など、私は、つきあいきれないものを感じた。/本作を推した委員の一人は、自分はこの小説が好きではなく、新しいとも思わず、内容的にも無意味だが、この趣味の世界の完成度には頭を垂れざるを得ないとの意見だったが、私は全く賛同出来なかった。/私が推したのは、『新カラマーゾフの兄弟』で、今日の国家の弱体化と『個人』という概念の解体、そして恒常的なニヒリズムを、ドストエフスキー本人と『カラマーゾフの兄弟』の世界、更にはソ連解体後のロシアの混迷を参照しつつ見極めようとする野心作だった。」
 因みに他の選考委員の辻原登は「『伯爵夫人』は一見、まるで関わりのなさそうな物語の中に、仄めかしすらなく、しかし、間違いなく中心にその欲望を謎解きの小説のように潜めている。」
 高村薫は「それでも繰り出される言葉の運動そのものに一定の快楽を覚えるのは、まさに小説の勝利というものであろうと思い、今回、評者は本作を推した。」
 川上弘美は「さて、『伯爵夫人』です。作者の、海を渡るその泳ぎぶりの、優美で野蛮で愉快でかつ空っぽな感じ。いいなあ、これ、と読み始めてすぐに思ったのです。小説とは、うろんなもの。その言葉どおりの小説を読んだな、と感じました。」
 町田康は「蓮實重彦の『伯爵夫人』を読むと、その隅々まで配慮の行き届いた文章に感心も得心もし、他の人はともかくも、自分はほとんどノリと気合だけで書いているのではないかと思ってしまう。さほどに文章にも、そしてまた構成にも、こうした時代設定にした場合に必ず生じ、読者に脳内での修正を求めることになるはずの瑕疵や違和感がひとつもなく、全体の印象としてはなにか、イヤーな気配が漂って楽しい感じがまったくないのだけれども、別に楽しくなくてはならないという法はないのだから、これは優れた小説であるとせざるを得ない。」
 かつてデビュー作の『日蝕』を否定し、『葬送』は読むに堪えられず途中で止めてしまったと書いた蓮實重彦の小説を褒める訳にはいかなかったのであろうが、このように選評を読み比べると平野啓一郎の読解力が疑われてしまう。それでも蓮實の受賞に断固抗議するために選考委員を辞任するという強い意志を示してくれれば、平野を見直すこともあったが、そのような話は出ていないようだからその程度なのである。
 因みに2012年の三島由紀夫賞を受賞した、青木淳悟の『私のいない高校』を「教師の網羅的に全てを見渡す眼差しと、それをただぼんやりとなぞる留学生の眼差しという二重視点は、画期的な発明」と評価した平野啓一郎がやらかした顛末は斎藤美奈子の『ニッポン沈没』(筑摩書房 2015.10.20)を参照。今回に限らず、平野ずっとやらかしているのであり、そういう委員に選考されているプロが気の毒になってくる。
 「小説が向うからやってくるに至ったいくつかのきっかけ」というインタビューにおいて「二朗が人力車に乗っていることに、『一九四一年の東京だったらまずタクシーですよね』といっておられましたが、当時自宅に往診してくれる医者は全員人力車に乗っていました。」と蓮實が反論している相手は、『群像』2016年5月号の「創作合評」において「あと、人力車が最後に出てきますが、一九四一年の東京だったらまずタクシーですよね。これはたぶんわざとやっていて、事実なのか作り話なのかわからないようにしている。」と語っている東京大学教授の苅部直である。


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『10クローバーフィールド・レーン』

2016-06-24 00:22:00 | goo映画レビュー

原題:『10 Cloverfield Lane』
監督:ダン・トラクテンバーグ
脚本:マット・ストゥーケン/ジョシュ・キャンベル
撮影:ジェフ・カッター
出演:メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ジョン・グッドマン/ジョン・ギャラガー・Jr
2016年/アメリカ

流行の演出に敏感なシリーズ物について

 前作『クローバーフィールド/HAKAISHA』(マット・リーヴス監督 2008年)の斬新な演出と比較するならば、今回の「密室劇」という舞台設定は地味に見える。
 ハワードが居間で観ていた作品『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(ハワード・ドゥイッチ監督 1986年)をエメットが『すてきな片想い』(ジョン・ヒューズ監督 1984年)と勘違いした理由は、両作品の主人公をモリー・リングウォルドが演じていたからである。
 3人がプレイしていたカードゲームのある質問の答えがルイーザ・メイ・オルコットが書いた「若草物語(Little Women)」だったのだが、ハワードはフランシス・ホジソン・バーネットの書いた「小公女(Little Princess)」と間違えたり、次の質問の答えがサンタクロースの歌だったり、そもそもシェルターの中にファッション雑誌があったりと、ハワードがロリコンであることが暗示され、そうなるとジュークボックスで流れた「ふたりの世界(I Think We're Alone Now)」が1987年にヒットしたティファニーのヴァージョンではなく、1967年にリリースされたオリジナルのトミー・ジェイムス&ザ・ションデルズ(Tommy James and the Shondells)のヴァージョンであることが理解できる。
 つまり本作は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(J・J・エイブラムス監督 2015年)など昨今流行している美少女戦士の物語であり、実際に本作には製作としてJ・J・エイブラムスが関わっている。


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『ノック・ノック』

2016-06-23 00:32:19 | goo映画レビュー

原題:『Knock Knock』
監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス/ギレルモ・アモエド/ニコラス・ロペス
撮影:アントニオ・クエルシア
出演:キアヌ・リーブス/ロレンツァ・イッツォ/アナ・デ・アルマス/コリーン・キャンプ
2015年/アメリカ

「ノック・ノック」と「ジョーク」の狭間の恐怖について

 キアヌ・リーブスが主演した前作『ジョン・ウィック』(チャド・スタエルスキー監督 2014年)が「ヤリまくり」の主人公だったことを思えば、本作は「ヤラれまくり」の主人公という対照性が、計算されたものかどうかはともかくとして面白い。
 主人公のエヴァン・ウェバーの妻のカレンは売れている現代美術家なのであるが、彼らの家を訪れたジェネシスとベルが彼女の作品に落書きをしても、カレンの助手のルイスが気にするほど気にならない理由は、モダンアートというものはそのような「悪意」も糧にするものだからだと思う。
 かつてDJとして活躍していたエヴァンがレコードプレイヤ―で流していた曲にチリ出身のフランシスカ・ヴァレンズエラ(Francisca Valenzuela)の「Prenderemos Fuego al Cielo」があり、良い曲だったのでここに和訳しておきたい。

「Prenderemos Fuego al Cielo」 Francisca Valenzuela 日本語訳

あなたにここにいて欲しいけれど
私はあなたを自由にする
私はあなたを自由にする
それが来るのを私は見た
私にとってあなたはもったいない人だった
それが来るのを私は見た

あなたがやって来て私に触れたことに
私は気がつかなかった
まるでこのように人生が私たちを引き離すのね
さようなら

天に火を放とう
あなたのように私の瞳は輝かない
例えあなたが空高く去っていっても
私の上にあるものはあなたの上にあるものと同じもの

私を輝かせて、私を助けて
何だって起こる可能性はある
私を呼んで
私たちが再び出会うことを祈って欲しい

私はあなたのことを知らない
もしも私があなたのことを知らないならば
どうすればあなたが私を解放するように導けるというの
眠れずに感覚も失い
それは恐れをなさない渇望以上
私があなたのことを何も知らないから

やって来て私に触れたことに
私たちは気がつかなかった
まるでこのように人生が私たちを引き離すのね
さようなら

私たちは天に火を放とう
あなたのように誰も私の瞳を輝かせてくれない
例えあなたが空高く去っていっても
私の上にあるものはあなたの上にあるものと同じもの

私を輝かせて、私を助けて
何だって起こる可能性はある
私を呼んで
私たちが再び出会うことを祈って欲しい

天に火を放とう
あなたのように私の瞳は輝かない
例えあなたが空高く去っていっても
私の上にあるものはあなたの上にあるものと同じもの

私を輝かせて、私を助けて
何だって起こる可能性はある
私を呼んで
私たちが再び出会うことを祈って欲しい

天に火を放とう
天に火を放とう


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『高台家の人々』

2016-06-22 00:35:02 | goo映画レビュー

原題:『高台家の人々』
監督:土方政人
脚本:金子ありさ
撮影:大石弘宣
出演:綾瀬はるか/斎藤工/水原希子/間宮祥太朗/大地真央/市村正親/坂口健太郎/夏帆
2016年/日本

白鳥麗子と平野木絵の比較考察

 『白鳥麗子でございます! THE MOVIE』(久万真路監督 2016年)以上に本作はファンタジー色が強い。主人公の平野木絵が空想癖をこじらせた引っ込み思案の女性だからなのだが、さすがに東宝が制作に関わっているだけあって、このファンタジー作品はファンタジーのまま終わることなく、主人公の平野木絵は高台光正との結婚式の最中に逃走してしまい、「リアル」を演出することには成功している。
 当事者2人だけでなく、高台茂子と岸本浩平も、あるいは高台和正と斉藤純もお互いの関係を真剣に考えるようになるのであるが、木絵の打開策はファンタジーを「濃厚」にするというもので、ファンタジーに戻ったことに問題があるのか、その「濃厚さ」が足りないのか分からないが、綾瀬はるかの健闘むなしく結局予定調和に終わってしまっているところが残念である。


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『白鳥麗子でございます! THE MOVIE』

2016-06-21 20:35:01 | goo映画レビュー

原題:『白鳥麗子でございます! THE MOVIE』
監督:久万真路
脚本:久万真路/大谷洋介
撮影:猪本雅三
出演:河北麻友子/水野勝/小林豊/田村郁久/上野優華/さとう珠緒/春海四方/久松郁実
2016年/日本

「ファンタジー」の中に闖入してきた「リアル」の扱い方について

 作品冒頭で秋本哲也の部屋で手料理を振る舞おうとする主人公の白鳥麗子の身には赤いドレスの上にいつの間にかエプロンがまとわりついており、料理の失敗と共に身に着けていたエプロンがなくなっているということはもちろん麗子が見た幻想だったわけで、本作がファンタジーであることを示している。
 哲也が所属している東花大学バスケットボール部の合宿のついでに2人は哲也の実家を訪れることにするのであるが、その伊豆の下田ではリゾート開発を巡り、哲也の父親が所属している漁業組合と麗子の父親が経営する白鳥グループが対立しており、麗子は哲也の実家から追い出される。
 その2人に絡んでくる人物が白鳥グループと共に下田のリゾート開発を進めている桐生ゼネラルの御曹司の桐生希一なのであるが、希一は会長で父親の桐生公雄の命じられるままカジノを作ろうとしており、それに反対して唯一土地の買収に応じないすず婆に手こずっている。
 すず婆は15年前に下田の海岸で一緒に遊んでいた麗子と哲也が結婚することを予言していた人物で、紆余曲折はあってもストーリーは予言された方向に向かうのであるが、ラストにおける桐生希一の決断は無視しがたいものがある。希一は麗子と哲也の結婚を認めただけでなく、その後も白鳥グループへの資金援助を約束しており、さらに父親の反対を押し切ってカジノの建設を放棄し、麗子と哲也の空想でしかないリゾート計画を真剣に取り上げて検討するというのである。
 つまり「ファンタジー」に「リアル」が紛れ込んできたのであり、白鳥麗子がこの「リアル」を無視して「ファンタジー」と結婚してしまうことに無理があるように思う。つまり決められた結末に向かってストーリーが流れているだけで物語に躍動感を感じられず、結果的に白鳥麗子を演じた河北麻友子の孤軍奮闘振りだけが目立つ。
 ところでスポンサーへの配慮は悪くはないのだが、哲也の実家のキッチンに太田胃散整腸薬が大量に積み重なっていると、母親の作る食事に問題があるのではないのかと勘繰ってしまう。


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