監督:山下敦弘
脚本:野木亜紀子
撮影:柳島克己
出演:綾野剛/齋藤潤/芳根京子/橋本じゅん/やべきょうすけ/坂井真紀/宮崎吐夢/ヒコロヒー/加藤雅也/北村一輝
2024年/日本
カラオケによるビルドゥングスロマンについて
ヤクザの成田狂児と中学三年生の岡聡実の出会いは岡が所属している中学校の合唱部のコンクールの会場の前をたまたま通りがかった成田が会場に潜り込んで岡の歌声を気に入ったことから始まる。成田は所属する祭林組組長が主催するカラオケ大会で罰ゲームが与えられる最下位だけは逃れたい一心で岡にレッスンを頼むのである。
しかし誤解があるかもしれないが、本作の主人公は成田ではなく岡の方である。岡は中学校で合唱部の部長を務めているのであるが、変声期で自慢のソプラノが出にくくなってきており、練習から足が遠ざかりぎみで、代わりに何をしているかというと学校の映画部でギャング映画の『白熱』(ラオール・ウォルシュ監督 1949年)、恋愛ドラマの『カサブランカ』(マイケル・カーティス監督 1942年)、コメディの『三十四丁目の奇蹟』(ジョージ・シートン監督 1947年)、父と息子を描いた『自転車泥棒』(ヴィットリオ・デ・シーカ監督 1948年)を見ているのである。岡は自ら成田の十八番であるX JAPANの「紅」の英語の歌詞の部分を日本語に翻訳もしており、そのような学びを通じて岡は子供から大人になる準備をしているのであり、その「イニシエーション」は組長が主催するカラオケ大会で成田の代わりに歌うことで果たされることになる。
繰り出されるギャグも悪くはなく映画評論家は全員べた褒めのはずで、これは傑作だと個人的にも思うのだが、作品の第一印象がナンパっぽく見えて敬遠されるとするならば惜しいと思う。
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