原題:『Gemini Man』
監督:アン・リー
脚本:デイヴィッド・ベニオフ/ビリー・レイ/ダーレン・レムケ
撮影:ディオン・ビーブ
出演:ウィル・スミス/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/クライヴ・オーウェン/ベネディクト・ウォン
2019年/アメリカ
娯楽作品で問われる「実存」について
例えば、主人公のヘンリー・ブローガンが乗っている車が画面の右から左に走る時に、それに合わせるように画面の手前にいる人が漁の網を投げるシーンや、敵に追われているヘンリーがバイクで疾駆する際に、多くの鳩が集っている広場を走らせることで鳩を飛び立たせるシーンなど、さすが監督がアン・リーだけのことはあると納得させられる。
しかし本作がそれほど楽しめない原因は、極秘特殊部隊「ジェミニ(GEMINI)」の指揮官であるクレイ・ヴァリスの発言にあるように思う。クライマックスでヴァリスはヘンリーに「自分たちと同じ能力を持ち痛みを感じないクローンを戦争に投入することは、自分たちのみならず、それぞれの家族にも国家にとっても良いことだ」と言うのである。この発言を完全に否定できるだけの強力な倫理を今の私たちは持っているだろうかと考えると微妙で、ハッピーエンドで終わっても観賞後に残るこの難問(アポリア)を私たちは上手く処理できないのである。