MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『イニシエーション・ラブ』

2015-05-31 00:09:58 | goo映画レビュー

原題:『イニシエーション・ラブ(INITIATION LOVE)』
監督:堤幸彦
脚本:井上テテ
撮影:唐沢悟
出演:松田翔太/前田敦子/木村文乃/三浦貴大/前野朋哉
2015年/日本

前田敦子の「昭和感」について

 前半のストーリー展開や懐メロを聞いていたら、これは『モテキ』(大根仁監督 2011年)的な話なのかと思っていたら、最後になってこれは「モテキ後」の話なのだと納得した。
 それよりも感心したのは前田敦子と「昭和」の相性の良さで、それは『苦役列車』(山下敦弘監督 2012年)で既に証明されていたことではあるが、本作においても前田は完璧に「昭和」を把握している。これは女優としての前田敦子の稀有な才能なのかもしれない。
 『フォーカス』(グレン・フィカーラ/ジョン・レクア監督 2015年)において視点の柔軟不足を問題にしたが、本作では敢えて間違って観ていた方が面白いであろう。


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『フォーカス』

2015-05-30 00:08:35 | goo映画レビュー

原題:『Focus』
監督:グレン・フィカーラ/ジョン・レクア
脚本:グレン・フィカーラ/ジョン・レクア
撮影:ハビエル・グロベット
出演:ウィル・スミス/マーゴット・ロビー/ロドリゴ・サントロ/ジェラルド・マクレイニー
2015年/アメリカ

なかなか柔軟に対応できない「フォーカス」について

 最初の方は、そういうこともあるのかなと思いながら数々の詐欺のテクニックを眺めていたが、さすがにクライマックスにおいて、ジェスにプレゼントしたネックレスに仕込んだ装置を通して敵方のギャリガのコンピュータのキーボードの打ち方を聞いてパスワードを読み取ったという主人公のニッキーの説明は、そのギャリガでさえ信用しなかった。
 だからいくら大動脈を外してニッキーが胸を撃たれたとしてもあれだけ流血してしまえば既に失血死していてもおかしくはないと思いながらジェスに担がれながら病院に歩いて向かうニッキーを観ていたら、レイ・コニフ&ザ・シンガーズRay Conniff and The Singers)の「風のささやき(The Windmills of Your Mind)」が流れてきたことで、本作が本格的なクライム・サスペンスではなくて『華麗なる賭け(The Thomas Crown Affair)』(ノーマン・ジュイソン監督 1968年)のパロディーだったことが分かった。あれだけニッキーが「フォーカス」の重要性を指摘していたのに一度視点が定まってしまうとなかなか柔軟に変えることが難しいことが身に染みた。


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『セッション』

2015-05-29 00:10:45 | goo映画レビュー

原題:『Whiplash』
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
撮影:シャロン・メール
出演:マイルズ・テラー/J・K・シモンズ/オースティン・ストウェル/メリッサ・ブノワ
2014年/アメリカ

「ドラ根」物語の楽しみ方について

 原題の「ホイップラッシュ(Whiplash)」とはアメリカのジャズ奏者で作曲家のハンク・レヴィ(Hank Levy)の曲のタイトルであると同時に、「鞭による痛打」という意味もある単語で、主人公のアンドリュー・ニーマンが父親のジムと観に行っていた映画、ジュールス・ダッシン監督の『Rififi』(1955年)の邦題が『男の争い』であるのと同様に(「Rififi」は俗語で「喧嘩」を意味する)、その後のアンドリューが直面する困難を暗示している。
 シェイファー音楽院のテレンス・フレッチャー教授の指導は非常に厳しいものだが、よくよく考えてみるとおかしな指導で、ドラマーが数字通りのテンポを正確に刻めるようになってしまえば、指揮者が存在する意味が分からなくなってしまう。実際に、ラストにおいてフレッチャー教授は、厳しい指導をこなし完全無欠の「ドラムマシーン」と化したアンドリューにバンドリーダーの役割を奪われてしまい、そのアイロニーが効いていると思う。『巨人の星』にリアリズムを求めても仕方がないであろう。


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『サンドラの週末』

2015-05-28 00:04:27 | goo映画レビュー

原題:『Deux jours, une nuit
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
撮影:アラン・マルコァン
出演:マリオン・コティヤール/ファプリツィオ・ロンジョーネ/オリヴィエ・グルメ
2014年/フランス・ベルギー・イタリア

「労働組合」無き後の孤独な「ヒーロー」について

 うつ病を患って休職していた主人公のサンドラ・ビアが仕事先のソーラーパネルの会社に復職しようとした矢先に、会社側から残りの従業員へボーナスを支給する代わりに解雇することになり、これは16人の従業員の投票で決まったことだと告げられる。
 同僚のジュリエットの奮闘で社長に直談判し、月曜日の再投票でサンドラの復職を支持する者が過半数に達したら解雇を取りやめにすることになるのであるが、サンドラが一人一人を訪ね歩いて頼んでいる様子を見ている内に、何故彼らは「労働組合」を組織して労働者側の権利を守るために会社側と交渉しないのかと思った人は決して若い人ではないであろう。
 では「労働組合」の代わりに彼らが勝ち得たものが何なのか考えた時、それは復職が決まりかけ、社長が契約社員の契約を期限通りに終了させると言った時、それは受け入れられないと抗議して自ら辞めてしまう「英雄」としてのサンドラなのであるが、皮肉なことに称えられるべきサンドラの英雄的な振る舞いに誰も気がつかず、結局、彼女を引き留めようとしない社長でさえ「バカな女」という烙印を押したはずなのである。
 ところで使用されている楽曲なのであるが、ジャッキー・デシャノン(Jackie DeShannon)の「Needles And Pins」の代わりにペトゥラ・クラーク(Petula Clark)のカヴァーヴァージョンの「La Nuit N'en Finit Plus」が使われている。最初にそれぞれの和訳をしてみる。

「Needles And Pins」Jackie DeShannon 日本語訳

今日私は彼を見た
彼の顔を見た
私の好みの顔だった
分かっていたことだけれど

私は逃げ出して
跪いて
それが消え去るように祈らなければならなかったけれど

それがまた始まった
やきもきする気持ちが始まった
私にはプライドがあるから
涙は隠さなければならない

私は自分が賢いと思っていた
彼の心を勝ち取ると
自分が負けるとは思っていなかったけれど
今の私には分かる

私よりも彼女の方が彼に相応しい
だから私の代わりに彼女の愛を
彼に掴ませよう
いつか彼には分かるはず

お願いと言いながら跪く方法が
そして始まるのよ
彼はあのやきもきを感じるはず
彼にじわじわと苦痛を与える

何故それを止めさせて
私自身が間違っていたと言えないのだろうか
完全に私が間違っているのに
何故立ちあがって
強くなれと私自身に言えないのだろうか

だって今日私は彼を見た
彼の顔を見た
私の好みの顔だった
手放すことなんてできない

私には分かっていることだけれど
彼は私を泣かせるの
私が死ぬその日まで泣き続けるのね

でも、みんな
今の私は生きなければならない
私は許さなければならないと
神様も分かっている

また始まる
彼はあのやきもきを感じるはず
彼にじわじわと苦痛を与える
今それを止めよう
あの苛立ちを止めよう
あのヒリヒリを止めよう

二度と始まらないようにしよう
私の言うことが聞こえないの!
誰か、あの感じを取り払って!

あのやきもきを止めて
また始まる
私はあのやきもきを感じる

「La Nuit N'en Finit Plus」Petula Clark 日本語訳

眠れない時は
夜はのろのろと進む
もはや夜が終わらないように
私は何かが来るのを待っているけれど
誰を待っているのか何を待っているのか分かっていない
愛したいし生きたい気持ちはある
全く何も起こらないまま時が流れ時間を無駄にして失ってしまう
この世には必ず存在意義があると言って
私と同じように今夜孤独な人たちがいる
死ぬほど悲しいこと
何てばかげた世界なの
これ以上何も考えたくないから私は眠りたい
タバコに火をつけ
私は頭の中で嫌な考えが浮かぶ
だから私にとって夜がとても長く感じるの
時々遠くから足音が聞こえる
誰かが近づいてくる
でも何もかも消え去って静寂だけが残る
だから夜は終わらないのね
月は青く
手をつないでいる恋人たちの庭がある
私もそこにいる
訳もなく涙を流しながら苦悩する魂のようになる
私は自分一人
愛する人が欲しい
今夜ではないのよ
だって今夜は終わりそうにはないから
でも私は酷い鬱なのね
私は気ままに出かけたい
夜が明けたらすぐに遠くへ行きたい
でも夜は終わりそうにない

 このように和訳してみると同じ曲でも詞の内容は正反対で、ペトゥラ・クラークのヴァージョンが選ばれた理由が分かる。


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『シグナル』

2015-05-27 00:52:08 | goo映画レビュー

原題:『The Signal』
監督:ウィリアム・ユーバンク
脚本:ウィリアム・ユーバンク/カーライル・ユーバンク/デイヴィッド・フリゲリオ
撮影:デイヴィッド・ランゼンバーグ
出演:ブレントン・スウェイツ/ボー・ナップ/オリヴィア・クック/ローレンス・フィッシュバーン
2014年/アメリカ

「改造」を必要としない女性の役割について

 主人公はマサチューセッツ工科大学の学生のニック・イーストマンとジョナス・ブレックとニックの恋人のヘイリー・ピーターソンの3人で、カリフォルニアの大学へ通うことになったヘイリーを車で送っている時に、「ノーマッド」と名乗る人物にパソコンをハッキングされたことで、彼の居場所を突き止めてネバダに在った廃屋を捜索していた際に、3人はエイリアンに捕まることになる。
 3人は施設に収監されており、ニックは施設の研究員であるウォレス・デーモンと面会し、自分たちがウイルスに感染していることを知らされる。ニックはヘイリーを連れて施設から逃げ出すのであるが、自分の両足が人間とエイリアンの融合により「改造」されていることに気がつき、後から合流したジョナスも両腕が「改造」されており、それぞれ特別な能力を発揮する。
 そうなるとヘイリーはどうなっているのか気になるところなのだが、事故に遭ったヘイリーは救急車で運ばれてしまい、「改造」されているかどうかは分からない。しかしニックやジョナスはヘイリーを救うために特殊な能力を披露し、それは地上にいたトラック運転手がヘイリーがトラックに乗り込んだことでトラックを全速力で飛ばすように、「改造」されなくても男たちの「原動力」にはなっているのである。
 ストーリーが面白いかどうかは微妙なところではあるが、低予算のSF作品はだいたいこんな感じだと思う。


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『駆込み女と駆出し男』

2015-05-26 00:00:16 | goo映画レビュー

原題:『駆込み女と駆出し男』
監督:原田眞人
脚本:原田眞人
撮影:柴主高秀
出演:大泉洋/戸田恵梨香/満島ひかり/山崎努/堤真一/内山理名/樹木希林
2015年/日本

 作品をつまらなくしてしまう思い込みについて

 『真夜中のゆりかご』(スサンネ・ビア監督 2014年)同様に本作に関しても個人的に誤解があって期待はずれだった。幕府公認の縁切寺である鎌倉の東慶寺へ、離縁を望む妻たちが駆け込む際に起こる夫たちとの駆け引きが描かれるのかと思っていたが、お吟とじょごは意外と簡単に東慶寺へ駆けこんでしまい、そこで一旦スリルとサスペンスが終わってしまう。だから作品後半で戸賀崎ゆうの父親を殺した夫の田の中勘助が寺に押し入って妻を取り戻そうとした時のじょごとの大立ち回りが始まるまでの作品中盤のエピソードが退屈に感じてしまったのである。


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『真夜中のゆりかご』

2015-05-25 00:58:21 | goo映画レビュー

原題:『En chance til』 英題:『A Second Chance』
監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トーマス・イエンセン
撮影:マイケル・キース・スナイマン
出演:ニコライ・コスター=ワルドー/マリア・ボネヴィー/ウルリク・トムセン
2014年/デンマーク

十分に描かれない「セカンドチャンス」について 

 予告編を観て楽しみにしていた作品だったが、サスペンスドラマとしては思ったよりストーリーの盛り上がりに欠けていた。主人公で刑事のアンドレアスと妻のアナが彼女の両親と不仲である原因が描かれていないことが大きいと思うが、なによりも自分の急死した赤ん坊のアレクサンダーとトリスタンとサネの夫婦にネグレクトされていた赤ん坊のソーフスをアンドレアスが密かに取り換えた後、すぐにアナが橋から飛び降り自殺をしてしまい、原題の「セカンドチャンス」が消化不良で彼女の葛藤が伝わってこないことも小さくないと思う。
 ラストで転職したアンドレアスが働いているホームセンターでサネを見かけてうろついているところを、かつて赤ん坊だったソーフスが「道に迷ったの?」と問いかける。その問いにアンドレアスはなかなか答えられないのであるが、もちろんその「道」には「人生の」がかかっており、迷わされた本人に訊ねられたからであろう。


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『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』

2015-05-24 01:25:37 | goo映画レビュー

原題:『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』
監督:FROGMAN
脚本:FROGMAN
出演:犬山イヌコ/FROGMAN/上野アサ/澪乃せいら/村井國夫/金田朋子/瀧本美織
2015年/日本

「FLASH」の得意分野について

 『天才バカボン』とフラッシュアニメーションの相性が想像していた以上に良かった。お日様を西から昇らせようとしていたバカボンのパパの初志がクライマックスにおいて貫徹された理由は、村人たちの無理解を恨みに思い地獄に落ちていた『フランダースの犬』の主人公のネロが、飼っていたパトラッシュと共に悪魔と化して人類を襲撃しようとしても、「これでいいのだ」と言いながら彼らを赦すバカボンのパパの寛容な心によるものだったのであろうが、あれが果たして本当にお日様かどうだったかは微妙で、実は天使たちの後光が集まってお日様に見えたのかもしれない。
 しかしこのような抒情性を細密な描写で描くことを本作に期待しても仕方がない。フラッシュアニメーションはあくまでもギャグを映えらせるためのツールでしかないからであるが、『フランダースの犬』の有名なラストシーンを子供ながら「きれいごと」だと感じていた人たちはこれでようやく気分が晴れるであろう。


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『ホーンズ 容疑者と告白の角』

2015-05-23 00:21:29 | goo映画レビュー

原題:『Horns』
監督:アレクサンドル・アジャ
脚本:ジョー・ヒル/キース・ブーニン
撮影:フレデリック・エルムス
出演:ダニエル・ラドクリフ/ジュノー・テンプル/マックス・ミンゲラ/ジョー・アンダーソン
2013年/アメリカ・カナダ

 ヒーローになり損ねた恋人たちが頼る曲について

 ポスターに写っているダニエル・ラドクリフの、どこかとぼけたデビルの容姿に騙されたのかもしれない。あるいは彼が演じた主人公のイグ・ベリッシュの頭から角が生えてから彼に関わる人物が次々と本性を露わにするストーリー前半の流れがどことなくコミカルだったことも関係するのかもしれないが、ストーリーの後半あたりからだんだんと話が重くなって、ラストはゴリゴリのホラー映画になってしまい、本作をどのように楽しめばいいのか分からなくなってしまった。
 それにしても一昨年の『ウォールフラワー』(スティーヴン・シュボースキー監督 2012年)、去年の『ローン・サバイバー』(ピーター・バーグ監督 2013年)、そして今年の本作と3年連続してデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ("Heroes")」が使用された映画を観ることになるとは想像していなかった。しかし本作はイグが途中で回転していたターンテーブル上のレコードを止めてしまうようにイグと彼の恋人のメリン・ウィリアムズが「英雄」になり損ねた物語である。だから「ヒーローズ」よりもラストで流れるカナダのロックバンドのサンセット・ラブダウン(Sunset Rubdown)の「Shut Up I Am Dreaming Of Places Where Lovers Have Wings」の方が心を打つと思う。メジャーな曲により語られようとした「理想的な恋人同士(=ヒーローズ)」の物語が失敗した後(デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」のモデルは当時のボウイのプロデューサーだったトニー・ヴィスコンティ(Tony Visconti)と当時バッキングボーカルを務めていたアントニア・マース(Antonia Maass)であるとヴィスコンティ自身が英国BBC2が制作したドキュメンタリー映画『David Bowie - Five Years - The Making of an Icon in 2013』で語っている)、テーマは変えずに「宅録」の曲により小さな物語として語ろうと試みることが心にしみるのである。以下、和訳。

「Shut Up I Am Dreaming Of Places Where Lovers Have Wings」日本語訳

君は遠い岸辺にいる
いずれにしても海が僕たちの話を聞くことはありえない
もしも僕が海に飛び込んだら
沈む前に僕は君の名前を呼ぶよ

彼は誰もいないミニチュアの部屋の中で
君の名前を大声で叫んでいる
それは絶望的な響きだ
君は遠い岸辺にいるから
彼は地団駄を踏んでいる
彼が拳で君のドアを叩いている音が君には聞こえているのか
彼は君にデッサンを贈りたいんだ
信義の厚い手をした男たちのデッサンだ
描くことであんな良い友達を作れるんだ
彼は君に話をしたいんだ
足を踏み鳴らしながら
「静かにして! 僕は恋人たちが翼を持っている場所の夢を見ているんだ」と
言う少年たちの話を

僕は川が分岐する場所で君と会うよ
他のみんなが死んでも
水の上の君は無事なはずだ
僕たちは思い出せるよりもずっと若いはず
君は遠い岸辺にいる
僕は地団駄を踏んでいる
君のドアを叩く拳の音が君には聞こえているのか
僕が何のために釘づけにしているのか君には分かっているの?
いずれにしても海が僕たちの話を聞くことはありえない
もしも僕が海に飛び込んだら
沈む前に僕は君の名前を呼ぶよ
いずれにしても海が僕たちの話を聞くことはありえない

僕は水が怖い
僕は空が怖い
僕は待つことにうんざりだ
いずれにしても海が僕たちの話を聞くことはありえない
もしも僕が海に飛び込んだら
沈む前に僕は君の名前を呼ぶよ
いずれにしても海が僕たちの話を聞くことはありえない
だから音をたてないで
音をたてないで


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『狩人の夜』

2015-05-22 00:06:18 | goo映画レビュー

原題:『The Night of the Hunter』
監督:チャールズ・ロートン
脚本:ジェームズ・エイジー
撮影:スタンリー・コルテス
出演:ロバート・ミッチャム/ビリー・チャピン/サリー・ジェーン・ブルース/リリアン・ギッシュ
1955年/アメリカ

『狩人の夜』が描いてしまった信者の「闇」について

 リリアン・ギッシュが演じるレイチェル・クーパーはバイブルを子供たちに読み聞かせるクリスチャンではあるが、彼女は決して「原理主義者」ではなく、例えば、思春期のルビーの気持ちを察することが出来るし、作品冒頭でジョン・ハーパーが店に飾られていた時計を欲しそうに見つめていたことを知っていたかのようにジョンに懐中時計をプレゼントする。クーパーは聖書の言葉よりも、彼女が聖書を読もうとした時に外に出てしまい、最初に実の父親のベンが警察に捕えられた光景と同じ光景を見るように連続女性殺人鬼のハリー・パウエルが警察に捕まった際に、それまで頑なに守っていた父親との誓いを破ってでも隠し持っていたお金を差し出して止めるように求めるジョンの純粋な魂の方を信じているのである。
 ところでどうもタイトルが気になるのであるが、冒頭で流れるウォルター・シューマン作の賛美歌は以下のようなものである。

Dream little one, dream
(夢を見ろ、幼き者よ、夢を見ろ)
Dream my little one, dream
(夢を見ろ、我が子よ、夢を見ろ)
Though the hunter in the night
(闇の中で狩人は)
Fills your childish heart with fright
(君の幼い心を恐怖で満たすけれど)
Fear is only a dream
(畏敬の念は夢だけなのだから)
So dream little one, dream
(夢を見ろ、幼き者よ、夢を見ろ)

 本来ならばタイトルは「夜の狩人(the hunter in the night)」とされるべきなのであるが、「狩人の夜」となっているのは、問題としたいのは「狩人」ではなく「闇」の方だからであろう。もう一つ気になることは「畏敬の念は夢だけ(Fear is only a dream)」というフレーズで、まるで信心とは現実には存在しないような言い分である。連続女性殺人鬼が牧師(preacher)を名乗っているところも、あるいはこの25人の女性を殺害した女性嫌悪者(misogyny)が逮捕された後にスプーン夫妻たちが群衆をなしてパウエルを集団リンチに処そうとするところなど、キリスト教信者にとっては見たくない自分たちの「闇」の光景が映されている本作が興行的に失敗するのは仕方がないのかもしれない。


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