産まれて間もない頃から小学生半ばまでに、俺は親父の転勤により7回もの引越しをした。
実に1年半に1回引っ越した事になる。
オフクロは手先が器用で、どんな物に対しても創意工夫で乗り切る人であった。マナーに異常なほどに煩く、勉強に対しても度を越して厳しく、またかなり短気な性格であった。今で言う「虐待」ではないと考えているが、俺はかなり小さな頃から体罰を含めてメチャクチャに厳しく育てられてきたと記憶している。
俺自身も平均的な父親からすると子供に対してかなり厳しい部類に入ると思うが、俺のオフクロはその比ではなかった。
また、オフクロによく言われた言葉の筆頭角が「男だったら○○しろ」というセリフである。何万回聞かされたのかも分からないこのクダリは完全に俺を洗脳してしまい、今でも俺が決断を迫られるような場面では最も優先的な判断基準にしているものである。
その他でも音楽や美術好き、工作好き、読書好きは間違いなくオフクロから受け継いだ財産である。
対する親父はかなり存在感の無い人間で、趣味も取り得もなく、何をやらせても不器用な人。行動力や決断力も無かったな。
酒を呑む事しか楽しみも無く、俺が物心付いた頃から酒の上の失敗が多かった。
当然夫婦仲が良かった筈もなく、複雑な環境とまでは言えないものの、決して恵まれた環境で育っていた訳ではなかったと思う。
そのせいにはしたくはないが、小学校に上がる頃には俺はちょくちょく問題を起こすようになってしまっていた。今現在それほど足を踏み外してはおらず、堅気の商売に従事しているのは、引越しをする度に子供ながらに悔い改める部分があったからではないだろうかと省みている。
これは父親を情けなく思うと同時に(笑)、感謝する部分でもある。
さて。
俺が小学校5年生の時、2才上の姉貴が発生確率の低い重病に罹り、長期入院することになってしまった。
オフクロは付き添いで家にいない事が多くなり、また経済的な事情もあったのだろう、パートに出るようになった。
一方の親父は相変わらず酒ばかり呑む生活。某高級電機機器メーカー(・・・というよりブランドと表現した方がよいか)に勤めていたのだが、真空管からトランジスタなどの半導体に世代交代の真っ最中の時代である。ライバルメーカーから価格が安くて高品質な製品がリリースされ始めて、マニアや金持ち向けの製品ばかりをラインナップしていた会社の業績には、翳りが出始めていたように思う。
俺はというと鍵っ子になってしまったわけで、それまで何とかギリギリ保っていた心のバランスが、この頃に崩れ始めてしまっていたような気がする。
余談だが、俺は元々テレビをほとんど見させてもらえなかったのだが、この頃に留守番をする際に、かなりの時間をテレビを見て過ごしていた。宇宙戦艦ヤマト(この時は再放送)やらロボット系アニメ(マジンガーシリーズやトライダーG7、鋼鉄ジーグなど・・・実はガンダムはほとんど見ていないので今でも知らない)、変身ヒーロー物が好きなのは、恐らくこの時の影響である。
こんな多感な時期に放置されてしまったわけで、俺はまた色々と問題を起こすようになってしまった。
両親はこれをさすがにマズイと思ったのだろう、俺が欲しがる物(自転車や天体望遠鏡、ローラースケートやマンガなど)を買ってくれたりした。
また、親父が休日に遊びに連れて行ってくれるようになったのである。
ある時、俺は親父が勤める会社の慰安会に連れて行ってもらった。とある施設でバーベキューをしたのだが、この時に俺は、度肝を抜くものを見た。
親父の同僚の人が2歳半くらいの男の子を連れてきており、何とその二人はペアルックだったのだ。
ジーパンにジーンズのベスト、赤いチェックのシャツ。
「何でそんなことで度肝を抜くんだよ」と鼻で笑う人もいるかもしれない。しかしその時の俺には、親父、あるいはオフクロとペアルックを着るなどという概念そのものが無かったのだ。
両親にはもっと構って欲しかったのだと思う。
俺は親父のカメラを借りてその親子の写真を撮った。今でもアルバムにはその写真が残っている。
さてさて、その後も若干足を踏み外しそうになりながらも(笑)なんとか社会人となり、問題児だった俺も今では3人の子供の親となった。
男の子が欲しいと拘ったのも、5年生の時に撮ったその写真が原点だったのかもしれない。
そして俺はようやく、一つの夢を叶えた。
長男の正吉君とペアルックである。
(写真は、10月2日にダウンヒルダービーに出場したときのもの)
彼には、俺が持つ全てを手渡したい。
もう少し大きくなったら、拒否されるかもしれないな(笑)。
ちなみに親父、オフクロ共に故人である。亡くなって久しい。
もちろん、生前に抱いていた蟠りは、両人の命と引き換えに消え去っている。
重病で長期入院した姉貴はその後、医療の道に進み、今でも家庭と仕事を両立させている。
俺はこれをとても誇りにしているのだ。