書こうか書くまいか。テーマとして取り上げることに、これほど迷ったことはない。
いつかどこかで、父親として・舅としての気持ちを正式に二人に伝えたい。
しかし、私的な思いを公開するのは如何なものか・・・。かれこれ1年近く胸の中で揺れた。
この正月届いた一枚の賀状。敢えてこの気持ちを形として残す勇気をもらった思いがする。
『今年も多くの年賀状を頂いた。その中に確かに見覚えのある筆跡、下の名前も頭にこびりついている女性からの1枚があった。
「昨年は色々ご迷惑、ご心配をおかけしました。新しい職場で働いており体調も良好・・・」と、近況が記されている。
昨年までは、倅との連名で届いた年賀状。名字は我が家のものだった。
今年は名字が変わっている。隣に倅の名前もない。
6年間の結婚生活。共働きの利を活かして二人名義でマンションも買った。子どもこそ出来なかったが、順調でリッチな生活ぶりに親としては安心していた。
それまで不穏な兆候もなく夫婦の間にすきま風が吹いていようとは思いもしなかった。
我々には遠く及ばない、二人にしか分からぬ理由があったのだろう。
昨年初め、お互い大人の感覚で円満な離婚に調印した。
確かな家庭で育てられ、看護師として嘱望された彼女。その聡明さ、利発さは舅の私からみても好ましいものだっただけに、残念に思う。
彼女の助けを求める声や、倅の気持ちの揺れをもっと早く感じ取ってやれなかったか。
親としての不甲斐なさに悶々とした一年を過ごした。
彼女から新しい住所を記した年賀状をもらって、やっと少し胸のつかえが取れた。
次は、彼女からも、倅からも、新たな幸せが訪れたとの報告を受けたい。
人生いつだってやり直しは出来るのだから。』
2011.1.14 毎日新聞 「男の気持ち」 掲載