ご飯を冷やす 寿司桶に重ねる 6段重ね出来上がり。およそ60人分
いよいよ!!とは言っても桜の開花には少し間がある。
ソメイヨシノより10日ばかり早く咲くはずの「淡墨(うすずみ)の桜」も今年に限ってはまだまだ固い小さなつぼみ。それでも一応予定通り実施される「淡墨の桜を愛でる会」に立ち会った。あいにくの寒の戻りに、春二番のような大風。寒いのなんの、花見どころではなかった。
“酒なくて なんのおのれが 桜かな”この句の通り、お酒などとは全く縁のない世界。ひたすらお花見食事会に出される岩国寿司、おおひら、三杯酢などに舌鼓を打つ。
お盆に盛られ、ワンセットとなって出てくれば「まあきれい!」「ワーおいしそう!」という感嘆の声が発せられる。季節の青物、紅粉、卵焼き千切りなどが程よく散りばめられている。確かにこの岩国寿司、見事な花が咲いたような美しさと気品がある。その上美味しい。お昼に出す寿司はその日の朝からご飯を仕込み、大人数で走りながらの作業となる。そこはさながら女の戦場。男は遠慮気味に遠くから眺める。
そうはいっても男手が要らないわけではない。まあなければ無くても出来るが、あるのなら使おうか、ということで声がかかる。60×45センチの寿司桶という四角い枠に、青々としたハスの葉を仕切りに6段重ね。びっしり詰め込んだ寿司ご飯を押さえて締めるのが男の役割。先ずは重石を乗せる。30分後には「ハイ、上がって上がって」とせきたてられる。重石をのけて、身体ごと寿司枠のフタの上に乗って全体重をかける。
あのフーテンの寅さんを思い出す。♪目方で男が売れるなら、こんな苦労もあるまいに……♪この時ばかりは、文字通り目方で男の値打ちが計られる。ものの3分立っていて、降りたらこれからがひと仕事。今一度フタに片足を置いて腰を落とす。踏ん張りながら対角線に寿司枠を少しずつ少しずつ引き上げて抜いて行く。
という具合に、花が咲いたような見栄えや、舌鼓を打たせる美味しい出来たてのお花見食事会の舞台裏では、このような汗と女の闘いが繰り広げられているのだ。
綿密にして周到な準備を整える。貯め込んだノウハウや経験を一気にお披露目する。なんかしら身につまされる光景を目の当たりにしながら、重石役をし、寿司枠を抜いた。
そんな自分にもやっと一つ花が咲くのかな。4月、いよいよ!!
味がいいのか悪いのか、手に取った人の判断に任せるしかない。
70歳古稀の記念。舞台裏での玉の汗が春風とどのようなマッチングを見せるのやら。