畑に吹く風

 春の雪消えから、初雪が降るまで夫婦二人で自然豊かな山の畑へと通います。

連載44『早春の「鬼ヶ面」を歩く』(その2終り)

2015-11-12 19:25:49 | 山菜

 (トップから二番目は、リーダーの後ろに付けと命じたスベルべの言葉に従うスベルべママ)

 早春の「鬼ヶ面」を歩く』(その2終り)

一行九人の内、健脚の二人が常に遅れてしまう。遅れるには理由があったのだが、
その時は分からず、なんでペースを合わせられないのかと、腹立たしかった。
昼食に遅れたときは腹立たしさも頂点だった。共同の食料を背負っているのである。

 しかし「やー、ゴメンゴメン」と謝る先輩の愛敬に満ちた顔を見ると怒りも消えてしまうのだった。
守門岳でなくても「鬼ヶ面」の稜線にも素晴らしい雪庇が出来ていた。

 「浅草岳」と「鬼ヶ面」の間の稜線にたどり着くと、風上に当たる稜線は、ブッシュが顔を出している。
反対に風下は何メートルもの厚さの見事な雪庇になっているのだ。

 風を避け窪みで暖かい食事を、軽口を叩き合いながら食べる。これも山の楽しみの一つである。
太陽が頂点に達した守門岳を正面に見ながら、解け始めた雪の表面をざくざくと踏み下山した。
七時間あまりの楽しい登山だった。

 私は帰宅するまで、気取って赤いバンダナで頭をキリリと縛っていた。
それをほどいた私の顔を見て、妻と娘は吹き出した。

 鏡を見ると自分も吹き出した。額の真ん中で顔が見事に二色に分かれていたのである。
春の雪山の怖さで太陽と、雪の照り返し。上下からこんがりと焼き上げられるのだ。

 数日して、皮が剥け始めた顔でプリントした写真を、妻と一緒に仲間に届けた。
いつも遅れて歩いた先輩は、大きな写真を持って玄関に現れた。
私の写真などかすむ、見事な風景写真だった。その写真の稜線に、雪庇の上に必ず誰かが立っている。

 遅れて歩いた二人は、風景に人物を取り込むことに腐心していたのだ。
今まで写真展で何度も入賞している実力を見せつけられた。
次の訪問者のところに向かいつつ、ふと思った。妻に「この顔の皮が向け始めたと言うことは、
何も被らず歩いた先輩の薄くなった頭の運命は。」と言って顔を見合わせた。

 お邪魔してお茶を頂きながら、皆で大笑いした。先輩の頭もボロボロになり無残な姿になっていたのだ。

             (終り)
コメント (4)
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