(ヌクビ沢雪渓)
「チロ」と「巻機山ヌクビ沢」
平成二年に家を新築する前の事だから、随分古い話しになってしまった。
十回を越える「巻機山」登山の経験を過信して、家族四人で、
しかも当時飼っていた犬の「チロ」も同行して夏休みの終わりに「ヌクビ沢」コースを登ることに決めた。
「巻機山」には幾つものコースがあるが、縦走以外に尾根道コースをたどる登山者は少ない。
危険はともなっても、美しさとスリルを求め、沢登りを選ぶ登山者が多いのだ。
(紅葉の米子沢)
家族で登った「ヌクビ沢」の他にも「割引沢」や、あまりの事故、遭難の多さに入山禁止措置が取られた、
「米子沢」コースなども有る。
所属する山の会の会員が開拓したような「米子沢」は、先輩たちに導かれると、険しい滝も、
高巻きをせずに途中を横断して近道できるルートさえ有るのだった。
さて、その年は大量の降雪の名残が八月末になっても、ところどころに消えずに残っていた。
そして、一人の登山者に追い着くと、コース取りに迷っていたらしく、私たちの後ろに着いて登る事となった。
さて、大喜びで登り始めた「チロ」にも災難が待っていた。岩場では犬の足がかりとなるような窪みは少なく滑って、
足に大きな負担がかかり、爪先が擦り減ってしまった。
登り始めには勇ましくピンと上げて振っていた尻尾も次第に下へ向き始め、元気を失ってきた。
(巻機山の草つきで憩う)
雪渓を登る際に足跡を見ると点々と赤い血の跡が見え、「チロ」の足のけがに気付いた。
それからは妻と、二人の娘に私の荷物を分け、私はチロを肩に担いで登る事となった。
無事に山の上に到着すると、気持ちの良いのは人も犬も同じこと。
(チロ池塘の水を飲む)
足の怪我の痛さを忘れたかのように再び尻尾を元気よく立てて歩き始めた「チロ」だった。
「巻機山」の特徴でもある、地塘群の一つを前景にカメラのシャッターを切るとタイミング良く、
「チロ」が水を飲み始めたのも愛敬で記憶にとどまる一枚となった。
下山路に選んだ尾根道も、「チロ」の足の負担を考え、再び担いで下る事となる。
下の駐車場近くに着き、平坦な道で肩から下ろすと、一目散に自動車にまで走ったからよほど懲りたのだったろう。
その登山を無事に終えた数日後、私たちが登った「ヌクビ沢」コースで、
登山者が遭難転落死した事件が報じられ、複雑な思いをした。
「チロ」の事ばかり心配し、家族を事故に遭わせてしまっていたらと思うと背筋が凍る思いだったのだ。
夕方からの「松代カールベンクスハウス」で、会合『松之山の自然を食う会』に出席し、
二次会に松の山温泉に行き一泊してきます。土産のお話をお楽しみに。