林檎(その1)
その昔、昭和四十一年に国鉄に入社した頃には、この辺りの職員の年中行事があった。
春の千葉方面への潮干狩り。秋の長野方面への林檎の買出し。
そして冬の静岡への蜜柑の買出しである。
入社したばかりの秋、同じ線路班の先輩に林檎の買出しに誘われた。
ある日曜日、鈍行列車の乗り継ぎで長野へと向かった。
行き先のあてなど無い行き当たりばったりの行動である。
農家の軒先で交渉し、しばし後、交渉成立。先輩達はその駆け引きも、楽しみだったのかも知れない。
重い、リュックサックを担いで帰途についた。
数年後、同じ先輩が一人で出掛け、気に入った農家を見つけたと言う。
翌年の事と思うが今度は列車でなく中古のバンで一緒に出掛けた。
そして間もなく先輩は病を得、定年を待たずに亡くなってしまった。
それからは、私の家族のみが、その農家を毎年訪問する事になった。
家族構成が似ている事もあり、お互いがすっかり気に入ってしまったのだ。
(続く)