無水鍋(その2終わり)
私も購入を決心した。若い独身者の買い物に職場の人達は驚いたようだ。
昼休みの終わる頃までに五個ほどの鍋が売れた。
しかし、鍋の家庭での評価は芳しくないものが多かったそうだ。
「こんな高い鍋を買ってきてどうするの。あなたが料理してくれるのね」と叱られた先輩が最悪の結果。
寮住まいの私が、心配半ばの気持ちで休日に自宅に持ち帰ると、料理好き、
新し物好きの母は事のほか喜んでくれた。
それから三十数年。今もこの鍋は我が家では重宝されている。
鍋の底に小石を並べ、さつま芋を一杯に入れる。
そして弱火にかけること一時間ほどで、香り高い絶品の石焼イモになるのである。
他にも厚手の蓋は、クレープを焼いたり、薄焼き卵にも活躍する。
鉄火味噌用の炒り大豆。ピーナッツ味噌用のピーナッツ炒り。
ゆっくり火の回る鍋と、その蓋の厚さは今も旨い物をもたらせる。
鍋も使われ冥利に尽きたと言う事でしょうか。
私も投資の甲斐のあった、独身時代の気紛れの結果であった。
(終わり)