いつ来るか分からない 来ないかもしれないこの国の大地にとって致命的な大きな地揺れ
それに備える避難とは言え 住む家をましてや国を離れさせる説得には時間がかかる
説得する側の人間にも信じていない者が多いのだから・・・・・
だが・・・ここでソロクレスに剣を向けて敗北 逃亡した神官のエランドが不思議な動きを見せていた
魔女でもあった亡き母からアルストン王への恨みや呪いを吹き込まれ育ったエランド
彼の魂こそがその母の呪いにより歪められたといえよう
母の呪いが無ければ その臨終の恐ろしき願いが無ければ エランドは快活に真っ直ぐに育ったのであろうに
エランドの母親は自分を愛さなかった男を許さなかった
なまじ魔力が使えたことがエランドの母の生き方も歪めたと言えるかもしれない
人並み以上に美しかったのだから本当に自分を愛してくれる男の妻になれば良かったのだ
自分を愛さない男への執着は自分の人生ばかりか我が子エランドの生き方まで狂わせた
いつだってエランドの心は引き裂かれ血を流し続けている
尊敬する兄とその優しかった妃ルルディア
心の底では兄を愛し その家族とも仲良く暮らしていきたかったのに
母の幻影が遺した言葉がエランドを苦しめた
「お前は わたしを裏切るの?」
死してなお残る母の言葉 その声
ールルディアさえいなければ!あの女が王をアルストンを わたしの幸せを奪ったのよ!
どうか約束しておくれ この母の恨みを無念を
この思いを引き継ぎ 母の仇をとっておくれ
あの女の血を引く子供を ルルディアの子供達を殺しておくれ
そうしてお前が わたしの子供のお前こそがルルドスの王になるとー
神官として生きる道を選んだエランドは自分では王位など望んだことはない
おどろおどろしい母の呪いの血塗れの遺言を忘れ 心のままに生きようとしたけれど
髪ふり乱し手を己の血で染めた母が夢に現れる
「お前 お前 どうしてわたしを裏切る
殺せ!殺せ!殺してしまえ
母の望みを 母の願いを・・・」
毎夜 母の幻影に怯え兄とその妻を殺したことをエランドは恥じている
それでも夢に出てくる母は満足しない
ールルディアの子供達 何故生かしている 殺せ!殺せ!殺せ!-
冷や汗と共にエランドは目覚める
平和になったルルドス
ソロクレスは王としてよくやっている
それでいいではないか・・・
神官としてのエランドの祈りも母の魂には届かない
効果がない
母の呪いの念はエランドの身体を乗っ取り操る
どれだけエランドが心の底では静かに生きたいと願っていても 心の中で暴れる母親にエランドは勝てない
地揺れのことでもソロクレスの危惧は正しいとエランドは思っている
彼の素直な気持ちではソロクレスもディアネージュも可愛い
彼にとっては身内なのだ
家族といってもいい
この苦しみから逃れる為に無謀な攻撃をしソロクレスか城の兵に殺されようともしたが
エランドに心酔するダイレントがそうはさせなかった
ダイレントのエランドを信じる気持ちを その信仰を真実を告げることで打ち砕こうともしたのだがー
事実を知らないルルドスの人々は まだ信仰の対象としてエランドを見ている
神官としての自分はまだ使いようがある
エランドはソロクレスの言葉を信じず暮らす場所にとどまろうとする人々を訪ねては 取りあえず用心の為に船に乗り避難するよう説いていた
この国土を大きな災いが襲うと神が教えてくれたのだ
ルルドスの人々が暮らす場所に困らぬようオランプを神が遣わしてくれたのだと・・・
歩いて回るうちに足には豆ができ 皮が破れ血が滲む
その痛みすらエランドは心地よいものとしてとらえていた
ー神官でありながら自分の兄夫婦 そして他の人々の命も奪った罪深い自分
とうに神官の資格など喪っている
それでも「神官」としての自分がこの国の人々の命を救うのに少しでも役に立つのならば ならば・・・・・
生きていて母の恨みや呪いから逃れられず生き方を縛られる身であれば・・・・・
母の全ての呪いはこの身に引き受け我が身で終わらせるのだ
もっと早くにそうすべきであったのだ
人の死を願う者が王位に就いてはならないー
城には戻れず行き場所を失ったダイレントもエランドに付き従っていた
エランドの口からエランドのした事を聞いても ダイレントの中にある神官エランドへの信仰は完全には消えなかった
友としてのソロクレスやイリアッドを大切に思う気持ちよりも
いつしかダイレントの悩みを静かに聴いてくれるエランドを敬愛する念が勝っていた
ダイレントは自分が間違った方向へ進んでいることを認めたくなかったのかもしれないが