彼女の人生は諦めに満ちていた
小さな頃 家族から引き離されて都へ連れてこられた
もう両親の顔もいたはずの他のきょうだいの名前も覚えていない
自分の真の名前も虚ろだ
恐ろしい顔の女性は彼女に言った
「お前は わたしの死後 大女王(おおひめみこ)になるのだ
わたしに神の言葉が下りた 掌に星の痣ある娘が次の大女王と」
彼女が大女王としてのあれこれのしきたりを覚えた頃 その恐ろしい顔の女性は亡くなった
素顔でいられるのは暗い部屋の中だけ
その閉ざされた場所を出る時には全身に布をまとわなければならない
神の言葉を伝える者は人間に姿を見られてはいけないのだと
彼女の言葉はよく当たり 他国との戦いにも負けることはなくなる
他国はこの大女王を攫うか殺すか都から排除するてだてを取ろうとする
獰猛な一族の中に都に恨みを持つ若者がいた
命知らずな勇敢さを一族の長が愛でて 他国との戦いの時には必ず傍に置く
若者の名をタクルオと言う
一度 死にかけ今も背中に大きな傷がある
タクルオの家族が暮らすムラは不意の焼き討ちにあい皆殺しにされた
タクルオも斬られたが・・・死ななかった
生きのびたのだ
ムラにまだ煙が残る頃 ムラの近くを移動していた一族が血だらけのタクルオを見つけた
ただ一人の生き残り
その生命力の強さ
そこにその一族は目をかけた
期待裏切らずタクルオは強い戦士に育った
自分を育ててくれた一族が都との争いに勝つ為に タクルオは大女王を攫うか殺してくると長に申し出る
長はタクルオが都に恨み持つ事を知っていた
「みんな殺された 幼い妹の死体は見つけられなかったが
いつか俺は復讐する
都を滅ぼす為ならどんなことでもやる!」
大女王の暮らす一角は厳重な警戒が為されている
しかしどんな守りにも隙はあるものだ
大女王の居る部屋に見当つけたタクルオは屋根から忍び込んだ
部屋の中では布をまとわず そのままの素顔の大女王
「お前が大女王か」
その若さに驚くタクルオ
大女王は答えない
「喋れないのではなかろう なんとか言え!」
低い声ながらタクルオの言葉が厳しくなる
困惑した様子の大女王は傍らに置いた薄布を被り やっと答えた
「じかに男と口をきいてはならぬという決まりがあるのです」
「御大層な!」タクルオは吐き捨てる
「決まりを破れば 力が失われるとでもいうのか」
ぐいっと大女王の手首をとらえ引っ張る
開かれた掌を見てタクルオはまさかと自分の目を疑うような表情になった
十字の星にも見えるこの痣はー
「お前 お前 名を何と言う」
かくかくと震えながら大女王は首を振る「思い出せませぬ ずうっと小さな頃に家族と引き離されて・・・
ここへ来てからは名前を呼ばれることもありませんでした」
タクルオは大女王とは反対の手の掌を見せた
そこに同じ痣がある
「妹には反対の手に同じ痣があった」とタクルオ
「では都の奴等はお前を奪う為にムラを焼き皆殺しにしたのか!」
大女王に子供の頃の忘れていた記憶がよみがえってくる
「わたしは・・・わたしはアユナと呼ばれていた お兄ちゃんがいた お兄ちゃんがいた お姉ちゃんも」
「ああ・・・綺麗な優しい姉さんだった 都の男達は姉さんをさらっていって殺す前にひどいことをした
俺は守れなかった この背中を深く斬られて・・・動けず
その俺の見ている前で奴らは姉さんをー」
「ムラの人はみんな死んだの」
「ああ・・・殺された 生き残りは俺とお前だけだ」
なんてこった なんてことだータクルオは心の中で叫ぶ
妹が大女王
暮らす一族のもとへ連れてはいけない
彼等にとって妹は敵の大女王 酷い目にあわされる
かと言って命を助け育ててくれた一族は裏切れない
ーなんだ 簡単だ
俺が死ねばいいんだ
できるだけ都の男達を殺して
地獄への道連れにして僅かばかりの復讐にしよう
そうすれば一族への義理も立つ
都へ潜り込んだ人間として何処かでわざと見つかって斬り死にすればいいー
「さようなら 我が妹アユナよ」
タクルオは微笑んだ
そこにはアユナが僅かに覚えている優しい兄の面影があった
「お兄ちゃん!」不吉な予感にアユナが叫んだ時 もうそこにタクルオの姿は無かった
暫くして騒ぎが聞こえてくる
タクルオは斬って斬って斬りまくって都の男達を殺して殺して・・・最後は幾本もの火矢を射込まれて燃えて・・・焼け死んだ
アユナは泣いて泣いて それでも諦めて大女王として生き続けた
そうして重い病気となり 力持つ娘が影巫女として連れてこられた
その娘ミユラの心を込めた看病で ミユラの持つ癒しの力で大女王は快復した
ミユラには自分と同じ思いをさせまいと 望みをいれてムラへ帰ることを許したのに・・・・
都の男達はそれを許さず ミユラを騙して殺した
慚愧の念がアユナを責める
護りきれなかった娘ミユラ
大女王には都の人々を護り都が栄えるべく支える義務がある
しかしここに至ってアユナはもう大女王であることをやめることにした
やめようとしても許されまい
ならばーと彼女は生き続けることをやめた
毒をあおったのだ
燃えて黒い焼け焦げ死体となったタクルオの魂は大きな黒い鴉となって都に居たが
鴉となって妹を護っていたがー
その妹が死んだ時に その大きな羽根で炎を煽り大きな火事を起こした
大女王が死ぬ時 大きな災いが都を襲うという言い伝えは現実のものとなった
都は滅び・・・
黒い大きな鴉は不吉だという言い伝えが残ることとなる
その羽は死神の訪れる予兆だと
鴉の羽を見つけたら用心なさいと
小さな頃 家族から引き離されて都へ連れてこられた
もう両親の顔もいたはずの他のきょうだいの名前も覚えていない
自分の真の名前も虚ろだ
恐ろしい顔の女性は彼女に言った
「お前は わたしの死後 大女王(おおひめみこ)になるのだ
わたしに神の言葉が下りた 掌に星の痣ある娘が次の大女王と」
彼女が大女王としてのあれこれのしきたりを覚えた頃 その恐ろしい顔の女性は亡くなった
素顔でいられるのは暗い部屋の中だけ
その閉ざされた場所を出る時には全身に布をまとわなければならない
神の言葉を伝える者は人間に姿を見られてはいけないのだと
彼女の言葉はよく当たり 他国との戦いにも負けることはなくなる
他国はこの大女王を攫うか殺すか都から排除するてだてを取ろうとする
獰猛な一族の中に都に恨みを持つ若者がいた
命知らずな勇敢さを一族の長が愛でて 他国との戦いの時には必ず傍に置く
若者の名をタクルオと言う
一度 死にかけ今も背中に大きな傷がある
タクルオの家族が暮らすムラは不意の焼き討ちにあい皆殺しにされた
タクルオも斬られたが・・・死ななかった
生きのびたのだ
ムラにまだ煙が残る頃 ムラの近くを移動していた一族が血だらけのタクルオを見つけた
ただ一人の生き残り
その生命力の強さ
そこにその一族は目をかけた
期待裏切らずタクルオは強い戦士に育った
自分を育ててくれた一族が都との争いに勝つ為に タクルオは大女王を攫うか殺してくると長に申し出る
長はタクルオが都に恨み持つ事を知っていた
「みんな殺された 幼い妹の死体は見つけられなかったが
いつか俺は復讐する
都を滅ぼす為ならどんなことでもやる!」
大女王の暮らす一角は厳重な警戒が為されている
しかしどんな守りにも隙はあるものだ
大女王の居る部屋に見当つけたタクルオは屋根から忍び込んだ
部屋の中では布をまとわず そのままの素顔の大女王
「お前が大女王か」
その若さに驚くタクルオ
大女王は答えない
「喋れないのではなかろう なんとか言え!」
低い声ながらタクルオの言葉が厳しくなる
困惑した様子の大女王は傍らに置いた薄布を被り やっと答えた
「じかに男と口をきいてはならぬという決まりがあるのです」
「御大層な!」タクルオは吐き捨てる
「決まりを破れば 力が失われるとでもいうのか」
ぐいっと大女王の手首をとらえ引っ張る
開かれた掌を見てタクルオはまさかと自分の目を疑うような表情になった
十字の星にも見えるこの痣はー
「お前 お前 名を何と言う」
かくかくと震えながら大女王は首を振る「思い出せませぬ ずうっと小さな頃に家族と引き離されて・・・
ここへ来てからは名前を呼ばれることもありませんでした」
タクルオは大女王とは反対の手の掌を見せた
そこに同じ痣がある
「妹には反対の手に同じ痣があった」とタクルオ
「では都の奴等はお前を奪う為にムラを焼き皆殺しにしたのか!」
大女王に子供の頃の忘れていた記憶がよみがえってくる
「わたしは・・・わたしはアユナと呼ばれていた お兄ちゃんがいた お兄ちゃんがいた お姉ちゃんも」
「ああ・・・綺麗な優しい姉さんだった 都の男達は姉さんをさらっていって殺す前にひどいことをした
俺は守れなかった この背中を深く斬られて・・・動けず
その俺の見ている前で奴らは姉さんをー」
「ムラの人はみんな死んだの」
「ああ・・・殺された 生き残りは俺とお前だけだ」
なんてこった なんてことだータクルオは心の中で叫ぶ
妹が大女王
暮らす一族のもとへ連れてはいけない
彼等にとって妹は敵の大女王 酷い目にあわされる
かと言って命を助け育ててくれた一族は裏切れない
ーなんだ 簡単だ
俺が死ねばいいんだ
できるだけ都の男達を殺して
地獄への道連れにして僅かばかりの復讐にしよう
そうすれば一族への義理も立つ
都へ潜り込んだ人間として何処かでわざと見つかって斬り死にすればいいー
「さようなら 我が妹アユナよ」
タクルオは微笑んだ
そこにはアユナが僅かに覚えている優しい兄の面影があった
「お兄ちゃん!」不吉な予感にアユナが叫んだ時 もうそこにタクルオの姿は無かった
暫くして騒ぎが聞こえてくる
タクルオは斬って斬って斬りまくって都の男達を殺して殺して・・・最後は幾本もの火矢を射込まれて燃えて・・・焼け死んだ
アユナは泣いて泣いて それでも諦めて大女王として生き続けた
そうして重い病気となり 力持つ娘が影巫女として連れてこられた
その娘ミユラの心を込めた看病で ミユラの持つ癒しの力で大女王は快復した
ミユラには自分と同じ思いをさせまいと 望みをいれてムラへ帰ることを許したのに・・・・
都の男達はそれを許さず ミユラを騙して殺した
慚愧の念がアユナを責める
護りきれなかった娘ミユラ
大女王には都の人々を護り都が栄えるべく支える義務がある
しかしここに至ってアユナはもう大女王であることをやめることにした
やめようとしても許されまい
ならばーと彼女は生き続けることをやめた
毒をあおったのだ
燃えて黒い焼け焦げ死体となったタクルオの魂は大きな黒い鴉となって都に居たが
鴉となって妹を護っていたがー
その妹が死んだ時に その大きな羽根で炎を煽り大きな火事を起こした
大女王が死ぬ時 大きな災いが都を襲うという言い伝えは現実のものとなった
都は滅び・・・
黒い大きな鴉は不吉だという言い伝えが残ることとなる
その羽は死神の訪れる予兆だと
鴉の羽を見つけたら用心なさいと