ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「僕らの青春 下町高校野球部物語」(半村良著; 河出書房新社)を読んで

2025-01-09 21:02:23 | 草木花

半村良という小説家がいた。

1975年には、直木賞を受賞しているのだが、授賞対象となったのは『雨やどり』という人情小説であった。

私は、その辺のことはよく知らず、半村良氏は、SF作家だと思っていた。

学生時代には、氏の「妖星伝」を文庫本で発行されるたびに買って読んでいた。

50年近く前になってしまうので、どんな話でどんなところが面白かったのか、今はまったく覚えていない。

ただ、その「妖星伝」がラストまで読まないで終わったことだけは覚えている。

なんでも、完結編が発行直前で中止されたのだったという。

先日調べたら、中止の15年後の1995に完結編が出されていたのだという。

かといって、話を何も覚えていないのだから、今さら完結編を読んでもピンとこないだろうなあ。

 

その半村良氏の単行本を図書館で見つけた。

その書名が「僕らの青春 下町高校野球部物語」という。

河出書房新社からの出版だったが、その出版日が2010年6月30日となっていた。

あれ?

半村良氏は、2002年に亡くなっている。

それなのにそれから8年もたって、著者が亡くなっているのに本書が出版されているのは何か分からないけど、わけがあったのだろうな。

さらに、巻末を見ると、

初出=「東京中日スポーツ」1978年4月3日~9月30日

となっていて、驚いた。

私が「妖星伝」を読んでいた頃とだいたい同じではないだろうか。

そんな連載をしていたことなんか知らなかったよ。

 

本書には、「伝奇、SF,人情小説などで知られる作家が時代へのメッセージとして書き残した青春小説」と紹介があった。

半村良の青春小説なんて、私の知らなかった世界だ。

ということで、借りて読んでみた。

 

舞台は、東京の公立の超進学校。

部活などにはまったく力を入れずに、勉強、勉強の学校生活。

それなのに、野球の天才が9人そろっていることが分かる。

進学のための、将来エリートになるためだけの今だったが、今じゃないとできないことをしたくなった彼らが、1試合だけやって強豪校を倒そうと企画する。

「将来のためじゃない、今を生きてるんだ」という言葉はいいなあ。

…野球という居場所を見つけて、生き生きとプレイしている姿はとてもよかった。

特に、マネージャーを務める「ダッシュ」と呼ばれる男子が主役級の存在なのだが、活動を重ねるごとにたくましく成長していくのがいい。

 

また、勉強一辺倒だと思っていた高校の先生や登場人物の親たちも、自分の意志を貫こうとする球児たちの言動に、反対していたのが後押しするようになっていくのも楽しい。

ただ、1試合だけのはずが、結局甲子園大会の予選に出て、簡単に勝ち進んでしまうのは、ちょっとね…。

 

1978年は、まだこのような時代だったのだなあ、と自分の学生時代を思い返していた。

私の高校時代と3,4年くらいしか離れていないから、勉強だけの高校生活なんてまっぴらだと私も思った。

私も、高校1年の今ごろになって、卓球部に入部したのだった。

中学校では文化部に所属しながら、ほぼ帰宅部だった私。

高校1年の3学期になって、このまま大人になりたくない、と思った。

そこで、好きだった卓球をしようと、初めて運動部に入ることを決めたのだった。

自分にとっては、大決心だった。

その大決心があったから、人生が変わったと言えるのだ。

「将来のためじゃない、今を生きてるんだ」

と本書の登場人物は言っているけれど、

あの頃の私も、

「将来のためじゃない、今は2度とないんだ」

と思って、高1の3学期に決心したのだったなあ。

 

勉強第一で部活に消極的な高校で、野球の対外試合を目指す物語。

本書は、半村良の名につられて借りたのだったが、読み進むうちに、自分の高校時代のターニングポイントを思い出させる働きをしたのだった。

そう言う意味で、自分にとってよい本を借りたと言えるのかもしれないな。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする