毎日新聞社説
安保転換を問う・これからの日中
2015/6/1 4:00
http://mainichi.jp/opinion/news/20150601k0000m070115000c.html
◇長期的な視野で議論を
安倍晋三首相が安全保障政策を転換しようとする最大の理由は中国の台頭とみられる。アジア・太平洋地域のパワーバランスの変化も中国の経済、軍事大国化によるところが大きい。日本、アジアの平和と繁栄を維持することが安全保障関連法案の目的なら、長期的視野に立った対中戦略についても論議すべきだ。当面、中国の動きを抑止することができるとしても将来的に機能するのか。抑止力強化が相手の疑心を高めて軍拡競争に結びつくジレンマに陥ることはないか。それを防ぐために中国との信頼醸成をどう進めるのか。現実的な論議が必要だ。
この指摘は、日米軍事同盟容認の毎日特有の、というか、日本の思想状況を反映しています。中国の経済、軍事大国化の要因は中国側だけの問題でないことは明らかです。毎日の指摘をよくよく読めば、「軍事抑止力」論としての装置である日米軍事同盟の破たんは、明らかです。しかし、毎日が、この軍事抑止力論を放棄したか、と言えば、それはしていません!以下示しています!
◇ジレンマをどう防ぐ
中国は1990年代以降、国防費を急増させてきた。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によれば、昨年の中国の国防費は2160億ドル(約26兆円)に達し、米国に次ぐ世界第2位。日本の防衛費の約5倍だ。
「日本の防衛費の約5倍」という指摘には重大なトリックがあります。人口比、GDP比でみていないことです。また日米合同の軍事力と言う視点、更に言えば、韓国やオーストラリアを含めた、いわゆる安倍式「対中包囲網」作戦の「軍事抑止力」という視点から視ていないことです。ここに、日本国民をミスリードする重大な過ちがあります。
2012年の尖閣諸島「国有化」以降、日本の領海や接続水域への中国公船の立ち入りが恒常化し、13年には東シナ海に一方的に防空識別圏を設定した。自衛隊や米軍に対する中国軍の挑発的な行動も目立つ。日米安保の強化で中国の膨張に対応しようとすることは理解できる。
2012年の尖閣諸島「国有化」以前はどうだったか、全くスルーしています!産経ばりの主客転倒・本末転倒主義があります。あまりに一方的な視点は、国民を、そして中国国民をミスリードさせていくことになるでしょう。このことは日露戦争や満州事変以後のメディアの犯した過ちを教訓化する必要があります。
中国はイラク戦争以降、先進的兵器の導入を進めてきたが、軍事面ではなお、米国の力が圧倒的だ。日米の協調が中国軍の冒険主義的な行動を抑止する効果はあるだろう。だが、中国が日米安保強化を理由に一層の軍備拡張に動く恐れもある。
「軍事面ではなお、米国の力が圧倒的だ」からこそ、中国から視れば、日米の「強調」は「脅威」となる!のです。だからこそ、「中国の膨張」と「挑発的な行動も目立つ」ということになるのです。このことそのものが「軍事抑止力」論の破たんを浮き彫りにしています。それは、もはや、「恐れ」ではなく、「事実」の問題なのです。この思想からの脱却こそ、「ジレンマ」から脱却していくことになるのです。
中国が最近、発表した国防白書はアジア・太平洋に軸足を移す米国のリバランス(再均衡)政策に加え、「日本が戦後体制からの脱却を積極的に推し進め、安全保障政策を大幅に調整している」と指摘し、日本の進む方向への「強い関心」を示した。
この「関心」が何を示しているか、毎日は指摘していません!ここにも、日本を「被害者」「受け身」の側におくというトリックがあります。安倍政権の軍国主義復活への野望こそ、「戦後体制からの脱却」を意味していることは、明らかです。しかも、中国は、この軍国主義に対する安倍政権の態度を指摘しているのです。安倍首相派の大東亜戦争正当化の挑発的言動が、如何に日中韓朝の連帯構築の妨げになっているか、毎日はこのことを、何故指摘しないのでしょうか。ここに毎日のスタンスが透けて見えてきます。
旧ソ連は米国と対抗するため、国内総生産(GDP)の15〜20%を軍事費に充てていたとされる。これが崩壊の遠因にもなった。だが、中国の軍事費はSIPRIの推計でもGDP比2%前後で推移しており、米国やインドよりも低い。なお軍拡の余地を残しているともいえるのだ。
ソ連崩壊の「遠因」こそ、「軍事抑止力」論であることを認めているのではないでしょうか。しかし、「なお軍拡の余地を残している」との指摘こそ、「軍事抑止力」論の立場と言えます。しかも、この指摘は、またGDP比を視れば、中国の「軍事抑止力」は、「発展途上」であるとも指摘しているのです。と言うことは、逆に考えれば、それほど大騒ぎするような状況か、どうか、と言うことでもあるわけです。
ことさら、事を大げさに、「脅威」「危機」を煽る前に、憲法平和主義を持つ国として、また侵略戦争で多大な被害を与えた国として、やることがあるのではないでしょうか。ソ連崩壊の経験、「米国のリバランス(再均衡)政策」の背景を考えれば、日本として何をしなければならないのか、一目瞭然です。しかし、毎日の文章には、その視点は見えてきません。
互いに意図を読み誤り、緊張が高まる事態は避けなければならない。米中間にはそれなりのパイプがある。南シナ海情勢緊迫化を受け、ケリー国務長官が急きょ訪中して習近平(しゅうきんぺい)国家主席や軍首脳部と意見交換したのが一例だが、日中間に十分なパイプがあるとは言い難い。
日中平和友好条約を締結して、今や日本国民の生活にとっても、また中国国民にとっても、日中の経済交流が盛んなことの利点がたうさんあるにもかかわらず、「日中間に十分なパイプがあるとは言い難い」というのは何故か。ハッキリしています!何故、このことを指摘しないのでしょうか。「互いに意図を読み誤」らないためには、安倍政権派の挑発的言動を止めて憲法平和主義を使え!と、何故主張しないのでしょうか。
安倍首相が法案閣議決定後の記者会見で中国が人工島建設を進める南シナ海で米軍との共同行動を取る可能性について問われ、「全く承知をしていないのでコメントのしようがない」と答えたのはいただけない。
「いただけない」のは何故か!全く見えてきません!この安倍首相の言葉こそ、ウソとデタラメとスリカエ、ゴマカシの典型です。何故か。
そもそも「承知していない」ということが「事実」であるとするのであれば、そのような政権で、国民の命と財産、安全安心を切れ目なく守ることが出来る訳がありません!全くの無責任・無能・無策です!
こうした発言が公然と行われるということは、実は、「中国軍の挑発的な行動も目立つ」というのは、安倍政権の「やらせ、泳がせ」政策であるということです。それは「日米安保の強化で中国の膨張に対応しようとすることは理解できる」という指摘に示されています。「日米安保の強化」、すなわち憲法改悪のためにこそ、「中国軍の挑発的な行動」を放置している最大の要因があります。このことを指摘しない毎日のスタンスが浮き彫りになります。
中国の軍拡と軍事挑発を止めさせ、「中国との信頼醸成をどう進めるのか」、「長期的視野に立った対中戦略についても論議」が必要だというのであれば、何をすることが必要か!毎日は語らなければなりません!以下まとめてみました。
1、中国共産党政権が再三再四主張している日本軍国主義へのけじめをつけることです。このことは、「自由・人権・民主主義・法の支配という価値観を共有している」として強調している英米と蒋介石の中韓民国が発したポツダム宣言を履行することでもあります。
2.日本軍国主義の推進の結果つくりだされた非人道行為である「南京大虐殺」と「ヒロシマ・ナガサキ」において、二度と日本軍国主義のような過ちをくり返さないための日中両国政府主催の「アジア不戦の集い」を開催することです。
このことを両国首脳とアジア諸国が集うことで、互いに誓い合うことこそが、日中両国民とアジア諸国民の信頼と連帯と繁栄の最大の保障であるのです。そして、このことを、世界に向けて発信していくことこそが、あの侵略戦争の反省の上に制定された憲法平和主義を拡散していくことです。
3.このことを踏まえて、アジア各地で日本軍国主義の負の遺産である非人道行為を二度と繰り返さない決意を示すことです。
4.このことを前提にして、「軍事抑止力」論ではなく、「非軍事抑止力」論こそが大切な価値観であることを確認することです。このことは軍事に浪費するカネは、非軍事に回す、使うということを拡散することです。
5.このことは、民衆が労働によって創りだす価値は民衆のために使うという思想です。このことが、貧困と差別の温床を克服し、戦争や武力行使や武力の威嚇、テロを防止し、撲滅していくのだということを意味しているのです。このことの理解を拡散していくための政治的、経済的、文化的交流を活発にすることです。
このことこそが、真の「人間の安全保障」論であり、「文明の対話」論の実践、日本国憲法そのものなのです。これが日本国民だけでなく、まして中国国民、アジア諸国民だけの問題ではなく、世界各国の諸民族、諸宗教間、諸宗派にも当てはまる課題と言えます。
毎日をはじめとした日本のテレビや新聞が、こうした立場に立つことを希望したいと思います。